うつわのある暮らしには憧れるけれど、どんなふうに集めていったらいいんだろう……? うつわを手軽に、上手に暮らしに取り入れるためのヒントを求めて、達人たちを訪ねました。
料理家、and recipe 代表。東京都生まれ、兵庫県育ち。フレンチやイタリアンなどの料理人を経て独立。空間や食イベントのプロデュース、レシピ本の著述、メニュー開発など多岐にわたり活躍する。
小さい頃から手を動かして何かを作ることが好きで、料理もそのうちのひとつでした。気がついたらうつわにも興味を持ち始めて、実際にあれこれと買い出したのは20歳ぐらいのときだったかなあ。最初に「欲しい」と思ったのは、アメリカンダイナー的なうつわなんです。当時、料理研究家のケンタロウさんの著書をよく読んでいて、影響されて。
ダイナー、つまりレストランなどで使われるお皿というのはデザイン性と共に「ハードに使える」のがまず、いいところ。丈夫で、欠けや染みなどを気にせず日常的にガンガン使えるのも魅力ですね。うちには20年ぐらい使ってるお皿もあります。一般的にさほど高くないので、まとめ買いしやすいのもいい。
洋食全般に使いやすいのはもちろんですが、大皿の上に小皿やミニカップなんかを料理と一緒に置いて楽しむのにも向いているんです。アルミなどの異素材のものを置いてもハマりやすい。丈夫だから、料理以外の硬いものを置くのにも気にせず使えますね。
今、うつわをよく買うのは日本のショップでは水道橋の「千鳥」さんが多いんです。お洒落な店内で、いるだけでも楽しいですよね。店主ご自身が料理をされる方なので、やはり料理が映える、使いやすいうつわが多く揃う印象です。生活に根付きやすいうつわというか。
日本の作家さんが作るうつわというのは、陶器を始めとしたマットな仕上がりのものが多い(もちろん釉薬をかけて違う仕上がりになるものもたくさんありますが)。それに対して、料理というのは照りを付ける、油脂を含むものをかけるなどしてヴィヴィッドに仕上がる。その対比が華やかさを生む、あるいはデザイン的な造形美を生み出す面白さがあると思っています。
また作家さんによる「一点もの」を買うって、特別感のあることですよね。気に入ったものに出合ったそのとき買わないと、もう買えない。作家さんのものをひとつ持っていると、日常的なうつわが並ぶテーブルの中でワン・アクセントになってくれます。ただナイフやフォークを使うことが多い人は、マットな質感のお皿だと相性が悪いこともわりにある。使ってみたときの感じを想像してから購入したほうがいいかもです。
ナイフやフォークで思い出しましたが、お皿は使い続けることで表情が変わる「経年の良さ」も楽しみのひとつですね。僕は人生ではじめて買ったパスタ皿を今も使ってるんですが、ナイフやフォークを使ったあとが無数に入っていて、それが表情になっている。また備前焼のうつわは使っていくうちに油分がしみ込んで、買ったときには見られなかった柄が出てくる。エイジングの面白さです。漆器類は使っていくうちに艶が出てきますしね。
うつわは「本に近い」な、とも思います。小説など、20代と40代では印象や受け止め方も変わるじゃないですか。うつわにも同様のことを思うときがあって。若いときに好むうつわもあれば、年をとって好きになるうつわもある。見た目や使い勝手だけではない面白さがいろいろとありますね。
白央篤司
フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」がメインテーマ。主な著書に、日本各地に暮らす18人のごく日常の鍋とその人生を追った『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)がある。
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文=白央篤司
撮影=平松市聖