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きらびやかな源氏物語の世界が広がる、京都・西本願寺前の「風俗博物館」

  • 2024年4月7日
  • ことりっぷ


大河ドラマ『光る君へ』で注目を集める平安時代。『源氏物語』を生み出した紫式部も、町へ出たり、貴族のサロンに参加したり、宮中の儀式で舞を舞ったりと、アクティブな姿を見せてくれます。その見どころのひとつともいえるのが、さまざまな装束。京都の「風俗博物館」は、源氏物語に登場するシーンを再現したミュージアム。匠の技で作りこまれた装束や調度品が作りあげる夢の世界を垣間見てみませんか。
「風俗博物館」へは京都駅からバスで約6分の西本願寺前で下車すぐ。駅から歩いても20分足らずの距離です。
博物館を運営する母体は、江戸時代創業の井筒グループ。法衣店として始まり、今も装束や調度品を全国の神社や仏閣に納めています。もしかすると、お祭りやイベントで知らず知らずのうちに井筒の装束を目にしているかもしれませんよ。
博物館がオープンしたのは、ちょうど今から50年前の1974年。もともとは、縄文時代から近代にかけての服飾の歴史を等身大の実物で展示する内容でした。源氏物語がメインになったのは、1998(平成10)年のことです。
博物館というと、収蔵品を展示するのがふつうですが、こちらでは展示の内容を決めてから、さまざまな資料を基に具体的な装束、調度品を企画。職人が細部までていねいに仕上げ、実物の1/4サイズで表現しています。
エレベーターを降りるとお香がふわりと漂います。展示は定期的に変更されますが、いずれもが『源氏物語』からの印象的な場面。この日は、第四十帖「御法(みのり)」のワンシーンが繰り広げられていました。
源氏51歳、紫の上43歳の春、死期が近いことを悟った紫の上は、幼い頃、源氏と暮らした二条院で法要を営みます。その様は何もかもが盛大で、極楽浄土のようだったと描かれています。
御殿の左に座る白い装束の人物が源氏です。直衣(のうし)という日常着に身を包んだ姿は、リラックスをして法要を楽しんでいるのかもしれません。それとは逆に、身分が下の者たちは束帯(そくたい)という勤務用の服を着ています。
華やかな法要の御簾の奥では、源氏ゆかりの女君も法要に参加していました。紫の上は、花散里の御方や明石の御方へ、歌を贈りそれとなく自分の死期が近いことを伝えます。
紫の上は、紫の唐衣(からぎぬ)に、濃さの異なる表着(うわぎ)や五衣(いつつぎぬ)を重ねた姿。その名の通り、紫のグラデーションが雅な雰囲気を醸し出しています。当時、様々な規定があった男性の服装に比べ、女性は比較的自由だったそう。それでも、あの藤原道長が倹約令を出し、華美になりすぎるのを抑える必要があったのだとか。
こちらは、第三十四帖「若菜上」から、源氏の娘であり東宮妃となった明石の女御が、出産のため六条院に宿下りした場面。無事、誕生した皇子を抱き上げ、出産から7日目の産養(うぶやしない)という儀式にのぞんでいます。
出産で命を失うことも多かった平安時代。出産の無事を願い、物怪を遠ざけるため、産室は畳の縁にいたるまで白に改められ、出産を手伝う女房たちも白い装束を着る習慣があったそうです。
平安時代の装束といえば、四季を映す色の重なりがポイント。物語の中でも、源氏がゆかりの女性に新年の装束を選ぶ場面があります。
襟元や袖口に表れる色のグラデーションは、今の感覚で見ても斬新で鮮やか。春の梅から始まり、桜、菖蒲、白撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)など、名を聞くだけでも素敵な色目を目にすることができます。
男女が顔を合わせる機会が少なかった当時、趣味の良さを相手に伝える手段のひとつが香でした。いくつかの香を合わせて、その人らしさを出したといいます。物語中でも、残り香で恋しい人を思ったり、いくつかの香を比べて優劣を競う雅な遊びの様子が綴られています。
装束や香も大切な身だしなみでしたが、平安美人の条件というと黒く長く美しい髪。物語の中でも、容姿は優れていなかったものの髪だけは長く豊かであった末摘花(すえつむはな)や、髪の毛の衰えが目立つ花散里に、髢を付ければよいのにと源氏が思う場面があります。
大河ドラマで、主人公のまひろが、左大臣家のサロンで独り勝ちした平安の遊びが「偏(へん)つぎ」でした。偏と旁(つくり)に分かれたカードを使った遊びで、2枚のカードを合わせて文字を完成させたりする遊びです。小さな札に端正な文字が施され精巧に再現されています。
華やかな王朝文化の世界にため息がこぼれそうな「風俗博物館」。小さな人形に1枚1枚衣を重ねて作り上げられた世界は、まるで装束が人形たちに命を吹き込んでいるかのようです。装束や平安時代の暮らしを知れば、ドラマがより楽しめるかもしれませんね。

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