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金沢・東山のはずれにある町家カフェ「豆月」で、滋味深い豆の味にほっこり

  • 2023年1月3日
  • ことりっぷ


紅殻格子の茶屋が並ぶ、金沢随一の観光地・ひがし茶屋街。そのひがし茶屋街を有する金沢市東山は観光地でありながら、少し歩けば古くからの住宅も立ち並ぶ、商いと暮らしが共存する地域です。多彩な豆の味わい方を提案する「豆月(まめづき)」は、茶屋街から少し離れた住宅街との間に位置するカフェで、観光客から地域住民まで広く愛されています。
店主の北出美由紀さんは東京都出身。一級建築士の夫・北出健展さんと共に神奈川県大磯から移住しカフェを開業しました。移住や開業にあたってカギとなったのは店舗兼設計事務所として購入した、小さな町家との出会いだったといいます。大磯で借りていた日本家屋での暮らし方が理想的だった二人は、そのような暮らしを求めて物件を探しているうちに町家保存の取り組みが活発な金沢にたどり着いたとか。
築80年が経った東山の建物は、内見時にはかなり古びた印象だったと美由紀さんは思い返しますが、現在では健展さんの手によって改修され、情緒ある趣を残したまま美しく生まれ変わっています。坪庭や茶室、床の間といった、日本古来の暮らしの設えが自然な形で取り入れられていて、こぢんまりとした空間に流れる町家ならではの落ち着いた空気も二人の思う理想のひとつなのかもしれません。
豆をテーマとして店を営む「豆月」。常時15種類ほどの豆を備え、その中から旬の食材と合わせてスイーツやスープなどを提供しています。中でも同店の代名詞「黒豆かん」は、美由紀さんが幼少期に暮らした北海道の地で、祖母が炊いてくれた黒豆の味を元に作られたもの。黒豆はあえて硬めに炊かれ、枝豆のようなコリッとした食感が新鮮に感じます。ふっくらと炊かれる一般的な黒豆煮とはまた違い、艶やかな寒天ともぴったりです。
食事時に訪れた際は、週替わりの「豆スープ」がおすすめです。この日は五郎島金時と大正金時豆のスープをむかごご飯と合わせて。食材の味を生かしてつくられた、あっさりとした味わいの漬物や和え物が付いてきます。スープは週替わりと言っても全く同じメニューを繰り返すことは基本的になく、開業以来かなりの数を作られてきたそう。豆の幅広さを感じるとともに、何度も訪れたくなる嬉しい仕組みです。
滋味深い豆の風味を味わうもう一品が「四色福豆しるこ」。厳選された4種類の国産豆を使用し、地元でつくられる杵つきの焼き餅と合わせていただきます。豆は豆は大正金時豆、うずら豆、大手亡豆、北海道産の小豆を使用。圧力鍋を使わずにゆっくりと時間をかけて炊かれます。甘い余韻がほんのりと残るふくよかな味わいで、北陸の寒い時期に、心も身体も温まる一品です。
元々器好きだという北出さんご夫妻。大磯に居た頃には器のイベントも開催されていたそうです。同店で使用されている器の多くは工芸作家のもの。石川に限らず全国各地の作家の器をお客様にもお楽しみ頂けたら、と話します。「豆月」の器使いは、派手さはなくとも静かな美しさがあり、美由紀さんご自身が料理と器の取り合わせを楽しんでいるのが伝わってくるようです。
訪れた際には、こぢんまりとしたサイズ感に、少し驚くかもしれません。しかし美由紀さんはこういった暮らし方が自分たちの“身の丈に合っている”と表現します。空間を建築の力で最大限に活用し、その中で土地の文化に親しみ、手間ひまをかけて料理を作る。「豆月」で寛ぐ時間は、そんな美由紀さんの丁寧な毎日を少しだけ覗かせてもらっている、そんな気分になるのです。

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