名島団地内のやや奥まった場所に位置する「グッデイさん家」。「どこでもドア」風のフォトスポットが目印。
昭和30〜40年代の高度経済成長期から今にいたるまで、日本各地で多くの家族が生活を営んできた「団地」。現在では、設備の老朽化や空き家問題を解決するべく、全国でさまざまな取り組みが行われています。九州大学箱崎キャンパス跡地の再開発に期待が集まる福岡市東区でも、「ホームセンター×団地」という異色のプロジェクトが始まっています。
団地の一軒家が「DIYのコンビニ」に!昭和50年代に1号店がオープンしてから今にいたるまで、福岡のDIYシーンを牽引してきたと言っても過言ではないホームセンター「グッデイ」。福岡に住んだことのある人なら、一度は足を運んだことがあるのではないでしょうか。そんなグッデイが2024年9月、福岡市東区にある名島団地の敷地内にくらしサポートセンター「グッデイさん家」をオープンしました。
訪れてみると、現れるのは完全に普通の一軒家。「団地なのに、なんで一軒家が?」と不思議に思いますよね。この物件は団地の敷地内にもともと建てられていた家で、空き家になった数年前から維持管理や活用のしかたについて検討が重ねられていたのだそう。
DIY製品と日用品に加え、駄菓子もならぶ「グッデイさん家」。
DIYのコンビニエンスストアのような品揃えでありながら、昭和の駄菓子屋さんを彷彿とさせる「グッデイさん家」。グッデイのベテラン社員である佐瀬さんが「家主」となり、名島団地に住む人たちの「生活の困りごと」を解決するため、さまざまな製品やアイデアでサポートしてくれます。
くらしサポートセンター「グッデイさん家」はどのように誕生し、なぜここまで愛されるようになったのでしょうか。福岡県住宅供給公社の井上さん、グッデイ広報の島村さん、「グッデイ団地プロジェクト」担当の塚本さんにお話を伺いました。
築50年の団地に活気を生み出すDIY12棟330戸の名島団地。建物の間隔が広く、開放的な敷地内。
築50年を超える名島団地は、全国の他の団地と同様、住民の高齢化や空き家問題などに直面しています。それらの問題を解決し、地域コミュニティを活性化するため、ホームセンター「グッデイ」と福岡県住宅供給公社がタッグを組み、2023年の秋、「グッデイ団地プロジェクト」が始まりました。
リノベーションルームの玄関ドアには「グッデイ団地プロジェクト」のロゴが。
「エレベーター付きの集合住宅と違い、階段のみの団地は4階以上の居室の借り手が少なく、入居率が低下しています。小さなお子さんがいるような若い世代の家族にも入居してもらうため、以前から『DIYが可能な賃貸物件』と打ち出してはいたものの、なかなか浸透しない、という状況でした。そこで、グッデイさんに力を貸していただくことになったんです」(福岡県住宅供給公社・井上さん)
リノベーションは床と壁のみ。天井や建具はそのまま使われている。
最初のプロジェクトは、2つの居室のリノベーション。ほぼ同じ間取りの2室が、DIYでまったく違う雰囲気のお部屋に生まれ変わりました。この2室はDIYモデルルームとして、またワークショップ用のスペースとして活用されています。
DIYで和テイストなプロヴァンス風に生まれ変わった団地の和室。訪れた人も思わずくつろいでしまうとか。
リノベーションを担当したのは、グッデイのスタッフさんたち。「ホームセンターの社員とはいえ、中にはもちろん『DIYしたことないです』というスタッフもいまして(笑)。初心者がペンキ塗りに失敗したり、貼った壁紙も微妙にシワが残ったりしたとしても、それもDIYの『味』なんですよね。『完璧にキレイにしなくてもいいんだ』と思ってもらうことで、DIYに対する心理的なハードルを低くしたいんです」(グッデイ団地プロジェクト担当・塚本さん)
DIYの良さを、実際に見て触って実感できる「グッデイさん家」入り口のウッドデッキは、グッデイスタッフによるDIY。
団地に住む人々のDIYやセルフリノベーションをサポートするため、「グッデイさん家」では、DIY関連製品を販売するだけでなく、電動工具の貸し出しサービスも提供しています。
「高齢者の方にとって、『このスキマに置く棚が欲しい』という明確な希望があっても、それをインターネットで検索して注文して、というところまでは、なかなか辿り着けないんです。そんなとき『グッデイさん家』に相談してもらえたら、『こんな製品がありますよ』『この工具で作れますよ』とご案内できます。DIY用の作業スペースもあるので、作り方も教えられるんです」(グッデイ団地プロジェクト担当・塚本さん)
DIYモデルルームには、実際に使用したDIY製品も展示されている。
DIYモデルルームで見たアイデアを自宅でも実現するために、「グッデイさん家」で家主の佐瀬さんに相談する、という流れが、「実はグッデイとしてもありがたいんです」とグッデイ広報の島村さん。
「ホームセンターに並んでる製品って、パッケージだけだとその良さや魅力が伝わりにくいものが多いんです。自分でも、DIYモデルルームで実際に使われているところを見て『え、意外と良い!』と思うことが結構ありました(笑)。『購入する前に、製品の質感や使用感を見てみたい』というお客様の要望にもこたえられる場所になっています」(グッデイ広報・島村さん)
ダイニングテーブルセットもDIY。作り方のコツも教えてもらえる。
DIYモデルルームが好評を博し、さまざまなフィードバックを得たことで、今年から新たなプロジェクトも始動しているそうです。
「『DIYが可能な賃貸』だけだとあまりメリットして感じてもらえないことが分かったので、『少しだけDIYされた賃貸』を5部屋つくる予定です。DIYを完全なゼロから始めるよりも、すでに壁が塗装されていたり、収納棚ができていたりする方が、『ここからさらに自分好みにしたい!』という気持ちでDIYを楽しんでもらえるんじゃないか、と考えています」(福岡県住宅供給公社・井上さん)
これからの「団地」と「暮らし」を考えるDIY未経験のスタッフも、プロジェクトをきっかけにどんどん成長していったそう。
グッデイ団地プロジェクトが始まってから実際に入居率も向上、「グッデイの皆さんのキャラクターや、周囲の人を巻き込む力に助けられています」という福岡県住宅供給公社の井上さん。この盛り上がりを、他のエリアにも広げていきたいといいます。
「団地には、いまそこに住んでいる人の『暮らし』があります。建物が古くなったからといって、簡単に取り壊して新しい建物にする、ということはできません。入居者を増やし、団地に活気を取り戻すことで、住民の皆さんの暮らしをより良いものにしていきたいと考えています」(福岡県住宅供給公社・井上さん)
お子さん向けのワークショップはいつも盛況!
グッデイの塚本さんは、プロジェクトを通して「地方に住む子どもたちの未来」にも目を向けています。
「名島団地で育つ子どもたちがDIYを身近に感じてくれて、『モノをつくるって楽しい!』と思ってくれるとうれしいですね。グッデイさん家では子ども向けのワークショップも開催しているんですが、お子さんは、一緒に参加した親御さんから『こういうの得意だよね!』とか『手先が器用だね』とか、そういう言葉をかけられながら、未来の自分のイメージを膨らませていると思うんです。ワクワクできる将来の選択肢を、もっと増やしてあげたいですね」(グッデイ団地プロジェクト担当・塚本さん)
DIYを通して、世代を超えたつながりが生まれ、地域が明るく発展していく。そんな団地の未来を描くプロジェクトに、これからも注目です!
information
くらしサポートセンター「グッデイさん家」
住所:福岡県福岡市東区名島3丁目20-2
開催期間:〜2025年3月18日(火)
営業時間:09:30〜16:30
定休日:水曜・木曜
Web:グッデイ団地プロジェクト(福岡県住宅供給公社)
writer profile
Haruko Sato
佐藤 はるこ
さとう・はるこ●福岡生まれ、福岡育ち。成人してから引っ越した回数は10回以上。日本各地を移動しながら、2010年からフリーランスのライターとして活動。建築、都市、まちづくりに興味あり、音楽やアートの話が好き。人から話を聞くのがとても好き。