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長崎・五島うどんの製麺所が手がける、オーシャンビューのダイニングが誕生

  • 2024年4月1日
  • コロカル
五島列島で唯一、塩から手づくりするうどん製麺所〈虎屋〉

長崎の西方、大小140以上の島からなる五島列島。豊かな海と緑に囲まれた自然の宝庫であり、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」をはじめとする歴史文化や、五島うどんや魚介類など「島グルメ」でも知られています。

空路による直行便がないため、福岡県や長崎県の港から「船の島旅」を楽しむ人が増えているのが中通島の新上五島町。五島列島の玄関口ともいわれ、長崎港から高速船に乗れば約1時間43分で上五島の有川港に渡ることができます。

〈虎屋〉は有川港からほど近い、五島うどんの製麺所です。うどんづくりに欠かせない「塩」から手づくりしているのは、五島に数あるうどんメーカーのなかでも〈虎屋〉だけ。

1986年に犬塚虎夫さんが製麺所として創業し、1997年には塩づくりをスタート。7人の子どもたちとともにうどんと塩づくりに励む暮らしは、ドキュメンタリー映画『五島のトラさん』として公開されました。

現在、のれんを受け継ぐのは娘の南こころさんと、夫の慎太郎さん。主に塩づくりは慎太郎さん、うどんづくりはこころさんが担っています。

南慎太郎さん(左)、こころさん(右)夫妻。

南慎太郎さん(左)、こころさん(右)夫妻。

慎太郎さんは島の漁師から譲り受けた魚網を再活用して塩田をセルフビルドし、環境負荷の少ない廃油燃料装置を開発して海水を焚いています。

「僕自身が五島の海に育てられてきたので、海にも山にもできるだけ負担をかけたくない。つくる人も食べる人も安心できる塩づくりをしたいんです。この塩を使うと、うどんのコシも香りも際立ちます」

深い味わいと甘みを引き出した一番塩〈まあるい塩〉。

深い味わいと甘みを引き出した一番塩〈まあるい塩〉。

「何もなか島」じゃない! 食べる人もつくる人も幸せになるダイニング

五島名物の地獄焚き(釜揚げうどん)や島の素材を味わってほしいという思いから、慎太郎さんとこころさんは3年前に〈島ダイニングとらや〉を上五島町の飲食店街にオープンしました。店は賑わったものの、慎太郎さんは「ここじゃない」というもどかしさを抱えてきたそう。

「やっぱり、海と空が見られる場所でないと!五島の四季のめぐりを感じながら海や山の幸を味わう豊かさを伝えたくて。島の人たちが“何もなか島”と言うのがずっと悔しかったんです」

1年前、慎太郎さんはついにダイニングの移転を決意します。こころさんと結婚して隣の集落から引っ越して22年、すっかり惚れ込んだ似首(にたくび)郷の海と空が見える場所へ。かつて創業者の虎夫さんが、「いつかここに製麺所を」と願った地でした。

「ダイニングも塩田も、塩とうどんの工場も、海のそばに集結させました。みんながこの海を大切にしながらつくっているところを、島内外のお客さまに見てもらいたいんです」

ダイニングのそばに移転させた塩田。

ダイニングのそばに移転させた塩田。

念願かない、3月15日に移転リニューアルオープン。事前に島の生産者仲間や地域の人たちを招待したところ、2階のオーシャンビューを見た瞬間に「ほんとに自分たちが暮らしてる海?」と言葉を失ったそう。

17日のオープニングイベントの餅まきには、島の住人たちを中心に300人近くの人が集まりました。

慎太郎さんと安納芋の生産者仲間たちが「お祝いに楽しいことをしよう」とひょっとこ踊りを披露してから餅まき。

慎太郎さんと安納芋の生産者仲間たちが「お祝いに楽しいことをしよう」とひょっとこ踊りを披露してから餅まき。

「この島で生きてきて、あんなに大勢の人を初めて見ました。隣の集落で60年以上暮らすおじいさんが『初めて峠を越えて似首に来た』と言ってくれたのには驚きましたね」

光や風が刻々と変わる海の眺めとともに、ゆでたての五島うどんや目の前でとれた魚を味わう贅沢さに歓声が続々。

「『塩ってこうやってつくるんだね』と工房をのぞきこむ親子を見て、ああ、僕がやりたかったことが全部つながったなあと。日々ここで働くみんなも大家族みたいで楽しそうですよ」

お客さまとスタッフの笑顔あふれるダイニングを見たこころさんも、「私たち、ついにやっちゃったね」と感極まりました。

1階はショップ。2階のダイニングからは絶景が見える。

1階はショップ。2階のダイニングからは絶景が見える。

建築デザインは、古民家調や離島リゾート風ではなく、あえて「似首郷にマッチしないデザイン」をオーダーしました。できあがったのは、白壁と広い窓で構成されたシンプルモダンな空間。「海のそばに白い建物が立つ姿に『何ここ?』というギャップを感じてから、2階に上がった瞬間の風景にガッと揺さぶられてほしい」と慎太郎さんは笑います。

昔ながらの炭火で焼いたあご(飛魚)のだしで食べる五島うどんは、ダイニングならではの名物。

昔ながらの炭火で焼いたあご(飛魚)のだしで食べる五島うどんは、ダイニングならではの名物。

海鮮丼(土日限定)も人気ランチメニュー。

海鮮丼(土日限定)も人気ランチメニュー。

うどんと塩の〈虎屋〉がなぜ「パン」?〈TORAPAN〉誕生

〈しっとり、さつまいも食パン〉は島内で予約完売、通販は順次開始予定。

〈しっとり、さつまいも食パン〉は島内で予約完売、通販は順次開始予定。

〈島ダイニングとらや〉の移転と同じタイミングでデビューしたのが、新しく立ち上げたパン事業〈TORAPAN〉。

五島うどんの材料として不可欠な小麦粉と、目の前の海で汲んだ海水の塩、島で収穫された安納芋を眺めるうちに慎太郎さんはひらめいてしまったそう。

「この素材を使ったら島のパンがつくれるんやない?」

さらに、慎太郎さんの背中を押したのは、子どもの頃から通っていた老舗のパン屋さんが店を閉めるというニュース。

「実は、こころさんのおばさんが営んでいたお店なんです。立て続けに3軒のパン屋さんが閉店することになって、島のパン屋さんが無くなってしまうのは寂しくて」

閉店するパン屋で長年働いてきた職人さんを工房に迎え入れ、食パンを専門にする開発者の指導を受けながら、試行錯誤すること半年。〈TORAPAN〉第1弾、島の生産者仲間が育てる安納芋を使った〈しっとり、さつまいも食パン〉が完成しました。

島の土と太陽に育まれた甘み濃厚な安納芋と塩が織りなす、金のマーブル!

島の土と太陽に育まれた甘み濃厚な安納芋と塩が織りなす、金のマーブル!

「『この島には虎屋っていううどんと塩の工房があって海と空が見えるダイニングで島グルメも焼きたてパンも食べられるよ』って、みんなが友達や島外の人を連れてきて五島のいいところを語ってくれる。四季折々に島を旅する人の流れができればいいなあと。島で暮らしたい人の働く場にもなれば、なおうれしいですね」

慎太郎さん・こころさん夫妻のとめどない五島愛から、人と島が出会うあたらしい風景が生まれつつあります。

有川湾から眺めるゲンゴロウ島。

有川湾から眺めるゲンゴロウ島。

information

島ダイニングとらや

住所:長崎県南松浦郡新上五島町似首郷787-17

電話番号:0959−54−1056

営業時間:ランチ11:00〜14:00/カフェ14:00〜16:30(16:00 L.O.)

定休日:火曜

アクセス:福岡空港−長崎駅−長崎港(高速バス約2時間30分)長崎港―有川港(高速船約1時間43分)

料金:五島うどん720円、海鮮丼1350円(土日限定)、TORAPANハニーブレッド850円、TORAPAN(通信販売は1000円、送料別)など

Web: 五島うどんと五島の海塩|株式会社虎屋

Instagram: 株式会社虎屋

writer profile

Ayaka Masai

正井 彩香

まさい・あやか●兵庫県生まれ、福岡県在住。ライター歴20年以上。きのこと本が好き。地域の食や手仕事やまつりをつなぐ人の消えゆく声、名もなき人の暮らしを聞き書きしています。今日も追いかけて旅から旅へ。

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写真提供:株式会社虎屋

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