過去最長・7年継続中の「黒潮大蛇行」が終息か? 漁業や気象への影響は

  • 2025年5月22日
  • ウェザーニューズ

2025/05/22 05:00 ウェザーニュース

気象庁は5月9日、紀伊半島から東海沖の黒潮大蛇行が5月8日現在みられなくなり、この状態が持続して大蛇行が終息する兆しがあると発表しました。

今回の黒潮大蛇行は2017年8月から過去最長7年9か月続いたもので、カツオやシラスなどの漁業や船舶の運航、気象など、私たちの生活への影響も見逃せません。

「黒潮親潮ウォッチ」で黒潮流路の変化とその予測について情報発信を行っている、海洋研究開発機構・アプリケーションラボの美山透主任研究員に、発生のメカニズムや影響など詳しく教えていただきます。

過去最長で続いた黒潮大蛇行

黒潮が大蛇行するとは、どういう現象でしょうか。

黒潮とは、東シナ海から日本列島の南岸に沿って北上する暖流です。透明度が高いため、沖を流れる海流が黒っぽい色にみえることから黒潮と呼ばれています。

「黒潮は、強い流れは幅100km深さ1000mにも及ぶ、世界最強の海流の1つです。

流速は速いところで毎秒2.5m以上に達しますが、これは自由形競泳世界記録保持者でも逆らっては泳げない速さです。運ぶ水の量は、季節や場所によっても変化しますが、約毎秒2000〜5000万tで、世界最大の河川アマゾン川の100倍以上になります。

ところが、黒潮と本州の間に冷水塊(渦)がはさまり、黒潮がまっすぐ流れることができずに、大きく迂回してしまう、これが黒潮大蛇行です」(美山さん)

今回の黒潮大蛇行は2017年8月から始まり、過去最長7年9か月続きました。

「2017年8月紀伊半島から東海沖で南に大きく離岸して流れ、大蛇行が始まりました。大蛇行の形は渦によって変化し、複雑な動きをみせながら続いていました。

例えば、2020年10月には大規模に渦がちぎれ、黒潮が紀伊半島に近づいて蛇行は大幅に縮小しました。

一時は大蛇行終息かと思われたのですが、その後、ちぎれた渦が西に移動して、九州付近で黒潮にくっつくことで、蛇行は東に進む形で再発達しました。結局一時的な中断に終わり、その後も大蛇行は続いたのです」(美山さん)

「今年になって、黒潮大蛇行に大きな変化がありました。

2月と4月に冷水塊が南でちぎれ、黒潮と本州の間の冷水域が縮小し、黒潮の蛇行幅が小さくなったのです。大蛇行といえるような蛇行は見られなくなりました」(美山さん)

「このままの状態が持続されれば、黒潮大蛇行は終息ということになります。ですが2020年のような例もあるため、蛇行が再発達しないか、ちぎれた渦がどう動くか注目しています」(美山さん)

漁業・気象に与える影響?

黒潮大蛇行が問題となるのは、漁業などへの影響が大きいことです。

「日本列島周辺の豊かな環境は、海流のダイナミックな動きにより生まれたものです。

黒潮に乗って、カツオやマグロなどの暖水性の魚がやって来ます。千島列島沿いに南下して栄養豊富な冷たい水をもたらす親潮とぶつかることで、亜寒帯から亜熱帯までの生き物が生息する、世界でも有数な漁場となっています」(美山さん)

しかし、黒潮大蛇行が起きると、黒潮が本来とは違ったルートを流れると、海水温分布が影響を受け、沿岸漁業の漁獲量が変化することがあるのです。

例えば、2017年にはシラスの不漁、2018年春にはカツオの漁場の南下が話題となりましたが、漁獲量に変化が出ているとされるのがブリやカンパチ、クロマグロ、キハダ、カツオなど。

ワカメやヒジキ、テングサなど海藻類の生育の変化や2018年冬のサンゴの大量死、東京湾でしばしばクジラがみられることとの関連も指摘されています」(美山さん)


天候などにも変化をもたらします。

「暖流である黒潮は大気に熱と水蒸気を供給しており、日本を湿潤で雨が豊富な環境としています。

しかし、黒潮大蛇行により関東・東海沿岸で盛んに水蒸気が供給されることで、関東・東海で湿度が上がり、気温が上昇することがわかってきました。記録的猛暑に黒潮大蛇行が要因の1つとされたり、大雨の増加や、対流が活発になることで雷が増えることも指摘されています。

また、2018年1月22〜23日未明に東京で20cmの積雪があったなど、黒潮大蛇行が発生すると南岸低気圧により東京で雪が降りやすくなるという研究もあります。

ほかに、黒潮大蛇行では東海から関東地方沿岸へ暖水が流入しやすくなり、静岡沿岸で潮位が高くなることがあります。台風発生時などに、高潮・高波が起こりやすくなります。実際、2017年台風 21号や2019年台風19号による清水(静岡県)などでの高潮被害には黒潮大蛇行の影響があったと考えられています。

黒潮の強い流れは、江戸時代には『黒瀬川』と呼ばれて恐れられていたほどでしたが、現在でも海難事故の元となりうるものです。

黒潮の流路が変われば、船舶の運航コースも変更しなければなりません。ほかにも、海の透明度が変わることでダイビングなどのマリンレジャーへの影響も考えられます」(美山さん)

地球温暖化で海の環境が変化している!?

黒潮大蛇行は今後も発生するのでしょうか。

「1965年以降、黒潮大蛇行は今回を含めて6回発生しています。黒潮大蛇行はいったん始まると1年以上継続し、影響が長期化するという特徴があります。今回はその中でも異常に⻑く、7年9か月にも及びました。

地球温暖化により、黒潮の動力源になっている太平洋の風が変化して、黒潮大蛇行が発生、⻑続きしやすくなっているのではないかと心配しています。

温暖化によって、海水温が上昇していることによる影響も懸念されます。特に日本近海の平均海水面の温度上昇率は100年当たり+1.24℃と、世界平均+0.6℃より大きく、水温が変化しにくい海域でこれだけの変化があるのは、際立っています。

黒潮の温暖化により、大気への水蒸気の供給が増えて雨が降りやすくなったり、水温が高く保たれることから台風が発達しやすくなったりする可能性があります。海の生態系の変化も、もちろんあるでしょう。今後も、さらなる観測が必要と考えています」(美山さん)

今回の黒潮大蛇行が終息するかを含め、私たちの生活を支える海や環境がどのように変化していくのか、引き続き注目されます。


ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。





参考資料
JAMSTEC「黒潮親潮ウォッチ」(https://www.jamstec.go.jp/aplinfo/kowatch/)、気象庁報道発表資料「7年9か月続いた黒潮大蛇行が終息する兆し」、美山透「変わりゆく海洋環境: 黒潮大蛇行と温暖化」(消防防災の科学2023夏号)

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