
新年度は通常よりも人で溢れかえる通勤電車。あの人たちはどこへ消えていくのだろうか? / ふみん(@huuuminging)
「月刊アフタヌーン」の四季賞で佳作を受賞し、新人漫画家として商業誌で読切を描いているふみん(@huuuminging)さんは、人間が抱えている繊細な感情や内面を表現する描写を得意としている。
今回紹介する「春の行方」は、2023年4月にpixiv月例賞の優秀賞を受賞した作品で、物語は春の通勤電車のワンシーンから始まる。新入社員らしき若者たちも乗り込んでいる春の電車は、いつもより少し混んでいて、さまざまな感情を抱えた人たちで揺れていた。本作について作者のふみんさんに話を伺ってみた。
■「ナイフみたいに鋭く刺さった」読者からの声が続々届いた作品
春の行方_P002 / ふみん(@huuuminging)
春の行方_P003 / ふみん(@huuuminging)
新年度は通常よりも人で溢れかえる通勤電車。あの人たちはどこへ消えていくのだろうか?
本作は春の電車の車内で主人公は自ら新入社員だった頃を思い出すストーリー。同期のつぶやきに答えながら、ストーリーが展開していく。本作を描いたきっかけは「春は気候も暖かくなって新しい生活が始まり、希望にも溢れているのにどこか物悲しい季節…。でもいつの間にか気づいたら、春は消えて初夏になっている。その刹那を記録したかった」と語る。
読者へ伝えたいことを聞いたところ「伝えたいことはあまり意識して描いてないんです。春の空気感と感情の記録です。春に読んで消えていく時間の流れを惜しんで愛しんだり、春が思い出せない季節に読んで記憶を手繰り寄せるのもいいと思います」と教えてくれた。
作中で出てくるセリフで「どこに消えるんやろ」「溶けちゃうんだよ」というやりとりが印象的だ。込めた思いについて聞いてみると「現実では劇的にドラマのような出来事が起こらなくても、日常は否応なく流れていく、感情も同じようにぼやぼやしていって日常の中に溶けてしまう。何もかもが押し流されていく。そういう日常を積み重ねていくうちに“自分の内なる嵐”に翻弄されない大人になっていくのかなという想いを、漫画に込めて描きました」と話す。
ドラマのような劇的なことが起こらなくても、ただただ過ぎていくだけの日常でも、その日々を愛しく思えたら幸せなのかもしれない。読者からは「すごく共感します」「この解決も悪化もしないで、ただただ続いていく感じリアルよな…」「ナイフみたいに鋭くて読んでてつらいけど、控えめに言って良作」「そういう感覚、すごく覚えがあります(現在27歳)」という感想が相次いだ。ぜひ一読してみてほしい。
取材協力:ふみん(@huuuminging)