
2022年のドラマ「やんごとなき一族」で強烈なキャラを演じて大ブレイクし、2024年は「西園寺さんは家事をしない」「わたしの宝物」と2クール連続で主演を務め、映画「はたらく細胞」では人気キャラクターのマクロファージを演じた松本若菜さん。最新出演作の映画「室町無頼」では、高級遊女にして女無頼の芳王子(ほおうじ)役に挑戦。本作の撮影秘話や、主演の大泉洋とのエピソード、さらに今後挑戦したいことなどを語ってくれた。
高級遊女にして女無頼の芳王子を演じた松本若菜さん / 撮影=三橋優美子
■芳王子を演じるうえで意識していたのは「凛とした女性に見えること」
――日本の歴史において、初めて武士階級として一揆を起こした室町時代の人物・蓮田兵衛と、彼の元に結集した「アウトロー=無頼」たちの知られざる闘いを描いた本作のオファーを受けた時はどんな心境でしたか?
【松本若菜】本作を手がけた入江悠監督のファンだったので、お声をかけていただけてすごくうれしかったです。出演のきっかけを作ってくださったのが実は大泉洋さんで、「芳王子役に松本若菜さんがいいんじゃないか」と推薦してくださったそうです。その意見に入江監督も賛同していただいたことで出演が決まったので、お二人の期待にしっかりと応えないといけないという気持ちでいっぱいでした。
――高級遊女にして女無頼の芳王子を演じるにあたり、どのようなことを意識されましたか?
【松本若菜】常に意識していたのは“凛とした女性に見えること”でした。というのも、芳王子は堤真一さん演じる道賢に啖呵を切るような気の強いところがありながら、その反面、愛情深いところもあるんです。なので“凛としたイメージ”を大事にしました。
それから、芳王子は室町時代に高級遊女として成り上がった人なので、内面の強さみたいなものも大切にしていました。すごく魅力的で素敵な女性なので、お客さまにもそういう風に感じていただけたらいいなと思いながら演じました。
【写真】松本若菜さん演じる、高級遊女にして女無頼の芳王子 / (C) 2016 垣根涼介/新潮社 (C)2025「室町無頼」製作委員会
――入江悠監督のファンでらっしゃったということですが、入江作品のなかでも特に好きな作品を教えていただけますか。
【松本若菜】「SR サイタマノラッパー」を最初に観たときの衝撃は忘れられないです。“この映画を撮った方はどんな方なんだろう”と長年思っていて、今回お会いしてみたらやはり作品に対する熱量がものすごく高く、映画を本当に愛していらっしゃるんだなと感じました。
――念願の入江組に参加してみていかがでしたか?
【松本若菜】道賢に対して啖呵を切るシーンで、芳王子が物怖じしない強さを示していく姿を、監督がカメラワークを何度も調節しながらすごくこだわって撮っていた印象があります。
芳王子が手であらゆる場所をバンバン叩きながらしゃべっていますが、あれは監督が「好きなように叩いてください」と仰ったので、段取りで“ここは叩けるかな?よし叩こう”みたいな感じで確認して(笑)。本番ではあちこちを思い切り叩きながら演じたので、ぜひチェックしていただきたいです。
――監督から何かリクエストはありましたか?
【松本若菜】脚本や台本をいただく前のプロットに登場人物のキャラクター設定が記載されていて、「芳王子は菩薩。慈悲に満ちている。すべての人間を愛し、神に近いような目線で周りを見ている」と書かれていたんです。
それで監督に“菩薩”と書いた意図を確認したら、「芳王子は情勢に巻き込まれる一人ではあるけれども、そこに精神がすべて持っていかれるわけではなくて、静かに世を見守っている女性であってほしい」と仰られたので、その言葉を意識して演じるようにしていました。
――成り上がってきた強さと、高級遊女らしい艶やかさのバランスはどのように調整しながら演じられたのでしょうか。
【松本若菜】啖呵を切ったあと、コロっと変わって「せっかく来ていただいたんですから」と道賢の胸元に手を持っていく芳王子の姿を見ると、“この人は一体何を考えているんだろう?”と思いますよね。そういうちょっと天邪鬼なところが彼女の魅力でもあるので、そこの切り替えははっきりと見せられるように意識していました。
■大泉洋さん演じる兵衛は“人たらしの色男”「芳王子も惚れるべくして惚れたんだろうなと思いました」
――本作で挑戦できたと思ったことがあれば教えていただけますか。
【松本若菜】おなかが見える衣装を着たのは、自分にとって大きな挑戦でした(笑)。女性誌の撮影でおなかが見える衣装を着る機会はありますが、それはシャッターを切る瞬間にぎゅっと引き締めればいいわけで、今回は映画の撮影なので摂生しなければいけないなと思って準備しました。
ただ、痩せすぎてもよくないですし、逆に芳王子がムキムキなのもちょっと違うので(笑)、肉感はあるけど引き締まっているような体づくりを目指して頑張りました。
――芳王子は大泉洋さんが演じる兵衛と、堤真一さんが演じる道賢のどちらとも深い仲になりますが、兵衛と道賢それぞれの魅力を教えていただけますか。
【松本若菜】兵衛に関しては“人たらしの色男”で、きっと芳王子も惚れるべくして惚れたんだろうなと思いました。倒幕と世直しのために強い信念を持って動く男気があるところもすごく素敵です。
道賢に関しては“したたかさのある人”というイメージで、それは映画をご覧になるとわかるのですが、幕府から京の治安維持と取り締まりを任される立場まで上り詰めたのがすごいなと思いました。道賢も男気があって素敵なので、芳王子が二人の男性に惹かれた気持ちはすごくわかります。
大泉洋さん演じる兵衛と、堤真一さん演じる道賢 / (C) 2016 垣根涼介/新潮社 (C)2025「室町無頼」製作委員会
――大泉さんとの撮影はいかがでしたか?
【松本若菜】2023年の12月に撮影していた時のことですが、大泉さんが歌手として「紅白歌合戦」に初出場することが決まっていたので、芳王子と兵衛が布団に二人で寝ているシーンの撮影のときに、スタッフさんたちがあるサプライズを仕掛けたんです。
何かというと、寒い時期なので助監督さんが布団の中にカイロを貼ってくださっていて、布団をめくるとそのカイロに「祝・紅白出場 大泉洋」と書いてあって、それを見た大泉さんは「ありがとう」と言いながら照れてらっしゃったのですが、みんなで「おめでとうございます!」と改めて伝えたらすごく喜んでくださって。そのときの大泉さんのうれしそうな姿がとても印象に残っています。
――堤さんとの撮影エピソードもぜひ教えていただきたいです。
【松本若菜】カメラが回るまで堤さんと二人で細い廊下で待機していたときに、堤さんが持っていた剣がバチンっと壁に当たってしまったんです。その瞬間に堤さんが「あ!」と仰るから「どうしたんですか?」と聞いたら、「ダメなんだよ。こういうのは壁に当たっちゃ…」と気にしてらっしゃって。
だけどまた待機中にガンっと剣が当たって思わず笑ってしまうみたいな(笑)、そんな堤さんの姿を拝見して、完璧に見える方でも少し天然なところがあるんだなと思ったのが印象に残っています。
■松本若菜が好きなロックバンドの思い出エピソードを語る
――今回、芳王子のアクションシーンはなかったですが、「はたらく細胞」ではアクションに挑戦されていました。アクションシーンは今後も挑戦していきたいと思ってらっしゃいますか?
【松本若菜】決まったものに関しては“やるからには絶対にかっこいいものにするぞ!”と気合いが入るのですが、学生のころは帰宅部だったこともあり(笑)、体を動かすのはあまり得意ではないんです。
だけどアクションに挑戦すると、再びそういったお仕事をいただいたときに“殺陣やワイヤーのアクションを経験しておいてよかった”と実感するので、いつか本格的に習いたい気持ちはあるのですが…現場が終わるとついホッとして“もう動きたくない”と思ってしまうんですよね(笑)。
――松本さんの著書「松の素」でご自身が作った消しゴムハンコや刺繍などを紹介されていましたが、もしや体を動かすよりも…?
【松本若菜】手先を動かす方が好きみたいです(笑)。
――今後挑戦してみたいこと、気になっていることはありますか?
【松本若菜】やってみたいとずっと思っているのは金継ぎです。大事にしていた器などを金継ぎして復活させたら“世界に1つだけ”という特別感がプラスされる気がして。あと、上京するときに友達から「頑張ってね」と餞別でもらったコーヒーカップがあるのですが、持ち手が割れて取れてしまったので金継ぎしてまた使いたいなと思っているんです。まだ実現できてはいないのですが。
――そういった趣味があると生活が豊かになりますよね。
【松本若菜】そうですね。趣味の時間があると楽しいですし、たとえば欲しいものがあっても、自分で作った方が早いんじゃないかと思い込んでいるところはあるかもしれません。実際は買った方が早いのに(笑)。お店で“これ欲しいな”と思っても、“欲を言えばここの色は青じゃなくてグリーンがいいんだよな”と迷うことってありませんか?
――わかります!“どうしてここの色だけ赤にしたの?”と気になって買うのをやめてしまったり。
【松本若菜】そうなんですよね。でも自分で作ればちゃんと好みのものが出来上がるので、それがうれしくて趣味として楽しめているんだと思います。
――話は変わりますが、「松の素」ではロックバンドのウィーザー(Weezer)やコールドプレイ(Coldplay)、レディオヘッド(Radiohead)についても書かれていました。役に合わせてプレイリストを作るという俳優さんもいらっしゃるのですが、松本さんは役作りのために音楽を活用することはありますか?
【松本若菜】私は役に合わせてプレイリストを作ったことはないです。どちらかというと、そのときに聞きたいと思った音楽を流して楽しんでいるので、お仕事のために聞くという感じではないかもしれませんね。でも、芳王子だったらウィーザーよりコールドプレイの方が合いそうな気がします。
――先ほど名前を挙げたバンドの思い出の曲やエピソードがあれば教えていただけますか?
【松本若菜】いま1番好きなのはレディオヘッドなのですが、UKロックに初めて触れたのはコールドプレイの「イエロー」という曲でした。私は鳥取県出身で、地元のCDショップには当時メジャーなアーティストのものしか置いてなくて、UKロックを含めていろいろなジャンルの音楽に触れられるような環境ではなかったんです。
だけどある日、実家でケーブルテレビが観られるようになって、洋楽のランキング番組を見ていたらコールドプレイの「イエロー」のMVが流れて。その瞬間に“何この世界観めちゃくちゃかっこいい!”と思って、それがきっかけでまずコールドプレイにハマりました。
――ウィーザーも洋楽のランキング番組がきっかけで聞くようになったのでしょうか?
【松本若菜】コールドプレイを聞くようになってから、友達に「コールドプレイって知ってる?」って聞いて回ったところ、「知ってるよ」と言う子がいて、その子と音楽の話をしていたら「もっとポップで聴きやすいウィーザーっていうバンドがあるよ」と教えてくれたんです。ウィーザーの曲は全部好きなんですけど、なかでも「アイランド・イン・ザ・サン」がすごく好きです。
英語なので歌詞の意味は当時はよくわからなかったのですが、不思議とサウンドからいろいろなことが伝わって、切なくなったりうれしくなったりするんですよね。私は言葉で表現をするお仕事をしているので、“なんか洋楽ってずるいな”と思ったりもしますが(笑)、とにかく感情を揺さぶられるこの3つのバンドはすごく好きでよく聞いています。
ウィーザーはフェスや単独ライブを観に行ったことがあるのですが、そのたびに元気をもらえるのでまたライブに行きたいですし、コールドプレイはまだライブを生で体感したことがないので、いつか参加するのが夢です。
映画「室町無頼」メイン写真 / (C) 2016 垣根涼介/新潮社 (C)2025「室町無頼」製作委員会
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:瀬川結美子
◆ヘアメイク:George
(C) 2016 垣根涼介/新潮社 (C)2025「室町無頼」製作委員会