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コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーを通じてリアルな地元の魅力を発信。「Youth Coffee」が目指す明石の水先案内人

  • 2024年6月4日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第81回は、兵庫県明石市の「Youth Coffee」。店主の橋本さんは、市役所職員からコーヒー店主に転身した、ユニークな経歴の持ち主。誰もが気軽に立ち寄れるコーヒースタンドは、新たな拠り所として市内外のお客から支持を得ている。前職時代に街づくりに関わってきた経験から、開店後は地元のネットワークを活かした街案内はもちろん、時に来店したお客をアテンドすることもしばしば。一杯のコーヒーを通じて、ここにしかないリアルな街の情報に出合える、街のインフォメーションを目指している。

Profile|橋本翔(はしもと・しょう)
1990年(平成2年)、兵庫県明石市生まれ。明石市役所にて環境関連、子ども施策の部署での勤務を経て、コーヒー店主として独立開業を志向。自家焙煎コーヒー店や生豆商社などで経験を積み、2019年、明石市内に「Youth Coffee」をオープン。2022年に現在地に移転リニューアル。

■市役所職員からコーヒー店主への転身
飲食業の中でも、異なる分野からの転身が多いコーヒーの世界。全くかけ離れた仕事から移る人も珍しくなく、それゆえ店主のキャラクターも、実にバラエティに富んでいる。その中にあって、市役所勤務からコーヒー店主となった橋本さんは、とりわけユニークな経歴の持ち主と言えるだろう。前職時代から街づくりに関心を寄せ、コーヒー好きでもあったことから、その2つを掛け合わせて生まれたのが「Youth Coffee」だ。「前職では、街のフィールドワークもしていたので、市民の皆さんと話をする機会も多かった。身近な人にいいなと思ってもらえる仕事をしたいと考えたときに、コーヒー店なら地元に貢献できるのではと考えたんです」

開店にあたり、専門的にコーヒーを学ぶべく、いくつかのカフェやコーヒー店で経験を積みながら、月に一度、東京のコーヒーセミナーを受講したりSCAJやコーヒー会社のスクールなどに通ったりと、独自に知識と技術を習得。伝手を頼って、商社で1年ほどシェアローストで焙煎のトレーニングを積む機会も得た。毎週、焙煎した豆は、当時働いていた知人のカフェで提供してもらい、実際のお客の反応を見ながら味作りに活かしていった。

地元のつながりを活かして物件を探し、2019年、元居酒屋を居抜きで改装して「Youth Coffee」を開業。店のイメージカラーでもある、鮮やかな黄色の焙煎機を導入し、心機一転のスタートを切った。シングルオリジンのみ5、6種をそろえる豆は、それぞれの産地に強い商社を吟味して仕入れている。「排気が強い機体で、熱風に近い焙煎なので、はっきりした味の濃淡を出すより、甘くやわらかな風味を引き出せるのが特長です」と橋本さん。なかでも、柑橘系の酸とキビ砂糖のような甘味が印象的な浅煎りのルワンダ・シーラ、ビターな香味にハーブ系の香りをまとった深煎りのインドネシア・マンデリンは、店の定番として定着。焙煎度は両極端ながら、いずれもふわりと広がる穏やかで厚みのある余韻が後を引く。なめらかな口当たりと親しみやすい味わいが好評を得る所以だ。

■一杯のコーヒーから始まる街歩きの楽しみ
開店から3年でじわじわと地元の支持を得て、2022年には、現在地の明石駅前に移転。元レストランの跡地を、懇意の美容室と共同で借り、以前厨房だったスペースをコーヒースタンドにリニューアル。モノトーンの空間に、キーカラーの黄色が映える、スタイリッシュな雰囲気に生まれかわった。夜遅くまで営業しているとあって、ここではワインやビール、日本酒、焼酎までアルコールも多彩にそろい、バー使いも可能だ。「コーヒー店ですが、アルコールも同じ嗜好品。味覚は経験を重ねて広がるものなので、同じ目線で楽しめる場にしたい」と橋本さん。飲食店を営む同業の常連も多く、「味覚のストックになるものは食べに行くようにしています。コーヒー店主としての心がけのひとつです」と、界隈のさまざまなジャンルの飲食店に足を運び、自らの食の経験も広げている。

とはいえ、こうしたコーヒー店としての基本のスタンスは、橋本さんにとって当り前のこと。「クオリティの高いものを出すのは大前提で、街のコーヒー店としては、ことさら打ち出すほどのものではない。スペシャルティコーヒーといってもピンと来る方は少ないので、何も考えずにおいしいと思ってもらえれば十分」。それよりも、店のあり方として目指すのは、明石のハブ的な存在。いわば、街のインフォメーションとしての店作りを重視している。

「前職の影響もあるかもしれませんが、そういう役割を担うには、コーヒー店は一番合っていると思って。お客の世代を問わず、カウンターで気軽に話もできる。コーヒーを売るだけなら自販機でもいいはずなので、街の案内や紹介できるのがうちの強みです」という橋本さん。地元のネットワークを活かし、普段からお客との会話の流れで街をアテンドすることもしばしば。市外から来た人にとって、コンシェルジュのような役割を担う場所でもある。

■リアルな地元情報が集まる明石のハブ的存在に
「以前から、そこにしかないもの・ことに出合える街の個人商店へのリスペクトがありました。観光案内所では出てこないリアルな地元情報を伝えられるのが、ローカルサービスのいいところ。うちの場合、コーヒーがそうしたコミュニケーションのきっかけのひとつになるんです」。そんな店のあり方を体現できるのは、明石で育った橋本さんが培ってきた、街と人との深いつながりがあってこそ。周辺の商店や飲食店主との日々の交流はもちろん、店の周年に合わせて、界隈の店主が集まる新年会を毎年開催。飲食、古着、雑貨などコーヒーだけに関わらず、同じ価値観を共有する店主との関係を深めている。また一方で、明石の洋菓子の老舗「くるみや」とのコラボで、コーヒーゼリーを開発。もともと、地元の素材を使いたいという方向性を持っていた「くるみや」が、地域のハブになりたいというこの店の想いに共感したことで生まれた一品だ。橋本さんが豆を提供し、レシピも共同で考案し、老舗の新たな名物として人気を集めている。

「先々のことはあまり考えてませんね(笑)。店を広げるつもりもないですし、手の届く範囲のお客さんと商売を続けていけたらいいと思っています。これからは自分がもっと外に出ていって、いろんな方に明石に来てもらうきっかけを作れたら」という橋本さん。そのために、各地で開催されるイベントに呼ばれた際は、すべて出店すると意気込む。屋号のYouthは若いという意味もあるが、この先の伸びしろ、成長段階との想いが託されている。地元に根を張り、街に通じる橋本さんのネットワークは、まだまだ広がり始めたばかり。「店に来てもらったら、いつでも街歩きのルートを作って、案内できますよ」と、頼もしい橋本さん。明石を訪れる際は、「Youth Coffee」の名を覚えておくのが吉だ。

■橋本さんレコメンドのコーヒーショップは「播磨珈琲焙煎所」
次回、紹介するのは、兵庫県加古川市の「播磨珈琲焙煎所」。「店主の濵田さんは、コーヒーの修業時代、同じ商社で焙煎などの勉強をした仲。まだコーヒー初心者だったころから、一緒に焙煎を始めて、地元加古川に開店されたのは感慨深いですね。コーヒーの方向性は違いますが、エリアも歳も近くて、地元密着の店作りは似ていると感じます。加古川にはほかにないタイプのお店で、シェアローストもされているので、自分も一度、体験してみたいですね」(橋本さん)。

【Youth Coffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディードリッヒ 2.5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(ECM)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド1~3種、シングルオリジン6~7種、100グラム860円〜

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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