「機動戦士ガンダム」シリーズ登場のモビルスーツの中で屈指の人気を誇る一機、Hi-νガンダム。ガンプラではHGシリーズ、RGシリーズなど、過去デザインをアレンジしながら幾度もキット化されてきた本機だが、2023年にはHi-νガンダムのROBOT魂15周年バージョンの予約受付が開始され話題となった。そして2024年3月、いよいよHi-νガンダムが予約購入者の手に届く予定となっている。
■映画と内容が異なる小説版にファンがザワついた?
そんな注目のHi-νガンダムが登場したのは、ガンダムの生みの親・富野由悠季監督による小説「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」。本書は映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)の公開1カ月前、先行展開していた正伝のノベライズとは別に発表された作品で、「逆襲のシャア」を謳いながら内容に違いがあることから「いったいどういうことなのか?」と、ファンをざわつかせた逸話がある。その答えは巻末のあとがきにあり、本小説は不採用になった映画の初期プロットを基に書いたものということだった。そのため物語の大筋は同じながら、一部の登場人物の名称や展開に異なりがあったわけだ。
モビルスーツのデザイン違いもそのひとつ。読者がまず驚いたのが、挿絵に描かれたアムロの愛機Hi-νガンダム(作中表記はνガンダム)と、シャアの愛機ナイチンゲール(映画のサザビーにあたる機体)の姿だった。発表されていた映画でのデザインと大きく異なり、挿絵を担当したメカニックデザイナー・出渕 裕さんによると、サザビーは名称自体が違うし、正伝小説と区別するためにνガンダムもあえて違う姿にして描いたという。この挿絵が反響を呼び、その後現在のHi-νガンダムとナイチンゲールが正式にデザインされることになったという。なかなかややこしい誕生経緯を持った機体なのだ。
そして、物語で注目となるのが小説タイトルにもなっているベルトーチカ・イルマというヒロイン。映画ではチェーン・アギという女性がアムロの恋人として描かれたが、本小説ではこのベルトーチカがアムロと恋人関係にあり、彼女はアムロの子ども、未来をつなぐ新しい命を宿す。ラストは映画と同じく、アムロは無謀にもνガンダム一機で地球に落下する小惑星を押し戻そうとするのだが、そのとき、このお腹の子が重要なキーになり、νガンダムは超常の力を発揮する。
また、ブライト・ノアの息子ハサウェイ・ノアに起こる悲劇も本作を語るには外せないシーンとなる。映画では想いを寄せる少女クェス・エアが撃墜されたことに逆上し、ハサウェイは撃ったその相手であるチェーンを撃墜してしまう。これだけでも彼が背負う十字架は重すぎるところだが、「ベルトーチカ・チルドレン」ではハサウェイ自身がクェスを誤射するというさらに重い悲劇が起きてしまうのだ。この出来事は彼の深刻なトラウマとなり、のちの人生を大きく狂わせることになるのだが、それは富野氏の続編小説「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」での物語となる。
■「ベルトーチカ・チルドレン」のコミカライズで人気再熱
「ベルトーチカ・チルドレン」はプロットベースの小説のため、いわゆるパラレル扱いの作品だ。映像化はされていないものの、さびしうろあき氏×柳瀬敬之氏のタッグでコミカライズはされている。駆け足気味だった全1巻の小説を単行本7巻の長編にして、物語の演出を広げながら映画の迫力をそのまま閉じ込めた画力あふれる作品になっている。なによりHi-νガンダム、ナイチンゲールといった本作オリジナルデザインのモビルスーツの躍動を視覚的に楽しめるのはコミックならではの見どころだろう。ちなみに「ベルトーチカ・チルドレン」でのブライトは髭を蓄えた貫禄ある風貌をしており、映画でのキャラクター像に慣れている方にはちょっとびっくりするポイントにもなっている。
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