WEB上の個人制作漫画には、プロの漫画家が手掛けたものも数多く存在する。「はんなりギロリの頼子さん」「閃光少女」「お母さんの正体 ハルカママの言えない本音」などの作品がある漫画家のあさのゆきこ(@YUKIKOASANO)さんのオリジナル漫画「親になるのに向いてない」もその1つだ。
「親になるのに向いてない」は、あさのさんが自身のブログやpixiv上で発表しているシリーズ作品。第一子の誕生とともに心身の不調に襲われた母が、慣れない子育てで疲弊しながらも、「自分は恵まれている」という思いから悩みを心の中に閉まってしまうという導入から始まる。子どもの成長とともに、「育児に向いてない」という苦しみといかに折り合いをつけていくかを描く作品で、あさのさんが子育てで感じた悩みを投影した主人公に引き込まれる。
2024年にAmazon Kindleインディーズで無料電子書籍の配信がスタートし、「読んでよかった」「創作であることを疑ってしまうほどリアル」と反響を集める同作の舞台裏を、作者のあさのさんに取材した。
■自分を責めてしまう母親へ手を差し伸べるような作品に
あさのさんによると、同作を描いたきっかけは自身が育児の中で抱えていた悩みをフィクションを通して救ってあげたいという思いからだったそう。
「自分を責めてしまう母親の気持ちをわかってほしかったのと、ぐちゃぐちゃになっても再生できるという希望を描きたかったんです」
産後1年くらいまでは「ずっと自分を責めていました」と当時を振り返るあさのさんは、「ダメな自分を責めるより、子どもの成長に焦点を当ててみると気分が楽になったので、それを表現したいと思いました」と、自身の体験を子どもが大きくなるにつれて変化していく主人公に投影していると話す。
そうした構成は描写にも表れており、子育てに心身が追い詰められていた序盤では息子の顔をあえて描かずにいたという。「時間が進み、主人公の意識が変わったころから顔を入れるようにしました。息子のことがだんだんとかわいく思えてくるのが伝わるようにと」と、主人公の内面と作劇の重なり合わせる意図があったと教えてくれた。
そんな同作を電子書籍として配信した理由を訊ねると、「『親になるのに向いてない』の反響が、これまで描いたブログの漫画の中で一番大きかったからです。早くまとめて出したいという思いが強かったです」とあさのさんは話す。
ブログでの発表時から大きな反響を集め、電子書籍にも注目が集まる同作。そうした読者からの声については、「いろんな感想をいただきましたが概ね好意的に捉えていただいてとてもありがたいです。また、私に抜けていた視点を指摘してくださるコメントもあり勉強させてもらっています」と、感謝のコメントを寄せた。
取材協力:あさのゆきこ(@YUKIKOASANO)