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コーヒーで旅する日本/四国編|日々のにぎわいから広がるコーヒーの楽しみ。絶えず新たな試みを重ねてきた「とよとみ珈琲」の20年

  • 2023年12月20日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、各県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

四国編の第10回は、徳島市の「とよとみ珈琲」。市街から少し外れた住宅街にあって、朝から夕方までお客が入れ代わり立ち代わり、にぎわいが絶えない人気店だ。店主の豊富さんは、ジーンズショップの販売から転身し、35歳のときにコーヒー店主として独立。徳島でいち早くスペシャルティコーヒーの魅力を伝えてきたロースタリーの先駆け的存在だ。いまやすっかり“わが街のコーヒーショップ”として定着した「とよとみ珈琲」が、当初から目指してきたのは、コーヒーに関心を持つ人との会話が生まれる場。豊富さんの快活な人柄と懐深い接客、何より開店20年を経た今も尽きない探求心で、地元・徳島の日常にコーヒーを楽しむ時間を広げ続けている。

Profile|豊富正史(とよとみ・まさし)
1968年(昭和43年)、徳島市生まれ。大学卒業後、アパレル企業に就職し、ジーンズショップで約10年間勤務。その間、学生時代から好きだったコーヒー店での開業を志し、30歳を過ぎた頃から焙煎を始め、独自にコーヒーの知識・技術を追求。神戸の焙煎卸・マツモトコーヒーとの縁を得て、研修に参加するなど指導を仰ぎ、2003年に「とよとみ珈琲」をオープン。カフェを主体とした店としてスタートし、2020年に豆の販売・テイクアウト専門店にリニューアル。

■誰かが作ったのでなく、自分の手で作ったものを届けたい
徳島のシンボル・眉山の東側、海にほど近い住宅街の中にある「とよとみ珈琲」。市街からは少し離れているにもかかわらず、ほとんどお客が途切れることがない。訪れるたびに、“いらっしゃい”“ありがとう、サンキュー”と、店主・豊富さんの明るい声が響き、店内はにぎやかな会話が絶えない。豆を買いに来たお客から質問があると、カウンターで即席のコーヒー教室が行われることもしばしばだ。「地方の街では、スペシャルティコーヒーに触れる機会が少ない。だから、話題になっている豆や器具もそろえるようにしています。僕は、物販が好きで、できるだけ丁寧に説明したいから」と豊富さん。快活な笑顔と朗らかな接客は、前職時代に培われたものだ。

大学卒業後、大阪のアパレル企業に就職した豊富さんは、ジーンズショップの販売員を皮切りに、関西や徳島で店長も務めた経験の持ち主。実は、当時はジーンズショップでの独立を考えていたそうだが、折しもネット通販が普及しつつあった頃。商品知識やコミュニケーションを磨き、接客した常連もネットで購入する機会が増えていると感じていた。「今後は、他人が作ったものを売るのはますます難しくなる。それなら自分で作ったものを売るべき」と考えた豊富さん。そのときに思いついたのは、昔から好きなコーヒーだった。

「徳島は、自家焙煎の店が多いコーヒーどころ。身近にいい店がいっぱいあって、学生時代はデートに行くにも、バイクに乗って、コーヒーが旨い喫茶店に行くのがステータスでした」と振り返る。とはいえ、コーヒーを作る側の仕事については全くの素人。仕事の傍ら、関連書籍や雑誌を読み漁り、方々のコーヒー店を飲み歩いた。さらに30歳を過ぎた頃から焙煎も独学で始め、自宅に小さな焙煎機を購入するまでに。原料である生豆や味作りの技術を独自に追求していった。

当時はちょうど、スペシャルティコーヒーが広まり始め、アメリカでサードウェーブの波が起こり始めた頃。コーヒーに関する知識、技術を深めるにつれて、焙煎する豆の種類も幅が広がり、生豆の入手先もさまざまな卸業者から取り寄せるようになっていた。その中で出会ったのが、神戸のコーヒー卸・マツモトコーヒーだった。「社長の松本行広さんは、世界各国の産地を訪ね、いち早くスペシャルティコーヒーを日本に広めようと奮闘した第一人者。その頃のコーヒーの世界では、異彩を放つ存在でした」

その強烈な個性に惹かれて以来、松本さんの元を度々訪ねて教えを請うようになり、1週間の社内研修も経験。その後も、自分が焼いた豆を持参してみてもらうなど指導を仰いだ。「すごく厳しい方でしたが、受け入れてもらえて本当にラッキーでした。コーヒーの道は自分が考えていた以上に深く、この経験があったからこそ、一生学び続ける覚悟ができたように思います」と振り返る。


■お客の好みに寄り添う、親しみやすい味作りと懐深い提案
師匠と呼べる存在との出会いを経て、「35歳までに独立したい」との思いを形にしたのは2003年。父親から受け継いだ木工所の跡地を改装し、自家焙煎の喫茶店として「とよとみ珈琲」はスタートした。当初は喫茶がメインで、モーニングからランチ、スイーツまでメニューも充実。徳島に新たに登場した開放的な空間は、街はずれにありながら、開業間もなく地元の支持を得る人気店となった。「当時は、“これほど順調な滑り出しは珍しい”と言われたほど、いいスタートを切れました。まだまだ試行錯誤の部分はありましたが、コーヒーに詳しくない一般の方々にもわかりやすく、楽しんでもらう場作りという点では、販売の経験が生かされたと思います」と振り返る。

しかし、順風満帆に見えたが、やがて焙煎の壁に突き当たったという豊富さん。「ある時期から行き詰って、いい豆を使っても理想とする味が出せなかったんです。すべてを準備しても必ずうまくいくとは限らないんですね」と、焙煎という仕事の難しさを改めて感じた。それでも考えた末に、2010年に焙煎機を、それまで使っていた半熱風式から完全熱風式に入れ替えた。当時、フジローヤルが新たに開発した最新鋭機・レヴォリューションであり、「とよとみ珈琲」にあるのは、その第1号機だ。

「味の改良が目的でしたが、メーカーやロースターが一緒になって新たな機体を作ろうという、開発経緯に感銘を受けたことも大きかったですね」という。新型の導入後は、焙煎時の細やかな操作性とプロセスの再現性によって、味作りのクオリティが飛躍的に高まった。同時に2011年からは、松本さんと共にインドネシアやコロンビア、グァテマラなどのコーヒー産地を訪問。とりわけ、2016年にブラジルを訪れた際は、ジャパンロースティングチャンピオンシップ優勝者の沖縄・豆ポレポレの店主・仲村さん、神戸のLANDMADE店主・上野さんら気鋭のロースターと同行。焙煎の技術について話す機会を得て、大いに刺激を受けたという。

「とよとみ珈琲」の創業以降、スペシャルティコーヒー専門店の傾向は、浅煎りが主流になっていったが、ここでは当初から中深煎りが中心。4種の定番ブレンドは、コロンビアベースのまろやかな中深煎りのとよとみブレンド、深煎りの醍醐味を追求したイタリアンブレンドなど、飲みやすく飽きの来ない味わいが、この店の顏。8種のシングルオリジンも同様、スペシャルティコーヒーならではのキャラクターを生かしつつ、柔らかな酸味と甘味、どこか親しみやすい“コーヒー感”が持ち味だ。

「中深煎りは自分好みの味というのもあるし、最初の頃は浅煎りを仕上げるのは技術的に難しかった。増やしたのは割と最近のこと。ただ、いずれも、豆に合う淹れ方などは勧めますが、その好き嫌いはお客さん次第。いろいろある中から、ここで好みを見つけてください、というスタンスが基本」と豊富さん。懐深い提案も、幅広い世代に支持を得る理由の1つ。

■店作りはいまだ途上、20年を経ても尽きぬ探求心
ゼロからスタートして、日々の地道な提案を積み重ねて20年。いまやすっかり“わが街のコーヒーショップ”として定着した「とよとみ珈琲」にとって、大きな転機となったのが2020年。コロナ禍を機に、喫茶店から豆の販売・テイクアウト専門店へと大きくリニューアルした。予想外の出来事が契機になったとはいえ、すでにそれ以前からスペシャルティコーヒーが広まり、店も増える中で「今後は家庭で飲むコーヒーが主流になる」と実感していたという。「お客さんから豆についてきかれることが増えていましたが、喫茶の対応に追われて、しっかりお話しできない状況を危惧していました。本来、コーヒーに関心を持つ人との会話が一番やりたかったこと。コロナの時期は、改めて原点を見直す機会になりました」

かつて喫茶店のカウンターだった場所は、生豆やポップがにぎやかに並び、お客が会話をしながらじっくりと好みのコーヒーを選べる空間に生まれ変わった。「この形なら、豆を選ぶときに都度、質問を受け付けてじっくりマンツーマンで話せるし、目の前で抽出の実演をしながらおすすめできる。通販でも買えますが、やっぱり、実際に体験してもらいたい。それによって、お店もにぎやかになりますし」と豊富さん。いわば滞在型ショップのスタイルで、お客が再び店を訪れたくなる店作りにフォーカスしている。「豆の販売が本分ですが、この店で文化としてコーヒーを楽しむ時間を作りたい。話だけ聞いていってくれてもいいですし、いかにリピーターになってもらえるかに注力する。目先の利益を求めず、それを続けていれば、結果は後からついてくると思うんです」

豊富さんが伝えたいのは、豆や器具のことだけに留まらない。「2050年問題をはじめ、今のコーヒーを取り巻く状況を伝える場にできれば」と、かつて貸しスペースだった2階は、コーヒーに関する書籍や資料が見られるギャラリー&ライブラリーに改装。この店を訪れたら、焙煎や抽出のことはもちろん、産地や流通、栽培の現状、最新の情報まで、コーヒーの世界をトータルで知り、楽しめる場を目指している。それゆえ、豊富さんにとっての店作りは、いまだ途上だ。「初めてコーヒーを淹れるという方、ここなら間違いないと聞いてくるお客さんが増えてきたのはうれしいこと。でも、まだまだやるべきことはいっぱいある。まだ知らない全国のコーヒー店を巡ってみたいし、コーヒーの栽培に影響する地球環境の変化も気になる。日々勉強を重ねて、また新しいことに取り組んでいきたい」。屈託ない笑顔を見せる豊富さんは、開店から20年を経てなお学び続ける意欲に満ちている。

■豊富さんレコメンドのコーヒーショップは「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」
次回、紹介するのは、同じ徳島市の「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」。「以前は珈琲美学という名前で長年、地元に親しまれてきた、徳島の自家焙煎コーヒーのパイオニア的存在です。僕が高校時代から憧れのお店で、当時はここでコーヒーを飲むのがステータスで、デートのときなどはよく使わせてもらいました(笑)。店主の小原さんは、同業者になった今も優しく声をかけてくれる尊敬する大先輩。心の底から、この店があってよかったと思える存在です」(豊富さん)

【とよとみ珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジ レヴォリューション5キロ(完全熱風式)、プロバット12キロ(半熱風式)
●抽出/ドリップマシン(TONE)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(400円~)
●豆の販売/ブレンド5種、シングルオリジン8種、100グラム700円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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