時にかわいく、時に凛々しいクラスメイトに心惹かれる少年。けれど、そのクラスメイトはどれだけ知り合っても「性別不詳」で……。
生物的な性別や自認するジェンダーなど、見かけや振る舞いだけではわからない人の性。どちらともつかない出で立ちのクラスメイトと、その性別がわからないまま好きになった少年の青春を描く創作漫画が、矢尾いっちょ(@1203Yao)さんのオリジナル作品「どっちかわからないクラスメイト」だ。
2020年からX(旧Twitter)で発表をはじめ、現在はAmazon Kindle インディーズの無料電子書籍シリーズとして3巻(2023年11月現在)が公開されている同シリーズ。作品のあらすじとともに、作者の矢尾いっちょさんに同作の制作背景についてインタビューした。
■女の子?男の子?性別がわからないクラスメイトに、わからないまま恋をした少年
少年・正保(まさやす)には気になるクラスメイトがいた。その人、愛川マオ(あいかわまお)は、とてもかわいらしい顔立ちで、一見すれば女の子と言い切りたくなる容姿ながら、日ごとに男子と女子の制服を着分けたり、口調も少年とも少女ともつかぬ、性別不詳の人物だった。
当初はそんな愛川さんの真相がただ知りたくて、「運動神経抜群だから男子」「サッカーのルールに詳しくないから女子」といった偏見交じりの憶測を立てたり、直接問いただしたりと素朴ながら不思慮だった正保。そんな彼を愛川さんはからかったりはぐらかしたりと、一枚上手の応対で煙に巻いていた。
そうして答えを知らないまま、友人として徐々に仲を深めていく二人。だがそのうちに、愛川さんに性別を秘密にする理由があるのではと気付いた正保は、常に明るく振舞う愛川さんを真剣に見つめ、そして性別がわからなくても愛川さんが好きだと自覚する――、というストーリー。
■「コミカルかつ真剣に」どっちかわからないキャラクターを描く思い
雰囲気は明るい青春コメディながら、性別を知って自分の気持ちが変わってしまうことを恐れる正保や、飄々とした振る舞いに隠された愛川さんの葛藤など、ジェンダーを巡るシリアスな悩みもしっかりと描かれる同作。電子書籍ではSNS上で公開されたエピソードに加え、描き下ろしによる多くのおまけページが加筆され、より読み応えあるものとなっている。そんな同作について、愛川さんのキャラクターが生まれたきっかけや作品作りへの思いを、矢尾さんに訊いた。
――「どっちかわからないクラスメイト」制作のきっかけを教えてください。
【矢尾いっちょ】中性的なキャラクターに昔から魅力を感じており、僕自身でも描いてみたくなったというのがきっかけです。そのうえで男か女かわからないという設定にして、読者にも考察ができる形にすれば続き物としておもしろいではないか、といったところから本格的な執筆にいたりました。
――かわいさと凛々しさが交互に顔を出す愛川さんのキャラクターが本作の大きな肝だと思います。デザインや人物造形はどんなところから生み出していったのでしょうか?
【矢尾いっちょ】愛川さんのデザイン決めにはさまざまな中性的なキャラクターを参考にしました。髪の長さは短すぎず、しかしヘアアレンジもできるミディアムショートくらいであることや、寛容さを抱かせる穏やかな目から決めていきデザインを固めていきました。眉毛の太さは最後まで悩み、友人などにも相談した結果太い眉にしましたが、今ではお気に入りのチャームポイントです。
――日常のにやけるやり取りとともに、性別というテーマを取り扱ううえでの葛藤もしっかり描かれています。本作を描くうえで意識している部分を教えてください。
【矢尾いっちょ】性別の問題はいまだ正解を出せていないことも多く、そこには苦しんだりしている人も多くいる。それを踏まえたうえで、今作はできるだけたくさんの読者に楽しんでほしいのでコミカルな雰囲気に、しかし茶化してしまうことなく真剣に向き合うストーリー作りを心がけた作品です。
――矢尾さんは多くの漫画作品をSNS上などで発表されていますが、電子書籍として作品を公開するのははじめてかと存じます。本作を電子書籍化した理由を教えてください。
【矢尾いっちょ】今作は数年前に執筆しSNSで公開した作品です。そして現在よりも読んでもらう機会に恵まれなかった作品でもあります。ゆえに電子書籍でまとめ読みのしやすい形に整え、さらに描きおろしのおまけを添えることで新しい読者はもちろん、昔読んでいただいた読者の方々にも、また愛川さんたちに会ってほしいという思いから電子書籍化に挑戦しました。
――11月には第3集が公開されました。本作の今後についてメッセージをいただければ幸いです。
【矢尾いっちょ】今回公開された第3集にて愛川さんたちの物語は折り返しを迎えました。第4集と最終巻を数カ月以内に公開できるよう、現在作業に勤しんでおります。よろしければ、愛川さんと正保くんたちの行く末を見守っていただけるとうれしいです。
取材協力:矢尾いっちょ(@1203Yao)