販売の仕事で体験した出来事や日常で感じたことなどを漫画に描き、X(旧Twitter)やInstagramで発信しているタジマオオカ(@pu92yu)さん。店舗で働いているとさまざまなお客様や場面に遭遇するという。なかでも、顧客の優位な立場から従業員に対して言い掛かりや理不尽なクレーム、侮辱などをする迷惑行為「カスタマーハラスメント」(以降、カスハラ)について描いた漫画「かすはら物語」や「お客様に助けられた話」が大きな反響を呼んでいる。思わず「怖い」と身震いする場面も少なくなく、多くの共感の声が寄せられている。
ウォーカープラスでは「かすはら物語」をリメイクし、「お客様は神様ですか?」と題して連載中。タジマさんが実際に体験したカスハラや、販売員に対するお客様からの無理なクレームや言動に悩み、対応を考え続けた日々についてお届け。
今回は、酔っ払い客に仕事を妨害され警察官に来てもらったときのことや意識の低い社員への思い、またカスハラに苦しんでいる人へのメッセージを聞いたインタビューを交え紹介する。
■ベテランでもカスハラに慣れることはない
――店頭に居座って仕事の妨害をする酔っ払いの男性に恐怖を感じ、警察に通報したあと、2名の警察官が来たときの様子と、タジマさんがどのように感じたのか、詳しく教えてください。
「今まで警察官を呼んだことがなく、1名で来ると思っていたので、『2人来るの⁉』とまずそこに驚きました。そして警棒や通信機など身に付けている装備が多く、歩くたびにガシャガシャと重い音がするんです。警察官が2名で近づいてくる様子は、自分が考えていたよりもずっと迫力がありました。それだけに怪我や暴力がないのに通報してはいけなかったのでは…、と気になってしまいました」
――警察官と話をするタジマさんの様子を、物陰に隠れながら見ていたスタッフの水谷さんが混乱して社員に電話をしたとき、どのような様子だったのでしょうか?
「私から見ると水谷さんは、後ろを向いているような体勢でしたが、電話をしているのはわかりました。多分状況を報告しているんだろうなと。ですがそのうち、何か言い争っているような雰囲気になったので、どうしたのかな?と思いました」
社員から電話で「タジマさんは慣れてるんだから任せておけばいいよ」という、思いも寄らない言葉を受けた水谷さんは、どのような気持ちだったのでしょうか?
「水谷さんに後から聞きましたが、現場に2人しかいないことをわかっていて、その発言は無責任で冷たい、と感じたそうです」
■嫌味や恫喝(どうかつ)だけでなくセクハラ対策も重視すべき
――水谷さんから、社員が「タジマさんは慣れてるから」と言っていたと聞いたとき、タジマさんはどのような気持ちでしたか?
「その時の状況として『酔っぱらいに絡まれたが身体的、物質的(物損や盗難等)な被害はない』『通報して警察官が到着している』『水谷さんが安全な場所にいるのは確認した』『ある程度の想定外を考えて、勤務年数3年以上のタジマと新人の水谷さんを組ませている』『水谷さんを落ち着かせたい』、これらのことを考えると『タジマに任せておけ』という上司の発言は妥当というか、理解できました。ただ『慣れてるから』という部分にはモヤモヤしました」
――接客の仕事を長年しているタジマさんでも、知らない人に突然絡まれることに慣れている、ということは決してないと思いますが、どのようにお考えですか?
「私個人の意見になりますが…。複数回経験すると、自分の置かれた状況を少しだけ冷静に見られるようにはなります。でも、カスハラに慣れるということはありません。接客だけではなく、学校や職場で起こるハラスメントやいじめに『慣れる』なんて、とても悲しいことだと思います。そして慣れたところで何の解決にもなりません。ですが物事の捉え方や考え方は人それぞれで、慣れて聞き流しなさい、と言う人もいます。どちらの考え方も一長一短あると思いますので、難しい部分だと感じています」
――水谷さんから別のスタッフと一緒にお店に入ったときに、セクハラを交えたカスハラを受けたことを、タジマさんはどのような思いで聞きましたか?タジマさんから水谷さんへ、何かアドバイスはしましたか?
「お客様からの迷惑行為に関して、嫌味や恫喝ばかり気にしていましたが、セクハラもあると改めて認識しました。水谷さんの話を聞いたあとは、カスハラだけでなくセクハラに対しても、対応策はどうすればよいかと考えるようになりました」
最後のシーンで、カスハラに対して「出来る事を探すんだ」とある。タジマオオカさんに、今実践していることやカスハラに対する思いを、改めて聞いてみた。
「とにかくお客様の話を聞きます。現場ではやはりそれが基本になってきます。話を聞くときは受け流すような聞き方はせず、しっかりと関心を持って聞きます。ですが寄り添うことはしません。あくまでも店員と客です。その一線をきちんと引いて聞くように心掛けています。カスハラへの思いは『やめてほしい』の一言ですが、カスハラはなくならないと思っています。『カスハラをなくそう!』ではなく、『カスハラはある、なくならない』というところから取り組むのも、ひとつの考え方ではないかと思います」
実際に今、カスハラに苦しんでいる人へのメッセージもお願いした。「カスハラで苦しんでいるなら、もし嫌なことを言われたり、見下されるような扱いを受けて心が折れそうになったら、『お客様に楽しいお買い物をして喜んでもらうため、心地よい時間とよい商品を提供するために、今ここにいる。自分はとても素敵な仕事をしているんだ』ということを、もう一度思い出してもらえたらいいなと思います」とタジマさんは話してくれた。