牛乳を加えて混ぜるだけで完成する、プリンでもヨーグルトでもない唯一無二のデザート「フルーチェ」。火を使う工程がないため、小さな子供でも簡単に作れる手軽さが魅力だ。子供の頃に親におねだりした人や、今まさに子供に食べさせているという人も多いのでは?
フルーチェは、定番の「イチゴ」や「ミックスピーチ」以外にもさまざまなフレーバーが展開されており、スーパーの店頭で必ずと言っていいほど見かける商品だ。SNSでも「懐かしい」といった声が散見されたりと幅広い世代に知られているが、どのようにしてここまでの認知を得たのだろうか。
今回は、ハウス食品株式会社(以下、ハウス食品)開発担当の浅井萌香さんに、フルーチェの誕生秘話と世代を超えて愛されている理由について聞いた。
■認知のきっかけは、新人アイドルを起用したテレビCM
1970年代はまだ、“手作り”が主流だった時代。ハウス食品は先行してレトルト商品の開発を行っていたが、「レトルトカレー」を除くそれ以外の商品は人々にあまり受け入れられていなかったという。そうした状況を打破するべく、新たなコンセプトを掲げ、1976年に発売されたのがレトルトパウチ入り食品の「フルーチェ」だ。
「弊社がフルーチェより前に開発していたのは『ゼリエース』や『プリンミクス』、『クッキングゼリー』などのいわゆるパウダーミックスの商品です。子供に愛される商品ではありましたが、“鍋で加熱する”という調理過程が子供にとって安全ではなく、必ず大人が手伝う必要がありました。そこで、『火を使わず、お子様でも安全・簡単に作れるデザートを世に提供したい』という思いで商品開発を行っていました」
発売後は、積極的にテレビCMを打ち出したそうだ。フルーツをたくさん使ったフレッシュな商品イメージを浸透させるため、話題性のある新人アイドルを起用するなどして話題を呼んだ。その後は「子供でも作れる」「親子で作る楽しさ」といったブランドメッセージを前面に出し、子供が作るシーンがメインのCMへとシフトチェンジ。「当時のテレビCMによって、現在の“子供が喜ぶデザート”というブランドイメージが定着したと言えます」と浅井さんは語る。
■過去には「フルーチェ」新形態へのトライも
フルーチェのメインターゲットは小学生以下の子供を持つ親世代。親子向けの定番商品のラインナップだけでなく、時代に合わせた商品開発にも注力してきた。
「“どこでも食べられるフルーチェ”のコンセプトで、キャップを外しただけで飲むことができる『フルーチェ ハンディタイプ』を2007年に発売しました(※現在は終売)。フルーチェの喫食シーンやターゲットを広げるため、2010年までバラエティの追加やコンセプトのリニューアルを行いながら、販売を継続していました」
また、2016年には大人をターゲットにしている「濃厚」シリーズの前身となる「贅沢」シリーズを発売(※現在は終売)。果実の量を通常の2倍、価格帯も通常のフルーチェよりもやや高めの商品で、文字通り“贅沢”を実現すべく、少し高級なフルーチェと銘打った。
「『贅沢』シリーズは、果実がふんだんに入った贅沢な味わいは評価されていましたが、価格設定が少し高く、手に取りづらいという課題がありました。そこで、2020年に価格帯を通常商品に合わせた『濃厚』シリーズへリニューアルすることで、定番の人気商品になりました」
そして、他社とのコラボ商品にも挑戦している。2023年1月には、イトーヨーカ堂のプライベートブランド「ANYTIMEDolce」とのコラボで、「フルーチェ イチゴ」を使ったチルドデザート4品を発売(※現在は終売)。浅井さんは「SNS上のお客様の反応では若年層からの投稿もみられ、普段接点の少ない購買層との接点創出にもつながりました」と話す。
■SNSの時代にも見事フィット!大人向け商品も注目株
ここ数年では、子供がフルーチェを作る様子がSNSでバズるなど、何かと話題になることが多い。そのほかでは、給食で使用するような寸胴鍋で業務用(1キロ)のフルーチェを作る動画や、ハロウィン企画でフルーチェの上に目玉を模した白玉が乗ったホラーテイストの写真といった、バラエティ豊かな内容が投稿されている。
「SNSに上がっている動画で、お子さんが作っている様子を親御さんが撮影しているものを多く見かけます。発売当時は、今より専業主婦家庭が一般的だったこともあり、平日でも親御さんと一緒におやつを作る機会がありました。しかし、今は共働きの家庭も多くなりました。休日にお子さんとフルーチェを作る時間が、貴重なコミュニケーションの時間になっていたらうれしいですね」
また、最近では大人向けの商品の拡充にも力を入れていることから、ターゲット層よりも上の年齢の子供を持つ世代や、子供がいない世帯からも人気を集めているようだ。
「『濃厚』シリーズや『Sweets』シリーズのような大人向けの商品を増やすことで、子供の時によく食べていた方たちにも、今一度フルーチェを食べてほしいなと思っています。ただ、2万3999人を対象に実施した『Come on House』(ハウス食品グループの会員サイト)のアンケート調査※によると、『フルーチェ歴30年以上』と答えた人が半分以上を占めていたので、昔からファンでいてくださる方も多いですね。そして今後は50周年に向けて、幼児からシニアまでどの年代からも愛される“一生モノ”のブランドを目指していきます」
※ハウス食品調べ 調査期間:2021年3月1日〜31日
2026年に誕生50周年を迎えるフルーチェ。長年愛され続けるのは、日常のワンシーンに溶け込む手軽さと、おいしさを提供するための絶え間ない努力の結果と言えるだろう。願わくば、これから60年、70年と時代が流れても、“家庭のおなじみのデザート”であり続けてほしい。
取材=西脇章太(にげば企画)
文=永田奏歩(にげば企画)
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