2021年4月期に放送され、多くの反響を呼んだドラマ「イチケイのカラス」が待望の映画化。ドラマのラストから2年後が描かれる本作で、竹野内豊演じる裁判官の入間みちおは岡山へ異動しており、黒木華演じる坂間千鶴は裁判官の他職経験制度を活用して弁護士として登場する。久々に坂間を演じた黒木に、ドラマ撮影時の印象的なエピソードから本作の撮影を通して感じたことなどたっぷりと語ってもらった。
■入間みちおにチャーミングさと説得力があるのは「竹野内豊さんが演じているからこそ」
――ドラマ「イチケイのカラス」が大好きだったので、映画化されてとってもうれしかったです。黒木さんは、ドラマのお話がきた当初、どんな心境だったのでしょうか。
【黒木華】最初は、ドラマと原作の設定で違う部分があったので、正直少し不安ではありました。例えば、坂間は原作だと男性ですし、入間みちおはふくよかな体型で眼鏡をかけているビジュアルが印象的なキャラクターなんです。だから“果たして原作ファンの方がドラマを受け止めてくださるのだろうか”と思ってしまって。
だけどプロデューサーさんが「法廷もので裁判官が主人公ですが、ただ重苦しいだけの作品にはせずに、エンタメ性の高いドラマとして作っていきたいです」と仰ったので、きっと坂間が女性の設定になることにも意味があると感じて「お引き受けします」とお返事したのを覚えています。
――ドラマ版では竹野内豊さん演じる入間と坂間のテンポのいい掛け合いのシーンが多かったですが、どのように二人の関係性を作っていかれたのでしょうか。
【黒木華】坂間は入間に対してはっきりと物を言いますし、気になることがあると「なんでですか?」と、とことん追求するタイプなんですよね。だけど入間は坂間の言葉をのらりくらりとかわしていくので、最初は二人のやり取りのペースをなかなか掴めなくて、苦労しながら挑んでいたように思います。
でも、田中亮監督に演出していただき、竹野内さんとのお芝居を繰り返していく中で、だんだんと掛け合いの間が掴めてきて、入間と坂間の関係性を築き上げるのにそんなに時間がかからなかったと記憶しています。
――入間と坂間は、本当はお互いのことを大切に思っているのに、顔を合わせると喧嘩をしてしまう兄妹のようで微笑ましかったです(笑)。
【黒木華】兄妹!確かに、言われてみればそうかもしれませんね(笑)。
――今回改めて竹野内さんと共演してみていかがでしたか?
【黒木華】入間は破天荒な裁判官ではあるけれど、とてもチャーミングで憎めない人ですよね。それはきっと竹野内さんが演じていらっしゃるからこそだと思うんです。周りが「え?」と驚くほど入間は自由で型破りなところがあるけれど、彼の言葉に説得力があるのは、竹野内さんがしっかりと役に魂を注いで演じていらっしゃるからなんだろうなと。映画の現場でもそれはすごく感じましたね。
■恋愛経験の乏しい坂間にとって「月本との出会いはものすごく大きな出来事だったはず」
――先日、竹野内さんにも本作についてお話をうかがう機会があったのですが、撮影時に入間の趣味のふるさと納税の返礼品であるレインボーラムネをつまみ食いしたことを教えてくださったんです(笑)。その時に、竹野内さんのチャーミングなところが入間にも反映されているんだなと感じました。ちなみにレインボーラムネは黒木さんも食べましたか?
【黒木華】ちょこちょこつまみ食いしていました(笑)。すごくおいしかったので、みんなよくつまんでいましたね。このレインボーラムネは生駒市の返礼品なのですが、なかなか手に入らないそうです。
――映画版でも全国各地の返礼品が入間のデスク周りや自宅に置かれていて驚きました。どれも本物の返礼品だったのですか?
【黒木華】気になった返礼品を手に取って見ていたら、美術さんから『それは作り物ですよ』と教えてもらったことが何度かありました(笑)。本物の返礼品と見分けがつかないぐらいしっかり作り込んでいてすごかったです。
撮影が終わったあと返礼品の缶詰をみんなで山分けしようとしたのですが、どれも賞味期限が切れていて諦めたなんてこともありましたね(笑)。ドラマの撮影以来、返礼品に興味が湧いたので近いうちにふるさと納税を始めてみようと思っています。
――映画のお話もうかがいたいのですが、今回、坂間は裁判官の他職経験制度を活用して弁護士として登場しますよね。
【黒木華】きっと多くの方が“裁判官他職経験制度”をご存じないと思うのですが、私自身もそうで、弁護士として坂間が登場すると知った時は“おもしろそうだな”と純粋に思いました。映画では、裁判官以外の職業を経験することで坂間は更に成長していくので、そこも楽しみにしていただきたいです。
――坂間の成長の大きなきっかけとなるのが斎藤工さん演じる人権派弁護士の月本信吾で、彼に惹かれていく坂間の表情がとても印象的でした。
【黒木華】恋愛って、相手のことをものすごく考えるし、自分と向き合う時間も増えるので、人として一番成長させてくれるものだと思うんです。それは入間からは得られないものといいますか。
だからこそ恋愛経験の乏しい坂間にとって、月本との出会いはものすごく大きな出来事だったはずで、その気持ちを大事にしながら演じていました。
――斎藤さんとのお芝居で印象に残っていることがあれば教えていただけますか。
【黒木華】斎藤さんは監督として作品を撮っていたりもするので、ロジカルなお芝居をされる方なのかなと勝手に思っていたのですが、意外にもそうではなかったのが印象的でした。例えば、台本には書かれていないことを試されたり、“遊び”を持って演じていらっしゃったので、一緒にお芝居をしていて楽しかったです。
――アドリブのようなこともされていたんですね。
【黒木華】そうですね。本番で斎藤さんが急に走り出すこともありました(笑)。でも、それはもしかしたら月本というキャラクターだからこそ出てきたアドリブなのかもしれません。坂間と同様に、私自身も斎藤さんからいい刺激をたくさんいただけた現場でした。
■軸がないと人としてブレてしまうので、“自分なりの正義”を持つようにしています
――本作では月本、坂間、入間、向井理さん演じる防衛大臣の鵜城、そして坂間が配属先で出会った町の人たちなど、それぞれが自分の正義を貫こうとする姿が描かれます。黒木さんは弁護士としての坂間を通してどんなことを感じましたか。
【黒木華】自分が思う“正義”は、ほかの誰かにとって“正義ではない”ということが本作を観るとよくわかりますよね。ドラマの時も坂間は自分が思う正義と向き合ってきましたが、映画ではとある事件が起こった町の人たちの気持ちを受け止めつつ、葛藤を抱えながら結論を出さなければいけなくて。
だけど、そういう大きな責任を背負うことで坂間が成長できた部分もありますし、葛藤や悩みと向き合い、それぞれの正義を受け入れていくのが坂間にとっての課題だと思ったので、そういう部分を大事にしながら演じていました。
――黒木さんは普段から心がけていることは何かありますか?
【黒木華】たとえ誰かに傷つけられたとしても、自分は人を傷つけるようなことはしたくなくて、もちろん知らず知らずのうちに傷つけてしまっている場合もありますが、意図的に人を傷つけることのないように心がけています。
あと、先ほどの正義の話じゃないですが、正しいと思うことや曲げたくないことは、ちゃんと主張したり自分の中で芯を通すことが大事な気がしますね。そういう軸がないと人としてブレてしまうので、“自分なりの正義”を持つようにしています。
――そんな黒木さんの凛とした部分が坂間に反映されているように感じますし、だからこそ坂間が魅力的に見えるのではないかなと思います。最後の質問になりますが、もしも坂間の日常を描いたスピンオフが作られるとしたらどんな内容になると思いますか。
【黒木華】坂間のプライベートは恐ろしくつまらないと思いますが大丈夫でしょうか(笑)。きっとお休みの日も仕事のための資料を集めたりしているでしょうし、それ以外はペット(ヤモリ)のクレアパトロのお世話をしたり、何でもない時間を過ごしていると思うんですよね。
本人は充実していると思っていますが、客観的に見たらつまらないかも(笑)。でも、“クレアパトロの視点から見た普段の坂間”だったらおもしろいかもしれませんね。
――めちゃくちゃ低い位置から坂間を見守る映像になりそうですが(笑)。
【黒木華】スピンオフならではですよね(笑)。あと、ふと思いついたのですが、小日向文世さん演じる駒沢部長や桜井ユキさん演じる浜谷といったイチケイのメンバー全員集合の宴会も見てみたくないですか?法曹界の宴会ってどんな会話をするのかまったく想像がつかないので、そういうスピンオフがあったら楽しいんじゃないかなと思います。もしもご覧になりたい方がいたらぜひリクエストしてみてください!
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:前田勇弥
◆ヘアメイク:新井克英