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関東は濃いめ、関西は淡め、九州は甘め…ではほかの地域は?日本各地で違う「しょうゆ文化」の謎に迫る

  • 2022年12月30日
  • Walkerplus

この時期、お寿司やおせちなどを食べる際にも絶対不可欠な調味料・しょうゆ。「関東のしょうゆはしょっぱい」「関西のしょうゆを使った料理は色が淡い」「九州のしょうゆは甘い」などとよく言われているが、これだけにとどまらず、日本の各地域ごとに“好まれるしょうゆの味”は異なると言われている。

今回は、しょうゆの最大手メーカー・キッコーマン株式会社 国際食文化研究センター長の山下弘太郎さんに、日本の各地域のしょうゆ文化の違いにについて話を聞いた。「しょっつる」「しろしょうゆ」「めんみ」といった、その土地に根付いたしょうゆの名前もたくさん出てくるので、年末年始の帰省時などにぜひキッチンをチェックしてみてほしい。

■しょうゆを知るうえで欠かせない3つの製法
山下さんによると、そもそものしょうゆの製造方法には以下の3つがあるという。各製造方法とも、門外漢には少々難しく感じるものだが、まずこの点を知っておかないと日本各地で好まれる「しょうゆ」の差を理解しにくいそうだ。

(1)本醸造方式(昔ながらの醸造法)
大豆と小麦でしょうゆ麹をつくり、食塩水か生揚げしょうゆを加えて諸味にし、発酵・熟成させるもの。生産量全体の約9割を占める基本的な製法で、アミノ酸液等を使用しない点でほかの2つの製法と区別されている。発酵熟成による深いうまみと芳醇な香りが特徴。

(2)混合醸造方式(諸味にアミノ酸液などを加え短時間で作る方法)
本醸造の諸味にアミノ酸液等を加え、速成的に発酵・熟成させてつくる製法。

(3)混合方式(生揚げしょうゆにアミノ酸液などを加えて作る方法)[/B]
生揚げしょうゆにアミノ酸液等を混ぜてつくる製法。砂糖類や甘味料などを加えることでうまみとのバランスをとったり、消費者の好みに合わせた味のしょうゆにアレンジされることもある。混合方式は、戦時中の原料難の時期に、しょうゆの生産量を確保するためアミノ酸液が使われたことに由来する。戦後に原料事情が回復すると、混合方式を止めて本醸造方式の製造に戻ったメーカーがある一方で、混合方式を続けるメーカーも多く、地域で違いがある。アミノ酸液特有の強いうまみと、特有の香りが特徴。

これら3つの製造方法を理解したうえで、山下さんの解説のもと、次に各地域のしょうゆの味の違いに迫る。

■【北海道】「本醸造方式」のしょうゆに加え、簡便調味料が主流
北海道では、本醸造方式のこいくちしょうゆに加え、濃縮つゆや昆布しょうゆなどが使われることが多い。

開拓による農地づくりの作業を夫婦で行うことが多かったことから、調理に時間をかけず、簡便で手軽な調味料が受け入れられるようにとなったと考えられている。しょうゆに特産品である昆布のだしを使った、「昆布しょうゆ」も道内に広く定着。

■【東北】沿岸部は、内陸部より甘めのしょうゆが好まれている
東北地方では、あまくちの本醸造しょうゆや、やや甘い混合方式のこいくちしょうゆに加え、濃縮つゆやだししょうゆが主に使われている。

甘味料を添加するものの塩角を取る程度で、九州のしょうゆほど甘くない一方、岩手県や宮城県の沿岸部では漁師の嗜好に影響を受け、内陸部より甘味の強いしょうゆが好まれている。使い勝手の良さと簡便性から、「つゆ」や「だししょうゆ」がしょうゆ代わりに日常的に使われる傾向だ。

また、東北では「混合しょうゆ」が多くつくられ、秋田県ではハタハタやイワシを使った魚醬「しょっつる」などもある。

■【関東】魚の臭みを和らげるこいくちしょうゆが定着
関東地方では、主に甘味料を加えていない本醸造方式のこいくちしょうゆが主流。海に面した江戸で、魚の臭みを和らげる効果のあるこいくちしょうゆが広まり、関東一円に生産地が形成されたと言われている。

本醸造のこいくちしょうゆの生産がほとんどで、主な生産地は千葉県の野田市、銚子市。甘味料を添加しない、すっきりした味わいが特徴。

■【北陸】九州と並ぶ「甘い混合しょうゆ」の産地として知られる
北陸地方では、主にあまくちの本醸造しょうゆや、甘い混合方式のこいくちしょうゆが使われている。諸説あるが、北洋漁業の漁師の嗜好に影響を受け、甘味の強いしょうゆが好まれるようになったそうだ。

九州と並び、甘い混合しょうゆの産地として知られるほか、石川県ではイカの内臓やイワシを使った魚醬「いしる」がつくられている。

■【中部】たまりしょうゆ、しろしょうゆ発祥の地
中部地方では、本醸造方式のこいくちしょうゆが多く使われている。また、「たまりしょうゆ」と「しろしょうゆ」の発祥地でもある。

愛知県、岐阜県、三重県を中心とする地方では、こいくちしょうゆのほかに豆みその製造過程で生まれた色の濃いたまりしょうゆと、小麦を主原料とする色の淡いしろしょうゆがつくられている。濃い色のたまりしょうゆ製造のバックボーンがあったからこそ、淡い色のしろしょうゆが“素材の色を生かす術”として広まったんだとか。

たまりしょうゆは「ひつまぶし」のたれや、「きしめん」「伊勢うどん」のつゆなどの郷土料理に。しろしょうゆは「吸い物」「茶碗蒸し」など、素材の色を生かしながらしょうゆで味つけする料理で多用されている。

■【近畿】うすくちしょうゆとこいくちしょうゆの双方が主流
近畿地方では、本醸造方式のこいくちしょうゆとうすくちしょうゆが使い分けされている。江戸時代に播州龍野(現・兵庫県たつの市)で誕生したうすくちしょうゆは、そもそも揖保川の水質に起因すると言われており、揖保川伏流水の硬度が低いことに関連して、しょうゆとしての発酵も緩やかで色がつかなかったという説がある。また、揖保川の軟水は酒酵母の生育に向かないとされていたが、発酵途中の甘酒をしょうゆ諸味に添加したところ、味の良いしょうゆが出来たと伝えられ、これがうすくちしょうゆの始まりだそう。

このため、近畿ではうすくちしょうゆが広まっている一方、本醸造のこいくちしょうゆの消費も多く、料理によって特徴の異なるしょうゆが使い分けられている。

■【中国】再仕込みしょうゆの発祥の地
中国地方では、混合のこいくちしょうゆの割合が高く、やや甘いしょうゆが使われている。また、醸造を二度繰り返すような製法からその名がついた「再仕込みしょうゆ」は、山口県柳井市で生まれたんだとか。

柳井市は瀬戸内海の港町で、近世に入ると瀬戸内海交易によって発展。原料の大豆や小麦は、柳井津から出荷していた木綿や塩の帰り船で、九州地方(大分県、熊本県など)から運ばれていたと言われている。

中国地方は九州北部の甘いしょうゆが移入したことにより、やや甘い混合しょうゆが多く使われるようになったと言われており、日本海に面した萩地方のしょうゆは、瀬戸内に比べより甘いと言われている。また、地元産の牡蠣エキスを使用した「牡蠣しょうゆ」など、しょうゆ加工品も作られている。

■【四国】高知や愛媛は九州のしょうゆ文化の影響が強い
四国地方は、地域によってしょうゆの特徴が分かれている。豊後水道を挟んで九州の大分県と向かい合う高知県や愛媛県は、九州のしょうゆの影響を受け、甘味の強い「混合しょうゆ」を好む傾向に。また、ぶっかけうどんにだししょうゆを使用することもある。

一方、江戸時代からしょうゆの産地として知られている香川県小豆島では、関東と同様に甘味料を使用しない本醸造のこいくちしょうゆがつくられ、讃岐うどんのつゆには混合のうすくちしょうゆが使われている。また、香川県では、いかなごを使った「いかなごしょうゆ」を作っている。

■【九州・沖縄】甘味を抑えた本醸造しょうゆもある
九州・沖縄地方では、混合方式のこいくちしょうゆとうすくちしょうゆが使い分けられている。なかでも、九州地方の南部では強い甘味のあるしょうゆが好まれる傾向が強い。その理由は、戦時中の原料難の時期にしょうゆの生産量を確保するため「アミノ酸液」が使われ、この原料独特の臭気を緩和するために「糖」が使用されたことに由来。戦後に訪れた飢餓への反動から甘さへの欲求が高まると、これに応えようと糖原料の種類と使用が増え、地域独特の甘いしょうゆに繋がったと言われている。

また、九州地方はしょうゆメーカーの数が多く、それぞれの地域で特徴の異なるしょうゆをつくっているが、甘味のある混合しょうゆを製造するメーカーが多い。一方、九州北部では糖分あるいは甘味料を抑えた本醸造しょうゆも多く作られ、さらにうすくちしょうゆの生産も多い。

料理によって、うすくちしょうゆと甘味のあるこいくちしょうゆの2つのしょうゆが使い分けられていることも多いと言われている。一方、沖縄は東京からの物資調達が多かったという背景もあり、こいくちしょうゆが多く使われている。

■「めんみ」って何?地域の味に特化したしょうゆが盛りだくさん
各地域によるしょうゆ文化の違いを紹介したが、キッコーマンの商品のなかでは特に地域に特化して売れているものがあるという。北海道エリアにおける濃縮つゆ「めんみ」という簡便調味料だ。

「北海道では、1961年に発売した濃縮つゆ『めんみ(当時の名称は『めん類用まんみ』)』が、めんつゆとしてだけでなく、丼物、煮物、鍋物等のあらゆる料理に広く使われることで、今日でも強いご支持をいただいています。また、当社では現在、北海道向けの『あまくちしょうゆ』、東北向けの『まろやかしょうゆ』、甲信越向けの『うまくちしょうゆ』、近畿・北陸・九州向けの『あまくちしょうゆ』、九州向けの『九州うまくちまろやかしょうゆ』など、各地域の方々の嗜好に合わせた商品も販売しています」

また、キッコーマンでは冒頭の3つのしょうゆの製造法のうち、「本醸造方式」をベースにしながら、火入れ(加熱殺菌)しない「生しょうゆ」、大豆を100%使用してそのうまみを丸ごと引き出した「特選 丸大豆しょうゆ」、食塩分をカットした「減塩しょうゆ」なども展開。常に健康とおいしさの両方を意識しながら、社会の変化に応じてしょうゆを進化させ続けている。

「ほかにも、有機原料を使用した『特選有機しょうゆ』、大豆や小麦を使わずにつくる『えんどうまめしょうゆ』、血圧が高めの方のための『大豆ペプチド減塩しょうゆ』、さらに『ハラールしょうゆ』や『だししょうゆ』といったラインナップがあります。毎日の食卓に欠かせないしょうゆにも、実はたくさんの種類と、それぞれに適した使い方があります。これを知っていただき、活用いただくことで、食卓がより豊かになることと思います」

最後に、この年末年始にぜひ作ってほしいという、しょうゆを使ったおすすめ料理を聞いた。

「当社のレシピサイトやアンケートの結果では、年末年始に家族や仲間が集まった際のごちそうとして『すき焼き』を手づくりして召しあがる方が多いことがわかりました。当社のレシピサイトでは12月・1月の閲覧数1位のレシピは、長年『すき焼き』です。特にお正月は、おせちとともに食卓に欠かせないメニューである『すき焼き』をぜひお楽しみいただきたいです。2023年も、しょうゆを通して皆さまの食卓を豊かにしていきたいと考えています。2023年もご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします」

取材・文=松田義人(deco)

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