
高校の文化祭や体育祭などのイベントで欠かすことができないものといえば、クラス全員で着用するおそろいの「クラスTシャツ」。クラスメイトや先生の名前、クラスのスローガンなどが書かれたTシャツを着て学校行事を楽しんだという人は多いのではないだろうか。また、大人になってからもパジャマや部屋着として愛用している人もいるのでは?
そんなクラスTシャツが今、進化を遂げている。10年ほど前に高校時代を過ごした28歳の筆者が着ていたものは、カラーシャツにクラス全員と担任の名前が入っているのみというシンプルなものだった。だが現在は、描いたイラストをスマートフォンで写真に撮って送ることができたり、印刷技術の向上で細やかなデザインが作れたりという進化も相まって、高校生たちが注文するTシャツのクオリティが年々上がっているのだという。
今回はクラスTシャツ製作実績日本一で、年間167万枚のクラスTシャツの製作・販売を手掛けるクラTジャパンの伊藤未帆さんに、クラスTシャツの現状について聞いた。
■専門の製作会社の増加で全国に浸透したクラスTシャツ
クラスTシャツが学校行事のアイテムとして広まったのは、1980年代後半頃。もともとは地域のスポーツ用品店や制服を作る会社が製作を請け負っていたが、時代が進むにつれ、クラTジャパンをはじめとしたクラスTシャツ製作の会社ができていったそうだ。これらの会社が学校にカタログや資料を送ったりと営業活動に努めたことで、クラスでTシャツを作る文化が徐々に全国に定着していった。
製作会社が増えた影響で全国の学校でクラスTシャツが作られるようになったが、カラー印刷ができたり細かなデザインのTシャツが作れるようになったのは最近のこと。2000年代頃まではTシャツに1色だけの印刷など製作のレパートリーが少なかったが、そこから印刷技術が進化してカラー印刷や多色刷りができるようになった。
「以前は主流であった『シルクスクリーンプリント』という、“版”と言われる型枠にインクを流し込んで職人が1枚1枚手作業でTシャツにプリントする技法を用いたり、お客様一人ひとりの個別の名前や番号を入れるためにはカッティングシートにプリントした文字や数字を切り抜く作業が必要だったため、画数の多い漢字や複雑なデザインが難しく、単純なデザインのものしか作ることができませんでした。ですが近年では最新の技術が導入されたことによって、色のアレンジや自由なデザインが可能になりました」
多くの色を使用できる「ダイレクトカラープリント」や、キラキラ輝く文字の「ラメプリント」、背中一面を飾れる「ネームナンバープリント」など、印刷の方法や技術も多様化し、さまざまなデザインに対応できるように。高校生たちが作る希望のデザインを忠実に印刷できるようになった。
■トレンドは「一致団結」と「自分らしさ」の両立
クラスTシャツといえば、「クラス全員の名前が書いてあった」という人も少なくないだろう。今でも全員の名前を入れたデザインは定番で、毎年一定数の注文があるそうだ。また、最近では高校生たちがTシャツを着た姿で撮った写真などをInstagramやTikTokといったSNSに投稿することが、新たな楽しみ方の1つになっている。そのため、SNSでの投稿を前提にした、いわゆる「写真映え」を意識したクラスTシャツが多くデザインされている。
「SNSでデザインが拡散されることによってトレンドになるデザインもありますね。近年ではクラスの一人ひとりが自分をイメージする背番号とキャッチコピーを入れたゼッケンスタイルのものが人気で、自分らしさやアイデンティティを表現することができるデザインがトレンドになっています」
これまではクラス全員の名前を入れ、みんなで同じデザインのTシャツを着る“一体感”が重視されていた。しかし今は多様性の時代でもあるためか、“自分が何者であるか”というコンセプトが反映されていて、みんなと同じ色やデザインでありながらも個を際立たせるのが流行になっている。
また、「デザインを考えるのが難しい」というクラスも多いそうで、文字や書体、配色などを調整すれば簡単にオリジナルデザインが作成可能な、豊富なデザインテンプレートが用意されている。なかでも人気なのが、企業やブランドのロゴをパロディしたデザインだ。
「人気が高いのは、みんなが知っている『GUCCI』のような高級ブランドや、『Patagonia』『THE NORTH FACE』などのメーカーのデザインを模したパロディものです。最近は『レアル・マドリード』や『FCバルセロナ』といった有名サッカーチームのユニフォームを模したデザインも人気ですね。既視感のあるデザインだと、同級生や先輩後輩で盛り上がることができると好評です」
デザインだけでなく、サイズや種類にもトレンドが。最近はオーバーサイズの服がトレンドのため、ダボッとしたビッグシルエットTシャツの注文が多く、また、アニメ『おそ松さん』が人気だった時期にはポロシャツがよく注文されたという。クラスTシャツのトレンドはその時代の流行がダイレクトに反映される傾向がある。
■プロも顔負け!クオリティが高すぎるクラT4選
技術革新がされて多様なデザインが作れるようになったクラスTシャツ。クラTジャパンでは年に一度、優秀なデザインを選ぶコンテスト「クラTジャパンカップ」を行っていて、その1年でデザインが優秀だったTシャツをピックアップしている。
注文されるTシャツのなかにはデザインのプロが驚くような力作もあるそうで、高校生たちの気合の入れ具合を感じるそうだ。2022年上半期にクラTジャパンが製作したのは、全国5400クラス、約16万枚のTシャツ。そのなかから社内投票で4校のTシャツが選ばれた。
「明治大学付属明治高等学校1年B組」の作品は、クールな手描きのイラストが目を引くもので、ロゴの“BECOME BROTHER”は、“兄弟のように仲良くなり一致団結する”という意味が込められたクラスのスローガン。プロによる調整や修正などは一切加えておらず、生徒たち自身がイチからデザインしたという。
「東京都立国立高校3年2組」はネオン風のイラスト。あまりにおしゃれなデザインに、社内のデザイナーも驚いたそう。流行りのレトロなデザインでポロシャツが一気に今風に。イラストは文化祭で発表する劇のテーマに合わせており、まさに唯一無二のデザインだ。
「茅ヶ崎高等学校1年4組」の作品は、まるでアート作品のようなバラが目を引くデザイン。バラの絵をよく見ると、クラスメイト全員分の名前や、高校生活に関係のある言葉が入っている。細部までこだわりが詰まったデザインには脱帽せざるを得ない。
「高崎高等学校3年1組」は、先生の似顔絵をデザインしたシャツに。イラストの背景の文字を、生徒用は英語、先生用はその日本語訳にして答え合わせができるというユニークなアイデアのもの。数年後に見てもクスッと笑えるようなデザインだ。自分たちのクラスだからこそ理解ができる共通項を活かして作った力作だ。
忘れられない先生の名言やクラスのスローガン、同級生の名前など、大人になってから見ると、もう戻れないあの日々を思い出させてくれるクラスTシャツ。技術の進化によってデザインの自由度も高くなり、思いのままに表現できるようになったことで、さらに生徒たちの青春が詰まったシャツを作れるようになった。
■行事復活につき、注文件数が爆増!青春を彩るクラスTシャツ
2022年は学校行事が復活した年。コロナの影響で学校行事が軒並み中止になっていた空白の2年間を経て、ようやく文化祭や体育祭が開催できた学校が多かったという。そのため、今年のTシャツの注文件数は過去最高レベルだそうで、クラTジャパンには4月頃から文化祭シーズンの秋頃に入るまで、1カ月に2000件ほどの注文があった。
「社内では、今年こそより多くの学生の方々にクラスTシャツをお届けしたいという強い思いがありました。特に4月~10月のウェア部門全体の売上高が昨年比140%増と、多くの注文をいただくことができました。学生さんたちにとって学校行事はかけがえのない青春の思い出です。そんな学校生活の一部を彩るクラスTシャツを今年はたくさん製作することができ、とてもうれしく感じています」
クラスTシャツは学校行事には欠かせないアイテム。文化祭や体育祭で活躍することはもちろんだが、ふと思い出して手に取ってみると学生生活を色濃く思い出すことができる、大人にとっても大切なアイテムだ。青春の1ページを鮮やかに彩ってくれるクラスTシャツは、これからも高校生たちの思い出の一部になるだろう。
取材=福井求(にげば企画)
文=永田奏歩(にげば企画)