「カルピス」「三ツ矢サイダー」「WONDA」「十六茶」「ウィルキンソン」「おいしい水」をはじめとする複数のブランドを持つアサヒ飲料。このうち、「三ツ矢サイダー」「カルピス」「ウィルキンソン」は100年以上続くブランドであり、「世代をつなぐ」「歴史あるものを現代につなぐ」といった力に長けたメーカーと言って良いだろう。
未来を見据えた取り組みにも積極的で、「100年のワクワクと笑顔を。」というテーマを掲げ、長いときをかけて、人に、社会に、価値あるものをつないでいく取り組みにも注力している。重点課題として「健康」「環境」「地域共創」をあげ、強みを活かした新しい価値を創造することでCSV経営の推進を加速している。
中でも、アサヒ飲料ならではの実践に「『カルピス』こども乳酸菌研究所」、「『三ツ矢サイダー』水の未来と環境教室」、「アサヒ飲料 発酵文化教室・カルピスと発酵から学ぶ私達の生活や文化(オンライン)」といったものがある。いずれも子供たちを対象にした、同社ならではの質の高い教育プログラムだが、前述の「健康」「環境」「地域共創」といったテーマに準じたものでもある。
今回はこの取り組みにフォーカスし、アサヒ飲料のCSV戦略部・プロデューサーの大沼美由紀さんに話を聞いた。
■インプットだけで終わりではなく、アウトプットまでを大切にしたプログラム
まず「『カルピス』こども乳酸菌研究所」から見てみよう。子供たちが大好きな「カルピス」を題材に、乳酸菌や酵母など、微生物による発酵の力を、五感を使って体感する食育授業で、アサヒ飲料の社員が全国の小学校へ「出前授業」として出向き実施されているものだ。
次世代を担う子供たちが、身近な飲み物にも多くの知らないことがあるという「気づき」をきっかけに、「食」「未来への夢」に関心を高めてもらうことを目的とし、キャリア教育としても評価が高いプログラムだという。
【アサヒ飲料・大沼さん】「『カルピス菌』(乳酸菌と酵母)で発酵させてできる『カルピス』の発酵による変化の過程を実験し体感してもらうプログラムです。これは文部科学省のアクティブ・ラーニング(生徒が能動的に考えることを促す教育法)などの方針も拝見した上で、『学校が求めている授業はどのようなものか』ということも考慮した授業構成を心がけています。子供たちに、乳酸菌や発酵の知識をインプットして終わるのではなく、体感した上でアウトプットする時間も重要視しています。
例えば、乳酸菌や発酵のことを子供たちが体感した後、『発酵の力を活用して、あなたならどういった発明を生み出したいですか』と問いかけ、子供たちに自由にアイデアを出してもらいます。子供たちのアイデアは本当に自由ですが、大人では思いつかないような独創的なアイデアも多く、興味深いものでした。弊社の掲げる重点課題で言うと、『健康』と『地域共創』をかけ合わせた試みだと捉えています」
■「水」「ろ過」の仕組みを学び、SDGsを身近なところへ置き換えて考えるプログラム
続いて、「『三ツ矢サイダー』水の未来と環境教室」を見てみよう。こちらは「三ツ矢サイダー」を題材にした出前授業で、「軟水・硬水」の違いや「ろ過」の仕組みについて、実験を通して学習するというもの。授業後半では身近な事例をもとにSDGsについて学び、「水」や「地球環境」に関する項目について「自分たちができること」を考え、環境問題解決への意欲を育むというプログラムである。
【アサヒ飲料・大沼さん】「こちらは小学4〜6年生を対象にしたもので、『水資源について学ぶ』ことをテーマにしたプログラムです。『三ツ矢サイダー』の原料となる水は、日本人が最も飲みやすいと感じる硬度に調整して作っているのですが、子どもたちに軟水と硬水を飲み比べてもらい、『何これ、苦く感じる!』『さっきの水の方が飲みやすい!』など硬度による味わいの違いを体感してもらうことを皮切りに、『軟水と硬水』『水の循環』『ろ過の仕組み』などの学びへと展開します。ここでのアウトプットは、SDGsの課題解決に向けて、自分たちができることについてディスカッションするものです。『世界には水が枯渇している国も少なくない』『その上で私たちができるアクションってなんだろう』などを考えてもらい、各班で付箋に書いて、最後に発表してもらいます。このプログラムは弊社の掲げる重点課題の『環境』と『地域共創』に関わる取り組みです」
■コロナ禍で生まれたオンライン版授業は、「自分たちが住む地域」を学ぶプログラム
最後に、オンラインによる「アサヒ飲料 発酵文化教室・『カルピス』と発酵から学ぶ私達の生活や文化」も見てみよう。前述の「『カルピス』こども乳酸菌研究所」と「『三ツ矢サイダー』水の未来と環境教室」は社員らが学校を訪問する「出前授業」形式だが、コロナ禍を背景に、オンライン版の授業として立ち上がったものだ。これまで実施してきたプログラムをそのままオンラインに変えて実施するのではなく、オンラインならではのプログラムとして「自分たちの地元でよく食べられている食品」「地元の気候や食べ物の歴史」など、「自分たちが住んでいる地域」を学ぶことに特化した授業だ。そこに「カルピス」発酵のエッセンスを盛り込み、これまでのプログラムとはまた違う社会科の授業になっているという。
【アサヒ飲料・大沼さん】「各地の子供たちに地元の発酵食について学んでもらいます。1時間目には知識のインプットとして、学校の先生に発酵のしくみや、土地の風土と食文化との関係について授業をしていただきます。この後、1時間目と2時間目の間に『探究活動』という時間があります。これは子供たちがグループに分かれ、地元の発酵食を何か1つ決め、その土地での成り立ちや製造方法、発酵によってどんな変化が起きるのかなどを調べます。ここで調べたものを2時間目に当社社員と遠隔接続し、発表してもらうというプログラムです。これは『地域共創』の取り組みです。『出前授業で育んできた将来世代へのワクワクや笑顔の提供を、どうしたらアサヒ飲料はコロナ禍にあっても地域に寄りそうことができるのか』と悩んでいたことを一つ実現できた授業でもありました」
■これからの企業は、財務的価値・社会的価値を両輪で走らせなければいけない
繰り返しになるが、ここまでにご紹介した3つのプログラムは、いずれもアサヒ飲料が掲げる社会貢献活動の「健康」「環境」「地域共創」のいずれかに伴うものだ。同時にSDGsのターゲットにもリンクする、実に有意義な取り組みである。一方、ここで素朴な疑問もある。これら3つのプログラムは、「カルピス」「三ツ矢サイダー」といった自社ブランドを冠したものになるが、各ブランドの販促的な意味合いはほとんどない。SDGsやサステナブルな取り組み、社会貢献活動を行う際、同時にブランドの販促活動を図る例も少なくないが、この点について、アサヒ飲料はどう考えているのだろうか。最後に聞いてみた。
【アサヒ飲料・大沼さん】「これらの取り組みは『カルピス』『三ツ矢サイダー』が『明日100ケース売るために実施しよう』といったものではありません。100年ブランドを保有する当社だからこそ、100年先の未来を形成していく将来世代へ向けた、社会的価値を生み出すことを目的にしています。これから先、企業は財務的価値だけを追求するのではなく、同時に社会的価値も両輪で走らせないといけません。『商売だけでなく、社会課題の解決にもつなげていくことで、社会に対する良い影響を与えることは当然です。また、企業体として見ても、こういった社会をより良い状態にする取り組みを実施することで、社内にかえってみても組織を構築する社員のモチベーションに良い影響を与え、強い組織になり、会社もより良い状態になると考えています。
『カルピス』も、今から100年以上前、まだ牛乳を飲むことが一般的ではなかった時代に、牛乳由来のカルシウムを含んだ飲み物を作り、人々の健康に役立ちたいという思いから生み出されました。『何かを成し遂げたい』と目的をもって『学ぶ』ことで、ゼロから新しい価値が生まれたのです。これは今の子供たちにも伝えていきたいことです。子供たちに『良質な学びを』などと大それたことを言うつもりは全くないですが、『学ぶ』ことの楽しさ、『夢を持つ』意義を伝えていくことが、社会に良い効果を生んでいくと思いますし、回り回って、私たちに何倍もの価値として返ってくると信じています」