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ポストも地面も自販機も「将棋」だらけ!将棋を推しすぎる街・山形県天童市に行ってみた

  • 2022年8月28日
  • Walkerplus

山形県山形市から、北へ約13キロの場所にある天童市。温泉が湧き出るのどかな街で、近年では山形市に対するベッドタウン的な役割も果たしているというが、駅を降りてまず驚くのが、駅に掲げられた天童市のキャッチコピーに「湯のまち天童 あなたの旅に、王手」とあることだ。

筆者もこの日は旅の途中だったが、「王手」ということは「もうお前は逃れられないぞ!」「お前は負けなのだ!」ということになる。旅に勝ち負けがあるかどうかはさておき、このコピーに天童市の将棋に対する矜持を感じたことは確かである。

駅に降り立った瞬間から将棋一色の天童市。この将棋推しはどこまで続くのか、なぜここまで将棋を推しているのか。街を巡りながらその謎に迫った。

■「将棋スリッパ」まで!?街のあらゆるところに将棋モチーフ
駅構内には将棋の駒の形の時計が飾ってあり、「かわいいな」なんて思いつつ駅の外に出てみたが、駅から出てもとにかく街中あふれんばかりに将棋だらけだった。地面には将棋盤を模した装飾があり、温泉やホテルを示す看板の上には巨大な将棋の駒、タクシーの行灯も将棋の駒、将棋をモチーフにした商業施設「将棋むら天童タワー」の看板ももちろん将棋の駒である。

さらに「将棋むら天童タワー」のなかに入れば、格式高い巨大な飾り駒が販売されている一方で将棋柄のスリッパなども売られていた。将棋をモチーフにした商業施設なのだから当然か…と思いつつ、次に「道の駅『天童温泉』」に行ってみてもやっぱり将棋の駒。将棋の駒型のパスタまで売られていた。もはや1泊では追いきれないくらい将棋だらけだ。

聞けば、地元では毎年春に「天童桜まつり人間将棋」という名物イベントがあるという。「人間将棋」とは戦国時代の戦に見立て、兵士などに扮した人間が将棋の駒となり、巨大な将棋盤を舞台に相手の軍と戦うもの。この様子を見学しながら、同時に桜も楽しむのが山形の春の風物詩なのだそう。

しかし、どうしてそこまで将棋推しなのか。その秘密を探るため、「天童市将棋資料館」に行ってみることにした。

■なぜここまで将棋だらけ?きっかけは191年前
将棋のルーツは古代インドに存在した「チャトランガ」というボードゲームだが、これが世界中に派生し、中国・朝鮮を通じて日本にも伝来したと言われている。詳細は不明だが1058〜1065年頃と言われており、山形県を含む日本各地に伝わった。

ここ天童市が将棋に深く関わるようになるのは、その約800年後の1831年(天保2年)のこと。将棋駒づくりを行っていた織田藩が高畠から天童へ移管するにともない、将棋駒の製作技術が一緒に導入されたのが始まりだと推定されている。織田藩の将棋駒づくりがいつから始まったかは不明だが、少なくとも移管前(1767〜1831年)には行われていたようだ。これを継承するように幕末の重臣・吉田大八によって米沢から指導者を招くなどし、積極的に奨励され、今日の天童将棋の基礎が築かれたと言われている。

このことが天童将棋駒の振興のきっかけとなり、今日では国産駒の9割がここ天童市で生産されるほど、日本屈指の将棋の駒の街になった。

■4724名が一同に対局を行い世界記録を樹立!
天童将棋は「書き駒」「盛り上げ駒」「彫り駒」「彫り埋め駒」といった駒の種類に対し、昔から多くの種類の木材が用いられ、また書体の種類も多く存在する。これら将棋の駒を製作する名人が天童市内に複数おり、将棋ファンの間では神格化されているようだ。

天童市ではもっと将棋の魅力を伝えようと、前述の「人間将棋」以外にもさまざまな催しを行っている。「将棋×サッカーコラボイベント」「将棋フェスティバル」「漫画『3月のライオン』とのコラボ」「将棋教室」など、老若男女問わず誰でも参加したくなるものばかりだ。

また、2018年には「二千局盤来2018」というイベントで同時対局数の世界記録に挑戦し、天童市を舞台に2362局が世界記録を樹立。2362局なので、4724名が認定されたことになるが、実際の参加者数は4760人。非常に多くの人々が一同に対局を行ったということになる。

先人たちが継承し続けた将棋の駒作りはもちろん、「人間将棋」を実施したり4724名もの人が一同に対局を行うなど、人力のすごさと将棋愛をまざまざと見せつけてくれる天童市。特別な将棋ファンならずとも、なんらかの感動と喜びを得られる街だと感じた。

冒頭で触れた「湯のまち天童 あなたの旅に、王手」という看板の通り、確かに天童市の魅力から逃がれられなくなった。山形市内からアクセスもしやすく温泉も豊富な街なので、東北を巡る際にはぜひ多くの人に立ち寄ってほしい街だ。

取材・文=松田義人(deco)

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