音楽や映画をはじめ、最近ではブランド品や生け花のサブスクリプション(以下サブスク)まで登場し、世はまさにサブスク時代。そんななか、“おやつの定期便”というサービスを行っている「スナックミー」。1880円で4週間に一度、100種類以上あるなかから8つのおやつが届くというサービスだ。
おやつは焼き菓子、おかき、ドライフルーツに至るまで幅広い種類が取り揃えられているが、最も特徴的なのは、これらのおやつが毎回ランダムで届くというところだ。アレルギーや好みなどはあらかじめ伝えることはできるのだが、「好きなものを好きなだけ」というわけではなく、自分の趣向に沿ったものをスナックミー側が選んで送ってくれるというシステムになっている。
筆者は以前よりこのサービスを利用していたのだが、自分が好きなおやつが届く時と、あまり食べたことがないものが届く時があるのが実情だ。そこで今回は、「なぜこのようなシステムになっているのか」「そもそもおやつのサブスクを始めようとしたのはなぜなのか」という疑問を株式会社スナックミーの地曵美乃里さんにぶつけてみた。
■ヒントはマルシェ!ワクワクが詰まった「おやつBOX」の出発点
――いつもスナックミーの「おやつBOX」が届くのを楽しみにしています!この「おやつBOX」というおやつのサブスクはどういった経緯で始められたのでしょうか?
「『おやつBOX』というサービスは2016年から始めたもので、当時は『サブスクをやろう』という思いではなかったんです。弊社の代表が間食好きで、おやつをよく食べる人だったんですね。ただ子供が産まれて、その子供が自分が食べているものをねだってくると、『あげていいんだろうか』と不安に感じたらしいです。
そんな時に青山や恵比寿で行われているマルシェに行くと、シンプルでこだわりの詰まった食べ物が代わる代わる売られているのを見てとてもワクワクしたそうで、IT業界出身だった代表が『この体験をオンラインで提供できないか』と考えたんです。『おやつBOX』はマルシェで感じるワクワク感を定期的に届けたい、という思いからスタートしました」
――マルシェで目新しいものを見て回る感覚って、すごくワクワクしますよね。たしかに「おやつBOX」が届いた時も同じ感覚です。
「もっと身近なものだと、道の駅も近いと思います。ラインナップが頻繁に変わるし、生産者の方が実際にいらして、お話を聞きながら購入できるのが楽しいですよね。そういう感覚にも近いと思います」
――なるほど。「おやつBOX」のサービスを受け始めた時に疑問に思ったのが、“ランダムにおやつが届く”というところなんですが、なぜそうすることになったんですか?
「海外でもおやつのサブスクがあって、結構パーソナライズに提供しているところが成功モデルとして多いんです。利用者の傾向を分析して、好き嫌いやアレルギーなども加味して会社側が届けるというスタイルですね。日本で受け入れられるかは未知数だったのですが、おもしろい取り組みなのでやってみよう!ということになったんです。
実際に始めてみると興味深い発見があって、私たちは毎回8つのお菓子を提供しているんですが、『8つ全部が好きなおやつだ』という方よりも『1つ2つ、好きかどうかわからないおやつがある』という方のほうが継続率が高いんです。好きなものばかりだと同じものばかりになってしまって、意外と飽きちゃうんだと思います。毎回新しい気づきみたいなものがあるほうが続けていただけるのかもしれないですね」
――自分が好きなものが届くとうれしいんですけど、自分ではあまり手に取らないドライフルーツとかが入っていると「おっ!」となりますね。
「ドライフルーツって、だいたいの方がレーズンがきっかけで好き嫌いが分かれちゃうと思うんですが、レーズン以外のドライフルーツも試してもらうと、『自分はレーズンがダメだっただけなんだ』と気づけると思うんです。実際に、『ドライフルーツが含まれているから避けていた料理などが食べられるようになった』という利用者さんの声をいただいたこともあります」
――おやつ以外のところにも、「食」に関するきっかけが生まれるんですね。
「そういうお話を聞くと、こちらはとてもうれしいですね」
――パーソナライズというところも、最近だとサプリメントやプロテインでもよく聞きますね。自分で自分を分析するのってすごく難しいので、第三者の目線で診断してくれて、自分に合ったものを選んでくれるとすごく助かります。
「スナックミーは利用者さん本人のデータだけではなく、ほかの利用者さんのデータも掛け合わせて見ていくので、『これを好きな人はこれも好き』とおやつを提案していくんです。なので、おやつの会社なのに社員数で1番多いのがエンジニアなんです(笑)」
■苦手なお菓子が届いても安心。「おやつBOX」の楽しみ方
――個人的には「おやつBOX」の箱も楽しみの1つなんです。初回はシンプルなネイビーの箱で届いたのが2回目以降は毎回違ったデザインの箱で届くようになって、「次はどんな箱で届くのかな」といつも楽しみです。パッケージの工夫についてもお聞きしたいです。
「初回は『スナックミーはこういうものです』というインパクト重視でお送りしているんです。2回目以降は季節性を重視した色合いやデザインで、『季節感を感じてほしい』という思いがあります。それと、このサービスって決して安いわけではないですし、毎月の自分へのご褒美として購入してくださる方が多いので、ポストを開けた瞬間にテンションが上がるような、贈り物が届いたような感覚になってくださればいいなと思っています。私たちも、贈り物をお送りしているような気持ちでいるんです」
――私自身も自分へのご褒美感覚で受け取っていて、箱を見るだけで癒やされています。箱の工夫はほかにもあるのでしょうか?
「初回の箱は内側がすごろくになっていて、『このサービスをこういうふうに受けると楽しめますよ』ということをお伝えしていますね。あと、同封している冊子にはおやつの情報や4コマ漫画なんかも載せています」
――箱の中には、おやつが食べ切れなかった時や食べられないものが届いた時のための寄付用の封筒が入っていると思うのですが、これを始めるきっかけはなんだったんですか?
「私たちは毎週、利用者さんにスナックミーを利用している感想をヒアリングをさせていただいているんですが、その際『食べられないおやつが届いてしまった時、どうしていいかわからない』という声があったんです。私たちもそうならないようにしたいのですが、どれだけデータを駆使してもゼロにすることはできなくて。
そこで、『自分は食べられないけど、誰かは好きなものかもしれない』というふうに発想を転換すれば少しは楽になるかもしれないと思ったんです。おやつの寄付が子供に喜ばれることを児童養護施設の方から聞いたこともあり、このサービスが始まりました。寄付封筒があることで『誰かのためになっていることがうれしい』と言ってもらえて、本当にやってよかったと思っています」
■「なければ作ってみる」パティシエがいるからこその挑戦
――データの解析がすごく多いということだったんですが、利用者の傾向はどうですか?
「20~40代の女性が多いです。『おやつBOX』のスタートが“子供向けのおやつを”というものだったのでママさん向けかなと思っていたんですが、単身のOLさんにも多くご利用いただいていますね。特にコロナ禍になってからは、以前頻繁にカフェに行っていた方の利用も増えました。全体的に『食』への探求心がある方、新しいものやこれまでにないおやつとの出合いを求めていらっしゃる方が多い印象です。毎月期待に応えられているか不安ですが、これからもがんばっていきたいです」
――おやつの種類も本当にたくさんありますが、どのようにしてラインナップが増えていくんでしょうか?
「お菓子の種類はこれまでで2000種類くらいに達しているんですが、『利用者さんを飽きさせないように』という思いからバイヤーが全国を行脚したり、オンラインで商談したりした結果ですね。あとは、社員が個人的な旅行に行った時においしいおやつに出合って、『これおいしかったよ』といった感じで報告し合ったりもします。毎日試食会するような勢いでラインナップを増やしていっています」
――すごい数ですね…。利用者さんからの声で商品化したおやつもあるんでしょうか?
「サービスを始めた頃、妊婦の利用者さんから『カフェインが取れなくなったのでチョコレートが食べられなくなってしまった』という相談があったんです。そこで、ナッツやドライフルーツなどを混ぜて攪拌することでチョコレートに近い風味を作り出して、おやつにしてお届けしたんです。そうしたらすごく喜んでいただけて、その後も同じものをバレンタインに出したりしました。
あとは、今でこそプロテインバーってすごく種類があっておいしいものが多いと思うんですが、数年前はそこまで進化していなくて食べにくい印象でした。さらに『プロテイン』と聞くと筋肉をつけるイメージがあり、女性には抵抗があったみたいなんです。『おやつとして気軽に食べられるものがほしい』という声があり、チューインガムのような感覚で食べられるプロテインバーを作りました。社内にはパティシエもいますから、ほかではないおやつを作ったりできるんです」
――パティシエの方がいておやつを自社開発することもあるということでしたが、バイヤーさんが買い付けされる場合と、自社開発される場合の基準みたいなものはあるんですか?
「特に明確な基準はないのですが、自社開発で作るお菓子は焼き菓子が多いです。少ない原料でおいしいおやつを作ることへの挑戦という面もあります。焼き菓子にはあまり使われないフレーバーを使ってみたりすることもありますね。自社で作る方がチャレンジングでアグレッシブな商品が多い気がします」
――自社開発で生まれた、挑戦的なおやつにはどんなものがありますか?
「カソナードってご存知ですか?」
――いえ、初めて聞きました!
「お砂糖の名前なんです。海外だとカソナードを使ったおやつが多いんですが、日本だと知名度が低くて『これを使ってお菓子を作ってほしい』とお願いしても気後れしちゃうみたいなんですね。使ったことのない珍しい素材でも、自社だと『えいや!』とやってしまえるので、うちではカソナードを使ったお菓子もあります。『ないならまずは自分たちでやってみよう』という思いがあります」
■新たな食との出合いのために
――「おやつのサブスク」という今までにないサービスを提供しているスナックミーですが、サービス全体でこだわっていることなどはありますか?
「スナックミーのサービス自体のコンセプトとして、『わぉ!を届けて心と体を満たす』というものがあります。『こんなおやつもありなんだ』とか『こんな組み合わせもありなんだ』というような、期待を超える新しい発見をお届けできるように、という思いを込めています」
――まさにいつも「わぉ!」を届けてもらっています。今後どのようなことに力を入れるのか、展開予定のサービスなどがありましたら教えてください。
「定期便だけではなくオンラインショップや直営店も展開していて、とてもご好評いただいているので、もっと直営店の店舗数を増やしていきたいですね。あとは都心に限ってしまうのですが一部のコンビニでも展開していて、より多くの人にほしいタイミングでおやつを手に取っていただけるようになればと思いますし、そこから定期便にも興味を持っていただきたいです」
――オンラインショップ、拝見したことあります。「好きなおやつをお取り寄せできるんだ!」とうれしくなったのですが、お菓子以外にグッズなども展開されていて驚きました。しかもすごくかわいくて!
「そうなんです。Tシャツとかもありますよ!自社専属キャラクターで、おやつ時間の楽しさを伝える役割を担っている『りっす』は、YouTubeで動画も出しているんです。今後はりっすのグッズ展開も予定していて、りっすを通じて癒やしをお届けできればと思います」
――楽しみですね!今後、お食事系に展開される予定はないのでしょうか?これだけおやつがおいしいと、ご飯系にも期待しちゃいます!
「今のところその予定はないんですが、おやつ以外だとドリンクも拡充しています。あとはグラノーラとか。朝の時間にはまだまだ可能性があると考えていて、オートミールなんかも取り入れてみたりしています。『24時間の食生活を、スナックミーで制覇出来たらいいね』なんて話しているんですよ(笑)」
――材料がシンプルで健康的だし、ちょっとした夜食などもあればうれしいです!24時間制覇、楽しみです。
インタビュー中、地曵さんがこれまで開発してきたおやつについて話している時、常に自分たちも楽しむことを忘れていないのだろう、ということが伝わってきた。凄まじいチャレンジ精神から生まれたおやつはどれも、家族やパートナーと楽しむもよし、自分へのご褒美にするもよし。掌サイズの小さなドキドキではあるものの、人生を豊かにしてくれるのではないだろうか。
取材・文=織田繭