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神戸どうぶつ王国のハシビロコウはめっちゃ動く!「人に慣れてほしくない」と語る飼育員の真意とは?【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】

  • 2022年7月14日
  • Walkerplus

野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。

そんな時代が訪れないことを願って、会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取り組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。今回は、神戸市の「神戸どうぶつ王国」でハシビロコウの飼育を担当する長嶋敏博さんにお話を聞いた。



■人の顔を見分けて態度を変える賢い鳥
――神戸どうぶつ王国では2014年からハシビロコウを迎え、現在はオスのボンゴ(推定10歳)と、2015年に来園したメスのマリンバ(推定7歳)の2羽を飼育している。長嶋さんによると、彼らは人を見分けることができるそうだ。

彼らは飼育員とそうでない人を見分けることができ、さらに飼育員一人ひとりの違いも分かっています。私に対しての反応は、あまりよくないですね…(苦笑)。閉園したらそれぞれの部屋に連れて帰るのですが、ボンゴは私が近づくと萎縮して座り込み、口を開けて威嚇してきます。「これ以上そばに来ないで!」と言ってるんです。

飼育する動物の健康状態を把握するために時々彼らを捕まえることがあるのですが、私がその役割を担当しているため、「捕まえられる、何か嫌なことをされる」と思うようです。ほかのスタッフが近づいても、そんな態度はとりません。

ボンゴはメスに関心を示すものの、いざとなるとどうしていいかわからなくて攻撃しちゃいます。彼らは単独で生活する鳥なので、縄張り意識からそういう態度をとるのかもしれません。

一方、メスのマリンバはあまり人に慣れておらず、少しビビりちゃんです。

■ハシビロコウの故郷・アフリカの湿地を再現した生態園で繁殖を目指す
――神戸どうぶつ王国では2021年4月、ハシビロコウ生態園 「Big bill」(以下、ビッグビル)をオープンさせた。これはクラウドファンディング「花と動物と人との懸け橋プロジェクト」により実現したもので、多くの人の希少動物を守りたいという願いが形になったものだ。

「ビッグビル」は、その名の通りハシビロコウの生息域であるアフリカの湿地帯を再現したエリアで、国内のハシビロコウを飼育している園館では最大の広さです。外側はネットで覆われていて、高さは最大約20メートル。元々はバードパフォーマンスショーを行っていた場所で真ん中には大きな池があり、それをそのまま使用しています。

植物専門のスタッフがハシビロコウの生息するアフリカの湿地を再現するために、このエリアの植栽を行いました。生息地とリンクしているパピルスも植えられています。また、彼らの生息域は雨季と乾季に分かれているため、ビッグビルも雨季と乾季を再現できるよう人工降雨機を設置しています。

■ペットじゃないから、人には慣れてほしくない
――ビッグビルによって、野生下に近い環境での飼育が可能になった。そんななか長嶋さんには、気を付けていることがあるという。

野生動物なので、ペットのようにかわいがることはできません。繁殖を目指す施設なので、どちらかというと人には慣れてほしくない。ハシビロコウにはくちばしをカタカタ慣らし、お辞儀をしてコミュニケーションをとる「クラッタリング」という行動があり、時々飼育員に対して行うことがあります。しかし私たちは、それに対して答えることはしません。繁殖に悪影響があると考えています。

■繁殖はもうちょっと先?
――ビッグビルが作られた大きな目的が、ハシビロコウの繁殖。神戸どうぶつ王国ではハシビロコウの飼育当初から、繁殖を目指してチャレンジしてきた。

個体間の相性を見ていると、まだ少し繁殖には遠いという印象です。しかしビッグビルに移動してから、今まであまり見られなかった行動も出てきています。これまでは広さの問題から難しかったのかもしれませんが、オスがメスを探すような行動が増えてきました。具体的には上空を旋回しながら飛んでいます。

今までは移動する時に飛ぶ程度だったのが、そういった変化も見受けられるようになったので面白いなと思いつつ、注視しています。ちょっとした行動の変化や状態を観察し、臨機応変に対応できるように心がけています。たとえば、日照時間が長くなって運動量も増えてきているので、そろそろビッグビルの環境を繁殖期の「乾季」に変えるなど。

アフリカの生息地では乾季が繁殖期、雨季が非繁殖期です。繁殖期の環境にする際は、ビッグビルの降雨をやめて池の水位を下げ、乾季を再現する必要があります。池の水位を下げると、エサとなる魚が取りやすくなります。もちろん、水位を下げただけでは何の意味もありません。豊富なエサがあることをハシビロコウに知ってもらうため、新たな魚を入れておくことも準備の一環です。

池にはナマズ、ドジョウ、ティラピアが放たれていて、ハシビロコウが捕食できるようになっています。現在は池の魚を取って食べるのに加え、私たちがエサを与えているのですが、最終的には池の魚だけで生きる、野生に近い状態になるのが一番ですね。

■繁殖成功は世界でわずか2例。3例目を目指す神戸どうぶつ王国
――だが、ハシビロコウの繁殖は非常に難しく、世界でもベルギーとアメリカのわずか2例しか成功していない。日本国内では7施設で飼育されているが、まだ成功例がない状況だ。

繁殖が難しい理由は、単独で生活している動物なので限られた者同士のペアリングが障害になっている可能性はあります。また、繁殖時に彼らが必要とする環境を満たせていないといったことがあるのかもしれません。ただ、世界で2例は成功しているので、何がトリガーになるかはわかりません。神戸どうぶつ王国ではどこの園館でも試していないようなことも取り入れつつ、進めていければと考えています。

■生息地が減少し、野生での個体数が激減
――飼育下での繁殖が難しいハシビロコウだが、野生の個体数の減少も深刻で、絶滅危惧種に指定されている。その原因について、長嶋さんは以下のように考察する。

一つはハシビロコウが生息している湿地帯の減少が上げられます。農地開拓や放牧、それに伴う水質汚染などが大きな要因です。だからと言って現地の人々の生活もあるので、開拓をやめるのは難しい部分も。野生動物を守るためには、現地の人々との協力が必要不可欠だと考えています。

また、1回の繁殖で生まれる卵も1個か2個と少ないうえ、2羽生まれるとひな同士が争って弱いひなが死んでしまったり、親が強く大きく育ったひなにしかエサを与えなかったりと、2羽を育てあげる確率が低いため、個体数がなかなか増えないと考えられます。

■一見怖い鳥。だけど意外と!?表情豊か
――目つきが鋭く、一見すると怖そうに見えるハシビロコウだが、じっくり観察すると意外な面白さにも出合えると長嶋さんは話す。

第一印象は怖い鳥にしか見えませんが、ちょっと見方を変えてもらうと、表情豊かな面白い鳥だというのが分かるはずです。正面から見ると睨みつけているような顔ですが、真横から見るとくちばしのラインがきゅっと上がっていて、笑っているように見えます。

じっくり見ているとちょっと笑えるような行動をとることも。以前、ボンゴが池の魚を勢いよく狩ろうとしたとき、何か捕まえたと思ったら木のかけらをつかんでいて。「失敗したのか」と思っていたら、さらにそれがくちばしにはさまって、首をぶんぶん振り回していました。

最初はハンティングが下手だったのですが、徐々に上手になっているのを見るのも喜びです。お客様の目の前でハンティングして魚を食べている姿を見てもらえた時は、お客様に野生を伝えられたことをうれしく思いました。

■大きく羽ばたき、自由に飛ぶ姿は感動もの
動かない鳥として有名になっているのでそれを見ていただきたいというのはありますが、うちにいるハシビロコウはどちらかというとよく動きます。「動かない」を期待して来られた方には「なんや、めっちゃ動くやん」と思われてしまいますが、ハシビロコウが自由に飛ぶ姿って日本ではなかなか見られないのではないでしょうか。

ダイナミックな飛行はインパクトがあり、何度見ても感動します。ぜひ、お客様にもそういったものが伝わればうれしく思います。日本国内では大きな鳥を間近で見られる機会がなかなかないので、神戸どうぶつ王国ではそういう感動を共有できると思います。

■動物園に行くことで、野生動物の保護に一役買えることも
――感動の共有に加え、動物を身近に感じることで野生動物の現状についても知ってほしいと長嶋さんは話す。

ハシビロコウに限らず、野生動物は減少しています。神戸どうぶつ王国には希少な動物が何種類かいるので、来園し、直接見て、そういった動物がいることをまずは知っていただければ。今の時代、これをきっかけにインターネットで調べることもできるので、彼らがどういう状況に置かれているのかということも知ってほしいです。

私たち一人ひとりができることは微々たるものですが、できることをしていければ。たとえば当園の自動販売機の中には、売り上げの一部がボルネオ島のオランウータンの保護活動をしている団体への募金になるものがあります。こういったもので少しでも貢献できればと、私も利用しています。

そのほかにもマイバッグを使ったり、コンビニの箸やスプーンをもらわないなど、自分たちにできることはわずかですが日々意識しています。皆さんにもご協力いただければ、きっと少し違う未来も見えてくるのではないでしょうか。

取材・文=鳴川和代

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