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コーヒーで旅する日本/九州編|”やってみたい”を実践し、地域の憩いの店として親しまれるまで。「アルマロードコーヒー」

  • 2022年5月30日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第27回は、長崎県・大村市にある「アルマロードコーヒー」。アパレル、アウトドアグッズ、食品など幅広いアイテムを販売する「LONG TABLE」というショップの一角に店舗を構え、今年で8年目を迎える。23歳の時から移動販売、イベント出店などをメインに「アルマロードコーヒー」を立ち上げ、24歳で現在の店を開いた店主兼バリスタの森采(もり・あや)さん。一般的に考えれば、かなり若い時期に独立開業を決めたことにまず驚かされる。森さんは「若かったからこそ、怖いもの知らずだった」と謙遜するが、それでも8年にわたり愛される店を作り上げているのは事実。そんな同店の魅力に迫る。

Profile|森采(もり・あや)
1991(平成3)年、長崎県長与町生まれ。高校卒業後、菓子作りに興味があったことからパティシエの専門学校に入学。接客もするカフェというスタイルに強く惹かれ、シアトル系のコーヒーチェーンでアルバイトを経験。その後、カフェが日常の暮らしに根付くオーストラリアのライフスタイルを肌で感じるために、メルボルンへ。帰国後の2014年、23歳で無店舗で「アルマロードコーヒー」を開業。約1年後に大村市の「LONG TABLE」内に実店舗をオープン。

■選んだのは、接客×菓子×コーヒー
「アルマロードコーヒー」が店を構えるのは長崎自動車道大村ICからまっすぐに長崎空港に向かう、通称・空港通り沿い。地元で親しまれるライフスタイルショップ「LONG TABLE」内という、一風変わったロケーションだ。「LONG TABLE」と「アルマロードコーヒー」の境界は設けられているものの、かっちりとした区切りではなく、空間全体を活かしたのびやかな雰囲気で、とてもバランスが良い。カフェ単体の利用はもちろん、ショッピングついでに立ち寄るでもOKで、訪れる人にとっては、さまざまな楽しみ方ができる。

森さんが「アルマロードコーヒー」を立ち上げたのは、23歳のころ。パティシエの専門学校に通う中、インターンで足を運んだカフェでの接客に強く惹かれた。「お菓子も作って、接客もするカフェが私には一番合っていると感じました。それを機にシアトル系のコーヒーチェーンでアルバイトを始め、接客・お菓子・コーヒー、すべてが叶うコーヒーショップを開くという目標をおぼろげに持ち始めました」

それが20代前半の時。まだまだたくさんの経験をしてみたいと、次に選んだのはオーストラリアへの留学。ワーキングホリデーの制度を利用し、1年間メルボルンで暮らした森さん。「オーストラリアは独自のカフェカルチャーが根付いていて、みんなコーヒー片手にカフェでおしゃべりしたり、街を歩いたりしているのが当たり前でした。メルボルンではバリスタとして働く機会もあり、その経験からよりコーヒーへの興味は強くなりました。おいしくコーヒーを淹れるための知識、技術を意識しだしたのもこの時ぐらいから」

■やりたいことを、まずやってみる
帰国した森さんは長崎を離れ、東京や福岡などに出ることも視野に入れていたそうだが、両親のことなどを考え、長崎に残る決断をする。「ただ当時、長崎にはコーヒーショップはそこまで多くなくて、バリスタの求人もほとんどありませんでした。どうしようか悩んでいた時、よく通っていた長崎市のひとやすみ書店のオーナーさんに、『自分がやりたいことがあるなら、とりあえずやってみたら良い』とアドバイスをいただいたんです。当時、私は23歳。怖いもの知らずの勢いだけで、『やってみよう!』って決断して、すぐにエスプレッソマシンを購入しました」と森さん。「アルマロードコーヒー」を立ち上げ後、無店舗という業態を活かし、移動販売、イベントなどに積極的に出店する日々を1年ほど送った。そんな時、偶然知り合った「LONG TABLE」のオーナーに大村市のショップ内でカフェをやってみませんか、と相談を受けたのが、現在のスタイルに至った経緯だ。

■「なんかおいしい」で良い、シンプルなアプローチ
「アルマロードコーヒー」は開業時から長崎市内にあるロースタリー、トサカコーヒーからコーヒー豆を仕入れている。豆の産地は不定期で変わるが、焙煎度合いは中浅煎り、中煎り、中深煎りの3種をラインナップし、中深煎りだけはブレンドで固定。2022年5月現在、中浅煎りはエチオピア イルガチェフェ、中煎りはコスタリカ ラ・カンデソーシャ、中深煎りはイエメンと東ティモールのブレンドを使っている。店内のメニュー看板にはナチュラル(※1)、ウォッシュド(※2)など生産処理も書かれているが、それもさりげなくといった程度。その理由は、森さんが大切にしている「毎日飲めるコーヒーを」というシンプルな考えによるものだ。

「私自身、メルボルンでコーヒーを飲んで、『初めて飲む味だけど、なんかおいしい』ぐらいの感覚だったんです。もちろん当時はコーヒーに対して詳しい知識は持ち合わせていなくて、それでも『また飲みたい』って素直に思いました。コーヒーって突き詰めれば、きりがないくらい奥が深いものだと思いますが、お客様には『おいしい』って感じていただくことが一番だと思っていて」。そんな森さんの、なにも考えずにおいしい、また飲みたい、と思わせる素直なアプローチがローカルで親しまれる理由の一つだと感じた。

■コーヒーともっと深く関わりたい
8年間、ほぼ毎日コーヒーと向き合ってきた日々。その中で、今、どんな思いが芽生えているのか。

「私ってもともと飽き性で、今まではなにをやるでも中途半端だったんです。ただ、コーヒーに関してはまったく飽きることがなくて、むしろ年々、もっと知りたい、もっとおいしいコーヒーを淹れたいって思わせてくれる。だから、今は生豆が本来持っている個性や焙煎にも興味がありますし、抽出に関しても、もっと成長していきたいと思っています。2店舗目を出したいとか、店舗をもっと大きくしたいという考えは今のところ全然ないんです。ただ、今までの私がそうだったように、どんなご縁や機会に恵まれるかわかりません。その時に自分のライフスタイルにより合っている選択肢であれば、それも考えるかも。ただ、23歳で独立開業を決めた時みたいに、怖いもの知らずの決断はできないでしょうね」と森さんは笑う。

森さんは若くして開業したことについて、「無知だったからこそできたこと」と冒頭に話してくれた。ただ、やってみないことには何も生まれない。実際、無店舗での開業から、縁あって大村市にコーヒーショップを開くに至った「アルマロードコーヒー」。“チャンスをつかむためには、行動あるのみ”ということを体験を通して知っている森さんだからこそ、今後にも楽しみは尽きない。

■森さんレコメンドのコーヒーショップは「Layers coffee」
「熊本市にある『Layers coffee』は、もともと大学時代に当店によく来ていただいていた長崎県出身の山浦さんと東島さんが共同経営で開いたコーヒーショップです。コーヒーが好きで、それに関わる仕事がしたいと言われていたのですが、本当に夢を実現させたのはすごいこと。2021年5月にオープンしたばかりなので、これからどんな風に地域に愛されていくか、楽しみな一店です」(森さん)

【アルマロードコーヒーのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/ハンドドリップ(HARIO V60)、エスプレッソマシン(La Marzocco Linea-2)
●焙煎度合い/中浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム1050円〜

※1…収穫したコーヒーの実を、そのまま果肉がついた状態で天日干しする方法
※2…コーヒーの実の果肉を機械で取り除き、発酵。さらに、その後の水洗過程で残りの付着物を除き、乾燥させる方法

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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