「救心」という薬をご存知だろうか。「どうき・息切れ・気つけに、きゅ〜しん♪きゅうしん♪」というCMでお馴染のアレだ。20~40代くらいの人にとってはCMこそ見たことがあるものの、あまりピンとこないかもしれない。
救心は、今年30歳になる筆者の祖父母も愛用している薬だったが、「お年寄りがよく飲む薬」くらいの漠然とした知識しかないことに気がついた。CMのフレーズは一音違わずに歌えるのに、「救心って何?」と聞かれると答えられないのだ。ちなみに、CMしか観たことがない担当編集は「気つけ」ではなく「引きつけ」だと思っていたらしい。
「もしかしたら、けっこう多くの人が謎だと思っている薬なのかもしれない」と思い、今回は救心製薬株式会社の担当者に「救心ってどんな薬?」と率直な疑問をぶつけてみることに。
すると、シニア層だけでなく実は20〜50代にも利用できる薬だったことが判明。さらにコロナ禍で新たなストレスを抱える人々が増加したこの世の中でも、救心は大きな役割を果たす薬だった。そして予想だにしていなかった人たちからの需要も発覚!今こそ役立つかもしれない、救心の魅力に迫った。
■そもそも「救心」ってどんな薬?何が入っているの?
救心とは、「どうき」「息切れ」「気つけ」の3つの症状に効果がある薬で、その生まれは「薬売り」で知られる富山県。大正2年(1913年)に富山県出身の創業者が、東京・浅草で「ホリ六神丸」という富山の薬を販売したのが始まりだ。その後、製剤の改良を重ね、「救心」に改名された。
「『救心』という名前には、『心臓を救う薬』という意味が込められています。年を取ると、身体中に血液を送る心臓のポンプの機能が衰えていきます。そうすると血液の循環が悪くなって体内の酸素が不足し、動悸や息切れの原因になります。救心には、この心臓のポンプの機能を“補う”働きがあるんです」
約3ミリほどの黒くて小さな丸剤には9種類の生薬が配合されており、崩壊性にすぐれ、薬効成分がすみやかに吸収されるのが大きな特徴。また丸剤は茶色の小さいボトルに入っていて、このデザインが好きなファンも多いんだとか。
「実際にお買い求めいただいたお客様にも『え?こんなにも小さいんだ』という声をいただくことが多いです。また近年のレトロブームも相まって、若い方に『かわいい!』と気に入っていただいていることもあります」
■実は“社会や家庭でがんばる人のため”の薬?
救心の主なユーザーは、体の衰えを感じ始める60代以上だそう。だが、動悸や息切れといった心臓や血流の不調は、このストレス社会で若年層にも襲い掛かるもの。救心は、実は会社や家庭でがんばる人にもおすすめしたい薬なのだ。
「私たちは仕事や家庭など、人それぞれの責任を抱えながら生きています。このような社会的な役割を担っている世代を、当社では『責任世代』と呼んでいます。会社でのプレゼンや日々の育児など、さまざまな場面で責任とプレッシャーを感じるなか、ストレスや緊張で動悸や息切れを起こしてしまうこともあるかもしれません。そんな時にも飲んでほしい薬なんです」
現在は丸剤のほかに、生薬の匂い控えめの「救心錠剤」や、更年期などで動悸が気になる女性向けの「救心カプセルF」など、幅広いシーンで服用ができるように3種類が販売されている。20代から50代の社会でバリバリ活躍する人や家庭を支える主婦など、近年では若いユーザーへのアプローチにも力を入れているという。
「私は50代なので、『若い人の気持ちってどんな感じなのかな?』と日々手探りで宣伝に取り組んでいます。最近ではYouTubeのCM放送で若者向けに発信したりしています。まずは『きゅ〜しん♪きゅうしん♪』のフレーズだけでも覚えていただければ幸いです」
また、コロナ禍によってソーシャルディスタンスを保つなどの“新しい生活様式”が到来。リモートワークの推奨によって、職場や通勤のストレスから解放されて喜んでいる人も多いかもしれない。だが心配なのは、コロナ禍や巣ごもり生活で感じるこれまでになかった「新たなストレス」だ。
「コロナ禍で新たなストレスに直面しているのは、働く女性が多いのではないでしょうか。これまで会社や学校に行っていた家族や子供が家にいる時間が多くなりました。すると家事をしながら自分の仕事もこなさなければならず、新たなストレスの原因になってしまうこともあるかと思います。そのような人たちに向けても、救心がお手伝いできることもあるのでは?と考えています」
さらにコロナ禍で病院に行くことがはばかられる時代になり、セルフメディケーションもこれまで以上に重要視されている。慣れない巣ごもりで逆に体調を崩す人も多い今、救心のような常備薬を備えておくことが大切だ。
■その効能は中国にまで渡る!?
名前やパッケージなどのイメージから、救心は日本でのみ愛されている薬かと思いきや、思いもよらないの人たちにも大人気だった。それは一時期「爆買い」で話題となった中国人観光客だ。しかし漢方の本場である中国で、なぜ日本の薬が重宝されるのだろうか。
「彼らは歴史ある会社や商品が大好きなので、すごく信頼されるんです。私としては中国4000年の歴史のほうが遥かに長い気がするんですけどね(笑)」
救心は香港でも販売されているが、本物の横には「心救」などの名前がついた別物がたくさん並んでいる状態。だからこそ、日本に来た際に本物の救心を大量に買っていくのだそうだ。一方で錠剤やカプセルタイプは製品としての歴史が浅いためか、あまり受け入れてもらえていないという。
コロナ禍で観光客が激減した後もなお、彼らからの人気は依然として高い。中国の「責任世代」の人たちも、プレッシャーやストレスと毎日戦い続けているのだろうか。救心は国や人種を問わず、ストレス社会で生きる現代人を支えてくれているわけだ。
■小さな1粒に込めた思い。「責任世代」の頼れるパートナー
来る2025年は、救心誕生100周年。担当者は「まずはCMで、救心の名前だけでも知ってもらえるとうれしいです!」と意気込む。
そして2022年5月1日からは、テレビや公式サイトなどで新CMが放送されている。働く人たちに向けて「責任世代には、救心錠剤がある」と、俳優の高橋光臣さんがスーツ姿で力強く伝えるメッセージが印象的だ。
目まぐるしい時代の変化によって、ストレスに晒される私たちの体を支え続けてくれる救心。「名前は知っているけど、飲んだことはない」という人は、一度試してみてはいかがだろうか。これからの社会を生きていくうえで、とても心強いパートナーになってくれるはずだ。
取材・文=西脇章太