コーヒーで旅する日本/関西編|地域密着のスタイルで、地元の日常に“おなじみのコーヒー”を。「BUNDY BEANS」

  • 2022年2月22日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第1回は、近年、関西でも新しいコーヒーショップの開店が相次ぐ兵庫県西宮市の「BUNDY BEANS」をピックアップ。地域密着のスタイルで厚い支持を得る、地元出身の店主・名越さんが考える、コーヒー専門店のあり方とは。

Profile|名越千人
1982(昭和57)年、兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、衣料生地商社に就職後、ワーキングホリデーでオーストラリアに1年滞在。帰国後、名古屋の食品会社に勤めるかたわら、週末に移動販売のコーヒー店を始める。独立を目指して地元に戻り、神戸の焙煎卸業者のマツモトコーヒーで3年の修業を経て、2014年に西宮市・苦楽園にて「BUNDY BEANS」をオープン。2020年、甲子園に2号店を展開。

■コーヒーを知るには、まず原料を知ること
「BUNDY BEANS」の開店までに、さまざまな職種、場所で働いた経験を持つ店主の名越さん。名古屋の会社に勤めていたころ、コーヒーとの縁は、ひょんなことから始まった。「本当にたまたまなんですが、愛知県長久手市にある自家焙煎コーヒー店・松本珈琲工房の教室にふらっと参加したら、一気にハマりました(笑)。今まで飲んだコーヒーと全く違う味に驚いて、お店に通ううちに自分でもコーヒーを淹れたいと思ったんです」

そこで、店主のアドバイスもあり、名古屋でコーヒーの出張販売を始めることに。コーヒーは今でいうシェアローストのような形で、松本珈琲工房の設備を借りて焙煎。やがて、マルシェやイベントに出店するうちにファンが増えたことで、これで生活できるのでは?という意識が芽生えた。

本業にするなら、自分の店を出すのが一番早い。そう考えたものの、コーヒーのことはその時点では全くの独学。このままでは力不足と感じた名越さん。「基本的な知識もないし、焙煎の習得には時間がかかる。カフェやロースターに勤めることも考えましたが、生地商社にいた経験から、原料を知ることの大切さを身に染みていたので、一番原料に近い場所として生豆卸に行き着いたんです」

地元兵庫県に戻った名越さんは、知る人ぞ知るコーヒー卸業のマツモトコーヒーの門を叩く。なんの伝手もなく、飛び込みでアタックすること3回。ようやく入社した後は、焙煎に携わった経験も買われて、サンプルローストや品質管理の仕事に就くことになった。

「さまざまな種類のコーヒー豆に触れて、実際に焙煎できたことはもちろん、品質管理ではコーヒーの風味の良し悪しを判断する、カッピング(※1)の技術を学べたのは大きかったですね。ここで、自分の感覚に基準を持てたことで、自店の味作りもスムーズに進められました」

また、マツモトコーヒーの取引先には、全国に知られる人気店も多く、個性的な店主との情報交換や交流も、ここで得た財産の一つ。名越さんによれば、「修業は年季より密度と思ってましたが、マツモトコーヒーにいた3年で10年分くらいのコーヒーの知識が集まったような感覚」と振り返る。今も、つながりのある店主たちとの会話からは、店や味作りのヒントを得ることも少なくないという。

そして何よりも、「社長との距離が近いのが魅力でした」という名越さんにとって、当時、社長がよく口にしていた、「焙煎だけなら誰でもできる」という言葉が今も心に残っている。

「真意が分かったのは、開店後しばらくしてから。その心は、作業としての焙煎は誰でもできるけど、目指す味をイメージして、豆の種類によって適切に焙煎できなければ意味がない、ということ。多分、開店後に僕が悩むだろうことを分かっていたんでしょう。社長の先見の明というか、優しさを感じます」。意味を理解してからは、自分の感覚を磨くことに意識を向けるようになった。

■地元に定着した“毎日ガブガブ飲めるコーヒー”
3年の修業を経て、店を構えたのは、地元・西宮でも屈指の高級住宅街として知られる苦楽園。開店前までは、コーヒー店が少ないエリアだったが、同時期に新たなロースターが次々とオープンし、いまやコーヒー激戦区に。これには名越さんも、「まさか開店と同時に、こんなに増えるなんて」と驚きの中でのスタートとなった。

開業時は卸を主にと考えていたが、初期に店を訪れたのは9割が近隣の個人客だったことから、図らずも小売りがメインに。口コミを頼りに、地道に店の存在を広げていった。当初、揃えた豆は、マツモトコーヒー時代に一番よく手掛けていた、ブラジル、コロンビア、グアテマラ、エチオピアを中心としたシングルオリジン(※2)のほか、ブレンド3種。

生豆卸で修業を積んだ経験から、「あくまでコーヒー専門店ならではの特色を出したい」と、商品ポップにはスペックを細かく表示。お客との会話のきっかけ作りの一助にもなったが、何より「どこの誰が作っているか、 そこまでを明確にすることは、“自分が何を売っているか理解していること”につながる」という、修業先の教えによるところが大きい。

その上で、名越さんが掲げた店のコンセプトは、“毎日ガブガブ飲めるコーヒー”。ここには、飲み飽きない味わいだけでなく、サステナブルな原料の安全性も含まれている。「過度な味でなく、思わず“もう一杯飲みたい”と思えるコーヒーが理想。それゆえに、他と比べて、目立つ銘柄やインパクトのある豆は少ないと思います」と名越さん。

創業以来の固定ファンがいる銘柄が多いため、逆に味を崩さないよう仕入れ先や豆の種類を広げず、毎年、同じ産地から継続的な仕入れを優先している。“毎日ガブガブ飲める”というコンセプトが体現するのは、味の安定感はもちろん、いつもお馴染みの豆があるという安心感でもある。

そんな店のスタンスを示す最たるものが、人気ナンバーワンのシングルオリジン「ブラジル・グランハ サンフランシスコ」。リピート率9割超という、不動の看板コーヒーだ。「当初から酸味が少ないコーヒーを求める方が多かったので、まろやかな苦みとコクが魅力のブラジルの豆が、ご近所の方たちの嗜好にぴったり合ったんでしょう。それでも、ブレンドより人気になるとは意外でしたね」

いまや“地元の味”と呼べるほど浸透したブラジルのみならず、多彩な銘柄それぞれに固定のファンがいるのは、お客との日々のコミュニケーションの積み重ねがあればこそだ。「僕らの仕事は、お客さんがどういう好みかを察知すること。今はブレンド4種、シングルオリジン10種に、スポットで希少な豆も入りますが、ずっと同じものを買い続ける方が大半。だからこそ、目をつぶって飲んでも“バンディのコーヒーやな”と思える味を常に出せるかが大事です」。その意味でも、シングルオリジンが店の顔として厚い支持を得ていることに、お客との密な関係が見て取れる。

また、名越さんが、開店後の構想の一つとして決めていたことの一つが、コーヒー教室の開催。マツモトコーヒー時代、多くのコーヒーのプロと接してきたなかで、“プロの当たり前”は一般のお客まで届いていないと気付いたから。

「深煎りは苦い、浅煎りは酸いといった、コーヒーの基本的なことから伝えるには、接客だけでは限界があるので、教室は必ずやりたかった」と、開店直後から定期的に続けている。コーヒーの知識や技術の伝達が主眼だが、参加したお客がさらに店のことを広めてくれたり、淹れ方を覚えたことで豆の選択肢が広がったりといった波及効果も。さらには、開業希望者にも教室の存在は伝わり、今では店舗開業コースも新たに設けた。

■「誰かにあげたくなるコーヒー」の提案
一方で、コーヒーだけでなく、商品の見せ方やデザインにも腐心し、2016年からはトータルのブランディングを、懇意のデザイナーに依頼。当初から8割ほどが女性客だったこともあり、全体のテイストは女性を意識し、“誰かにあげたくなるデザイン”をテーマにしている。イラストをあしらったパッケージや包装紙、ロゴマークなど、カラフルでかわいいデザインは、ギフトや引き出物としての利用も多い。

オリジナルの商品開発にも積極的で、地元の産婦人科医の声から生まれた、カフェインレスのドリップバッグもその一つ。コーヒー好きも納得の飲み応えで、妊娠、授乳中のママに好評だ。

さらに、2019年にベイク部門を立ち上げ、“コーヒーの友達”と銘打って、豆の個性に合わせた6種の焼菓子のペアリングを提案している。「ペアリングの考え方として、お菓子に合わせるのでなく、コーヒーが先にあってお菓子を合わせて作るのがポイント」と名越さん。ナッティな香味のブラジルにはアーモンドを使ったフロランタン、フルーティーなエチオピアにはベリー系のメレンゲといった具合で、豆と焼菓子の組み合わせでギフトのバラエティーを広げている。

■いつかは地元に“コーヒービレッジ”を!
オープン時の本店は小さなカフェスペースを併設していたが、2018年の改装を機に焙煎所へと転換。新たに、オランダの「GIESEN」焙煎機を導入した。

「それまで焙煎は直感的に操作していましたが、この機体はデータが細かく取れます。釜の中の温度や排気量も1度、1%単位で調整可能で、設定したプロファイルをずっと保てるのでコントロールが抜群にしやすい。釜の輻射熱の影響を受けにくい構造で、風味がよりクリーンになり、煎り上がりの再現性が大きく改善しました」。新たな機体に手応えを得たことで、味の表現にさらなる磨きをかけている。

2020年に2号店の甲子園店がオープンし、今年、さらなる新店舗の物件を探索中しているという名越さんに、今後の展望を聞いてみた。

「個人としては、2017年に準優勝した焙煎の競技会『ジャパン ロースティングチャンピオンシップ』で日本一、さらに世界一が目標です。将来的には、家族や子供も楽しめる“コーヒービレッジ”のような場所を地元に作りたいと考えていて。今、準備を進めている3店舗目を、その拠点造りの第1歩にしたいですね」

コーヒーに対する確かな技術と知識をベースに、地道なブランディングでしっかり地元に根を下ろした「BUNDY BEANS」。名越さんの次なる構想の実現を楽しみにしたい。

■名越さんレコメンドのコーヒーショップは「三ツ豆珈琲」
次回、紹介するのは西宮市・苦楽園の「三ツ豆珈琲」。
「1年先にオープンした店主の長岡さんは、界隈の商店会の仲間でもあり、同期のライバル的な存在。昨年、手回し焙煎から一気に大型焙煎機を導入されたことが同業者の間でも話題で、“自分も店も大きくしたい”という刺激を受けています」(名越さん)。

【BUNDY BEANSのコーヒーデータ】
●焙煎機/GIESEN W6A 6キロ(半熱風)・COFFEE DISCOVERY
●抽出/エスプレッソマシン(LA MARZOCCO FB3)、ハンドドリップ(Kalita ウェーブドリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり(400円~)
●豆の販売/ブレンド4種、シングルオリジン10種、100グラム720円〜

※1…コーヒーの品質を同じ条件下で比べて評価すること。ワインにおけるテイスティングに該当
※2…生産者や農場、精製方法などの単位で統一された豆のこと




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。
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