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環境問題などに積極的に取り組む星野リゾートが、SDGsを前面に“打ち出さない”ワケ

  • 2021年11月17日
  • Walkerplus

貧困、紛争、気候変動、感染症など、人類はこれまでになかったような数多くの課題に直面している。このままでは、人類が安定してこの世界で暮らし続けることができなくなるという危機感から2015年、193の国連加盟国すべてが「誰一人取り残さない -leave no one behind-」をスローガンとし、2030年までに達成すべき具体的な目標を設定。それが持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」だ。

各企業でも環境や教育などに関するさまざまな取り組みがおこなわれており、国内外の数多のリゾート運営で知られる星野リゾートもその一つと言える。しかし、星野リゾートではそれらの活動を「勝手にSDGs」と命名して、あくまでCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)経営を促進するためのフレームワークとして捉えている。

これだけ世の中でSDGsの機運が高まるなか、なぜ星野リゾートはSDGsを前面に打ち出さないのか。そのワケを探るべく、株式会社星野リゾート オペレーションマネジメントグループ マネジャーの福本博隆氏にインタビューを実施。SDGsではなくCSVを重視する理由のほか、環境経営の推進や伝統文化・伝統工芸の継承などの活動に対する思いを聞いた。

■「SDGsだから」ではなく、代々の使命を受け継いでいる
—— 星野リゾートでは、環境問題などSDGsに合致する活動を数多くされているにもかかわらず、あくまでCSVを重視されているのはなぜでしょうか?
【福本氏】星野リゾートでは、1915年に自社で使用する電力をまかなうため、木製水車を利用した水力発電を軽井沢で始めました。これが現在のCSV経営につながる最初の取り組みです。それ以降、星野リゾートは環境に関するさまざまな活動を続けてきました。

たとえば、1992年には企業ビジョンを「リゾート運営の達人」と設定し、環境に配慮した運営に力を入れてきました。自分たちの使うエネルギーは、できる限り自らの場所の自然エネルギーでまかなおうという考え方「EIMY(Energy In My Yardの頭文字をとったもの)」を掲げたり、軽井沢事業所ではゼロ・エミッションを2011年から達成し続けていたり…。

そのため、「SDGsよりCSVを」という意識が特別あるわけではなく、星野リゾートの代々の使命を受け継いでいると言った方が近いかもしれません。

——「SDGs」を掲げずに取り組みを続けているメリットがあれば、教えてください。
【福本氏】あえて言うのであれば、CSVはより継続性があることでしょうか。たとえば、たびたび話題となる考え方や活動も、その社会的な注目度が下がると一過性のものになってしまう可能性があります。一方で、CSVは企業の事業や利益と直結しているので、継続性が高いと考えています。

—— CSVを重視したうえで設定している目標はありますか?
【福本氏】客室でのペットボトル入りミネラルウォーター提供の廃止や、使用済み歯ブラシのリサイクルは弊社の全施設で取り組んでいますが、それ以外は共通した施策や目標は設けていません。理由は、その土地ごとの文化や特徴が異なっているから。そのため、各施設ごとに独自の活動内容を考え、実施しているものがほとんどです。

■星野リゾートが目指すリゾート運営のかたち
—— これまでの取り組みのなかで、代表的なものや特徴的なものを教えてください。
【福本氏】「星のや竹富島」「西表島ホテル」(共に沖縄県)、温泉旅館ブランド「界」の3つの事例をご紹介します。

まず「星のや竹富島」ですが、そもそも竹富島は住民同士の連携が非常に強く、そこに星野リゾートが入っていくためには、運営が島と共生する必要がありました。その一つの手段として私たちが採ったのが、当時外資系ファンドに買い占められていた土地の買い戻しに協力し、その土地を星野リゾートが借りて運営するという方法です。結果的にこの方法が功を奏し、地域の方々の理解を得ながら運営をおこなうことができています。

2021年2月からは、海水の淡水化による飲料水の自給も始めました。もともと、竹富島は石垣島からの限られた量の送水に頼っているという背景があり、「星のや竹富島」でペットボトルの廃止をする際に「どうやって水量を確保するのか」が問題となりました。そこで、大掛かりな設備投資にはなりますが、飲料水の自給に踏み切りました。緊急時には、島民への供給も可能です。

そのほか、竹富島地域自然資産財団と実施している、島の文化と海を学ぶ環境保全ツアー「まいふなーツアー」など、さまざまな取り組みが生まれています。

——「西表島ホテル」のある西表島は、2021年7月に世界自然遺産に登録されました。ここではどんな取り組みをおこなっているのでしょうか?
【福本氏】西表石垣国立公園に位置する「西表島ホテル」は、日本初の「エコツーリズムリゾート」を目指しています。その背景には、観光客を受け入れつつ、島の自然環境を守っていきたいという思いがあります。世界自然遺産を活用した観光の課題は、世界遺産への登録直後は多くの方にお越しいただける一方で、一時的に環境負荷が増加してしまうことが挙げられます。また、そこでの体験価値を継続的に高めていけないと、最終的には観光客が減少してしまうケースがあるということも同じく課題となっています。

そこで、「西表島ホテル」では持続可能な観光の仕組みを目指すため、3つの取り組みをおこなっています。まず1つは、「エコロジカルなホテル運営」。2021年6月から歯ブラシやクシ、髭剃りなどの使い捨てアメニティの提供をやめ、ゲストにアメニティ持参を案内しています。さらに、8月からはショップや自販機でのペットボトル飲料の販売も取りやめました。また、地域の方々と連携したビーチクリーン活動などにも取り組んでいます。

2つ目は「島の魅力と価値を感じるネイチャーツアー」。案内するのは、絶滅危惧種のイリオモテヤマネコなど島の生き物に関する知識が豊富な西表島在住のナチュラリストガイドです。島の魅力と価値について深く知ることで、環境意識を高めてもらいたいと考えています。

そして3つ目が「イリオモテヤマネコの保護活動」。イリオモテヤマネコの保護活動として「ロードキル防止」に向けた取り組みをおこなっています。イリオモテヤマネコの捕食シーンを撮影した動画や交通事故件数などの資料をもとに、ゲストに正しい知識を伝えています。

—— 最後に、全国に18カ所を展開している温泉旅館ブランド「界」はいかがでしょうか?
【福本氏】「界」では「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、地域の魅力を再発見できるような取り組みをおこなっています。たとえば、地域文化を無料で楽しめるサービス「ご当地楽(ごとうちがく)」。「界 津軽」(青森県)では津軽三味線の全国チャンピオンとその手ほどきを受けたスタッフによる生演奏をおこなっています。また、伝統工芸品を客室に散りばめるなどして、地域の文化を存分に体験できる客室「ご当地部屋」もあります。

どちらの取り組みも、ゲストの皆さまに地域の文化について知っていただくと同時に、弊社が職人さんに仕事を発注することで、文化の継承にも貢献することができると考えています。

■地域の人々との信頼関係から生まれる新しい取り組み
—— こうした取り組みをおこなって、地域の方からはどのような反響がありましたか?
【福本氏】最初は必ずしもいい反応ばかりではありませんでした。たとえば、「星のや竹富島」では、住民の方々との合意形成に3年、運営開始までに2年ほどかかりました。その間は弊社代表(星野佳路氏)が何度も竹富島に足を運び、住民の皆さまと話し合いを重ねています。

しかし、実際に運営を始めて地域の方といい関係性ができると、ほかの施設や自治体に注目していただくことも増えました。その結果、より広い範囲での連携ができるようになったり、施設を超えて取り組みが広がったりすることもあります。

その1つの事例として、「界」の取り組みがあります。2021年4月から職人や生産者とおこなうご当地文化体験「手業(てわざ)のひととき」を提供していますが、これは「界」が発足して10年間、地域の職人の方々との信頼関係を地道に築き上げてきたからこそ実現したものです。たとえば「界 日光」(栃木県)では、「日光東照宮」をはじめとする歴史的建造物の修理に携わってきた女性伝統工芸士の指導のもと、日光の社寺に実際に使われている岩絵の具などを使った工芸品づくりが体験できます。

—— 宿泊客からの反応はいかがですか?
【福本氏】同じく「界」の「ご当地部屋」では、地元の焼き物の茶器を用意していることが多いのですが、見るだけではわからない、使ってみて初めてわかる魅力をお伝えできているかと思います。実際に、ホテル内の売店で茶器を買われていく方も多いですし、チェックアウト後に「もともと旅程にはなかったけれど工房に行きたい」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

■旅をして文化を知ることは、平和維持につながっていく
—— SDGsで設定された17のゴールに当てはまらないもので、CSVを重視しているからこそ取り組んでいる事例を教えてください。
【福本氏】「星野リゾート トマム」で取り組んでいる農業プロジェクト「ファーム星野」はその1つだと考えています。このエリアは、リゾート開発される以前は約700頭の牛が飼われていました。「ファーム星野」では、そのころの美しい原風景に戻していく活動に取り組んでいます。7頭の牛の飼育から始まり、現在は約30頭を飼育しています。

2022年までに全国10施設の開業を予定している都市観光ホテルブランド「OMO(おも)」の取り組みも、弊社ならではだと思います。「OMO」の立地は駅の近くなどの利便性の高い場所ではなく、あえて少し外れたディープなところを選んでいます。また、全国的なガイドブックには載っていないようなお店も積極的にご紹介をしています。そうすることで、その土地を盛り上げていくことにつながると考えています。

—— こうした取り組みの先に目指す社会を教えてください。
【福本氏】弊社代表の星野も申しておりますが、旅をして文化を知ることは平和維持につながると考えています。現状の活動は変わらずに続けていくと同時に、「こんな文化があったんだ!」とその国や地域の文化に気付いていただけるような取り組みをしていきたいと考えています。

—— ありがとうございました。

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