中田英寿氏が47都道府県を旅して出会った日本の「わざ」と「こころ」。日本のことを知るために47都道府県を巡る中田氏の旅は6年半におよび、移動距離は20万キロになった。その間、訪れた地は約2000に。そこで中田氏は、現地に行かなければわからない、素晴らしき日本があることを知った。
ウォーカープラスでは、中田氏の「に・ほ・ん・も・の・」との共同企画として、珠玉の“にほんもの”をお届けする。
中田英寿
「全国47都道府県の旅で出会ったヒト・コトを、”工芸芸能・食・酒・神社仏閣・宿”に分けて紹介。日本文化を多くの人が知る『きっかけ』を作り、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促していきたい。」
富山県砺波市(となみし)。屋敷林に囲まれた家々が点在する、「散居村(さんきょそん)」が広がっている。その景観は日本の農村の原風景とも言われ、どこか温かく懐かしさを感じさせる。豊かな水田が一面に広がるこの地に、和モダンで小粋な店構えながらもスッと町に溶け込む建物がある。それが「手打ち石臼挽き蕎麦 福助」だ。
古民家をリノベーションしたという店舗は、情緒ある雰囲気と開放的な高い天井で、温かな居心地の良さを感じさせる。店内に飾られている店主こだわりの民芸品や、座敷の前に広がる日本庭園を眺めながら、のんびりと穏やかな気持ちで過ごすことができる。
「福助のこだわりは、富山県の在来種の蕎麦の実を使った手打ち蕎麦と良質な井戸水、天然の素材を使用した出汁です」と店主の西村さんは語る。
毎日必要な量だけ前日に石臼挽きした自家製粉を使用し、さらに蕎麦の風味や香り、食感を味わってもらうため、季節や玄蕎麦の個性に合わせてそば切りをしているという徹底ぶり。だが、この手間こそが、店主の思いが溢れる味わい深い逸品へとつながるのだ。
蕎麦は「細挽きせいろ」と「玄挽き(げんびき)田舎」の2種類から選ぶことができる。風味とコシを楽しめる「細挽き」は、その喉ごしの良さが特徴的だ。本みりんを使用し、かけとせいろの2種類を作り分けているという「かえし」を使ったそばつゆとの相性も抜群。甘みのある優しい味わいがつるっと口の中に広がる。
皮ごと挽かれた「玄挽き」は、そばの黒皮を剥く技術がなかった当時の方法でありながら、しっかりと殻を挽いているため粒感があり、香ばしい風味を楽しめる。そばつゆで食べるのももちろん良いが、薬味でついてくる塩をパラパラとかけ、ふわっと鼻孔をくすぐる蕎麦の香りを楽しみながら食べるのもたまらない。
こだわり溢れる豊富なメニューの中でもこの時期に毎年人気なのが「すだちとじゅんさいの冷かけ蕎麦」だ。輪切りのすだちと透明感のあるじゅんさいが乗った清涼感漂う冷たい蕎麦は、地元の人の舌にもよく馴染み、この味を待ちわびていうるファンも多いとか。暑くなるこれからの季節、「風味」「見た目」のどちらからも涼しさを感じる爽やかな逸品をぜひ堪能してほしい。
「福助」では、蕎麦はもちろんのこと、西村さんが作る和食の数々に魅了され、ファンになった人も少なくない。「だしまき玉子」は、蕎麦屋ならではの上質な出汁と産地直送で仕入れた富山県高岡市のセイアグリーの卵を贅沢に4個使用し、焼き立て熱々のボリュームある一品となっている。また、デザートとして味わいたいのが、「そば茶のプリン」。金箔がかかり、高級感溢れる見た目もさることながら、滑らかな舌触りを感じ、鮮烈なそばの風味が口いっぱいに広がる一品だ。
「可能な限り富山県の土地のものを使用しつつ、日本中から良いものを分けてもらいながら、伝統ある蕎麦作りとこだわりの和食を昇華させていきたい」と話す西村さん。西村さんの思いを体現したような、力強くも温かいそんなこだわり溢れる逸品の数々。富山に行った際にはぜひ足を運んでみてほしい。