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大阪城でお能!萬斎も「建造物が背景の薪能で一番」と太鼓判

  • 2020年10月6日
  • Walkerplus

演劇ライター・はーこが不定期で配信するWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.80をお届け!

お能。観たことありますか?日本の伝統芸能の中でも、能楽は一番敷居が高いのではないかと思う。歌舞伎も狂言もそして文楽も身近になりつつある今、次はお能を体験したい。それなら…と、私がここ数年お能初心者にオススメしているのが「大阪城本丸薪能」だ。

もともと大阪城の薪能は西の丸庭園で1981年から30年近く開催されていたが消滅。そこへ子供の頃に出演していたのが、今や能楽界の若手ホープ・大槻裕一。「豊臣秀吉は本丸に能舞台を常設して、自分が主役の能を自分で演じていたと言われるほどの能楽好き。その大阪城で能の公演がないなんて」と、改めて大阪城本丸に特設能舞台を設置し薪能の上演を企画。2015年にスタートし、17年、19年と公演を重ね、今年で4回目を迎える。

出演者、演目共にお能通も納得する公演内容なのだが、これは一大イベントというジャンルで捉えてもいい、と私は思っている。出演者の皆さんには恐縮だが、主役は何といっても大阪城。その雰囲気をちょっとお届けしよう。

※今回は初めて配信(有料)もあり。大槻文藏、野村萬斎、大槻裕一の特別限定対談付き。詳しくは本文最後の「配信で観たい人へ」をチェック!

■大阪城本丸薪能ルポ
大阪城公園は広い。私はいつも谷町四丁目側から入り、大手門を超えて本丸を目指す。西の丸庭園の入り口を横目に、奥へ奥へ。先に豊国神社でお詣りし、桜門を越え、ミライザ近くにある会場へ。受付を済ませて中に入ると、さすが本丸。目の前に堂々とそびえたつ大阪城に一瞬足が止まる。皆「すっご~い!」と口々に。夕暮れ時。大阪城は昼の観光とはまた違う迫力と美しさで私たちを圧倒する。まず間違いなく、全員がスマホのカメラを向ける。

本丸に着いてから開演までの間、刻々と色を変えていく空に映える大阪城。あたりが暮れなずむ頃、特設された能舞台の提灯に明かりが入る。城内の豊国神社から一列に並んだ神主たちが厳かにご神火を運び、かがり火に火を灯す。ライトアップされ、夜空に浮かぶ大阪城。もう、何度シャッターを押すことか。ここに集う人たちだけが撮れる映像だ。

「大阪城本丸薪能」の第1回目から出演している狂言師・野村萬斎は言う。「全国の薪能に寄せていただいていますが、建造物を背景とした薪能としてはこれが一番じゃないですか」

■豊臣秀吉も観ていた場所で
能囃子の音色に、木々の葉擦れの音がまざる。爽やかな秋の夜風に緑の匂いが漂う。そこに時折、飛行機が大阪城の背後を横切る。ここは関西空港に発着する飛行機の通り道。その瞬間、異次元空間に過去と現代が交差する。今、私は数百年の時を超え、豊臣秀吉も鑑賞した場所で同じように能を観ている…。「そんな私って、素敵!」

五感を刺激されながら体験する、大阪城本丸ならではの薪能。忘れられない思い出になることは間違いない。

■お能を楽しむには
「同世代の友人には『非現実的な雰囲気を楽しんでほしい』と言っています」と23歳の大槻裕一。

裕一の師匠であり人間国宝の大槻文藏は「初めてであってもなくても、先に簡単なあらすじを読んで頭の片隅に置いて観ていただくのが一番いい方法だと思います」

そして野村萬斎は「想像力を働かすことがすごく重要ですね。今の世の中はわからないといけないというところがあるけれど、わからないままでもいいじゃないってことが、だんだんわかるようになります」と。現代美術の楽しみ方にも通じるところがあるような。

文藏先生の提案に従って、簡単な演目紹介と3人の意気込みを一言ずつ。

■演目
●第一夜
<能>千手郢曲之舞(せんじゅえいきょくのまい) 
死を待つのみという絶望的な状況の平重衡(大槻文藏)と遊女・千手(観世清和)の一夜の交情を描く。結ばれない男女のはかない情愛のひとときを。

<狂言>二人袴(ふたりばかま)
婿が妻の実家を訪れて舅にあいさつする“聟入り(むこいり)”という室町時代のしきたりを主題にした狂言。一人で聟入りのあいさつに行けない、礼装の袴の着方もわからないという頼りない聟(野村太一郎)と、その世話を焼く過保護な父親(野村萬斎)とのドタバタ劇。

<半能>石橋(しゃっきょう)
紅白の牡丹の花が咲き誇る中、獅子の親子(観世喜正・大槻裕一)が豪快に舞い遊ぶ華やかな作品。白頭の親獅子は激しくも優美で格調ある舞を、赤頭の子獅子は若々しく躍動感あふれた舞を表現、親子の情愛も描く。※歌舞伎の「連獅子」はこの作品から取り入れられた

●第二夜
<舞囃子>安宅(あたか)
富樫が構えた安宅の関所に山伏に身を変えた源義経一行が差し掛かるが、弁慶の機転で通行を許される。その後の場面を、面・装束を付けず紋付・袴姿で地謡と囃子を伴って舞う舞囃子で。関所を通った彼らの前に酒を持って詫びに来た富樫に対し、弁慶(大槻裕一)が心を許さずに緊張感あふれる舞を舞う。

<狂言>舟渡聟(ふなわたしむこ)
“聟入り”のため川を渡ろうと舟に乗った聟(野村裕基)に、彼が持参する酒樽に目を付けた舟頭(野村萬斎)がしつこく酒をねだり…。生きて行くとはこういうこと、という人間賛歌が描かれた狂言。※萬斎・裕基の親子共演。声、そっくり!

<能>竹生島女体(ちくぶしまにょたい)
竹生島神社参詣に琵琶湖を訪れた朝廷の臣下(福王知登)たちが、漁翁(大槻文藏)と浦女(大槻裕一)の乗る釣舟に便乗を願い竹生島へ。が、その二人こそ島の守り神・弁財天(文藏)と琵琶湖の龍神(裕一)だった。穏やかな春の景色の中で展開する清々しい神の物語。

【コメント】
大槻文藏:「竹生島」は、ちょっと珍しい小書き(普段と違う演出)を付けていたします。昨年、台風で流れた演目ですので、今年させていただくのを大変楽しみにしております。

野村萬斎:「二人袴」「舟渡聟」は、狂言の中でも絶品のラインナップになっておりますので、ぜひご覧いただきたいです。冠婚葬祭や慣れないことの中にあるいろんな失敗を、おもしろおかしくお見せします。

大槻裕一:1日目が「石橋」で赤獅子、2日目は先生と「竹生島」で龍神。今、この年齢だからこそできる若い力を出せたらと思っています。

■今年のポイント
今年の「大阪城本丸薪能」はパンフレットとイヤホンガイド付きの料金で発売中。イヤホンガイドは邪魔にならないタイミングで、ポイントを押さえた解説は勉強になる。また、初めて配信(有料)も実施される。当日行けない人、お財布に余裕のない人、そしてお能が初めての人も、まずは映像を見て参加し、次はぜひ大阪城本丸へ!

■当日来場する人へ
屋外とはいえ、今年は新型コロナウイルス感染予防策のため、いつもより入場に時間がかかることを考えて早めの来場を。また、夜風に体が冷えることもあるので、はおりものは持参した方がベター。昨年は、ひざ掛けやブランケットの無料貸し出しも行われた。また観客席は前後左右1席ずつ空けて座るように設営されている。これは、とっても観やすい!

■配信で観たい人へ
公演を観ることができない人、もう一度観たい人へ。今回の演目の中で第一夜「千手」と第二夜「安宅」の映像配信はないが、その他の演目の舞台映像と配信限定特別対談が加えられて配信される。

大槻文藏、野村萬斎、大槻裕一の3人が、コロナ禍の自粛期間の過ごし方やお能の魅力などを語るレアな対談だ。また、視聴券は音声ガイドの有無が選択できる。さらに、配信は公演終了1週間後の18日(日)まで、アーカイブ期間を設けて実施されるので、第二夜を生で観て第一夜を配信で観るという楽しみ方もできるのだ。

■STAGE チケット発売中
「大阪城本丸薪能2020」
日時:第一夜10/10(土)16:30開場/18:00開演
第二夜10/11(日)16:30開場/18:00開演
会場:大阪城本丸広場 特設能舞台
出演者:観世清和 大槻文藏 大槻裕一 野村萬斎 大蔵源次郎 亀井広忠 ほか
料金19000円(パンフレット・イヤホンガイド付)

■有料配信
配信視聴券発売期間:10/18(日)まで発売

第一夜10/10(土)
<配信限定特別対談(事前収録)>約50分
<狂言>二人袴
<半能>石橋
※<能>「千手」の配信なし

第二夜10/11(日)
<配信限定特別対談(事前収録)>約15分
<狂言>舟渡聟
<能>竹生島
※<舞囃子>「安宅」の配信なし

第一夜・第二夜ともに
視聴券:3600円
音声ガイド付き視聴券:4100円(チケットぴあのみ)
問い合わせ:キョードーインフォメーション
電話:0570-200-888
http://takigino-osaka.com/

取材・文=演劇ライター・はーこ

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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