例年8月に行われていた神田明神・納涼祭りは、アニソン盆踊りをはじめ特設ステージでのライブやアニメとのコラボイベントなどを実施し、国内外から多くの人が訪れる神田明神の“夏の風物詩”となっていた。しかし、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため開催中止に。こうした状況のなかで納涼祭りの雰囲気を味わってもうおうと、Nintendo Switchの人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)」のなかに神田明神・納涼祭りを再現。それをYouTube動画で公開したところSNSで話題となった。そこで本企画を実施した理由について、神田明神の広報担当・岸川さんと加藤さんに話を聞いた。
■芸能・現代文化を受け入れてきた神田明神の歴史とは?
――先日、「あつ森」のなかに再現された神田明神・納涼祭りが話題となりました。そもそも、神田明神が納涼祭りを開催するようになった理由というのは?
加藤「実は、神社にとってお盆というのは参拝される方の少ない時期なんです。どうしたら神社に人を集められるかをテーマに納涼祭りの企画を立ち上げました」
――お盆は参拝する人が少ないとのことですが、具体的にどれくらいでしょうか。
加藤「イメージとしてはお賽銭箱に人が並ばないくらい、それぐらい閑散としていました」
――神田明神の納涼祭りといえば「アニソン・JPOP盆踊り」といったアニメとのコラボが有名ですね。
加藤「やぐらを組んで盆踊りをするだけでは神田明神らしくないと思い、神田明神の独自性を考えたときに“秋葉原の氏神”という点に着目しました。今ではさまざまなアニメコンテンツとコラボレーションをする“アニソン盆踊り”として、多くの方々に認知されています」
――具体的に納涼祭りによってどのような変化がありましたか?
加藤「納涼祭りは3日間行われますが、のべ約4万人集まるイベントになりました」
――神田明神は“アニメ聖地”としても有名です。これまでどのような作品とコラボしましたか?
岸川「コラボの話をしますと平成10年ごろからやっております。まずはチョロQ、リカちゃん、平成17年の『犬夜叉』、平成21年に『ケロロ軍曹』、そしてその後も『ラブライブ!』と続きました」
――神田明神は日本のポップカルチャーと手を取り合って歩んできた歴史があるわけですね。聖地巡礼として一番反響が大きかった作品は?
岸川「『シュタインズ・ゲート ゼロ』のアニメ放映時、納涼祭りの際に資料館でコラボ展示をしました。聖地巡礼という点でいうと、このときの反響はかなり大きかったです」
――宗教施設として、アニメとのコラボなどを行うことへの反対意見はありましたか?
岸川「アニメとのコラボに目が行きがちですが、神田明神はずいぶん前からTVドラマのロケ地にもなっています。例えば『ロング・バケーション』(フジテレビ系)のオープニングや結婚式のシーンがそうです。また、映画『帝都物語』では神田明神がロケ地になっています。有名な『銭形平次』はもともと野村胡堂による小説ですが、架空の人物でありながら、銭形平次の記念碑が神田明神にはあるんです」
――なるほど、神田明神はアニメだけではなく、“芸能全般”との結びつきがずっと以前から続いているんですね。
岸川「はい、神田明神は芸能や現代の文化を受け入れてきた歴史があります。1970年(昭和45年)に神田明神で『笑点まつり』を開催し、大喜利を境内の仮設舞台で行いました。神田明神にはいろいろな芸能、文化的なものを受け入れるという素地がありまして、そのなかのひとつとしてアニメとのコラボも行っています。以前は氏子さんのなかにアニメとのコラボに違和感を持つ方もいましたが、文化として徐々に受け入れられていて、今は反対する方はほぼいないと思います」
■アニメやゲームをきっかけに、裾野を広げてまず知ってもらうことが大事
――そういった流れを考えますと、ゲームを活用した取り組みにも合点がいきます。数あるゲームのなかで「あつ森」を選んだ理由というのは?
加藤「このコロナ禍で外出もままならない状況ですが、世のなかが明るくなった際に改めて神社に来ていただきたいという思いで製作しました。特に海外の方にも見てもらえたらうれしいです。なので、世界規模で親しまれている『あつ森』がピッタリだと考えたわけです」
――今、「海外の方にも」というお話がありましたが、外国の方がアニメを通じて神田明神に来ることは多かったのでしょうか。
加藤「アニメがきっかけで神田明神に来たという声をよく聞いていました。私どもは“裾野を広げてまず知ってもらうことが大事”だと思っています。ですから、『あつ森』をきっかけにして神田明神のことを知っていただき、神田明神はどういう神様をお祀りしているんだというところを知ったうえで、お参りに来て頂けたら一番いいかなと思っています」
――「あつ森」企画への反響はいかがですか?
加藤「プレスリリースを出しましたが、特に反響が大きかったのは神社界です」
――身内の方々が興味を示したんですね。
加藤「宗教・文化の専門新聞『中外日報』は真っ先に取材に来まして、『宗教施設としてこういうことをやるのは初めて』と言っていました。あと、とある神社の宮司の方から直接メールがありまして、『息子がプレイしている「あつ森」で納涼祭りを見て大変おもしろかった』と。さらに、こうしたイベントを行う際のアドバイスもしてほしいと言われました」
――ポジティブな意味で業界内をざわつかせたわけですね。
岸川「実は、こうした取り組みはこれまでにも神社界で実施されていたんです。例えば六本木の天祖神社さんはシャネルと、大洗磯前神社さんは『ガールズ&パンツァー』とコラボしています。埼玉の鷲宮神社さんと『らき☆すた』のコラボも有名ですね。ただ、神社本体でコラボするというのはあまり聞いたことがないですし、横の繋がりで何か聞かれるということも、これまではありませんでした」
――「あつ森」企画で伝えたいメッセージは?
加藤「今、コロナ禍で参拝客の数が15年前の状況に戻ってしまいましたが、ゲームなら外国の方も地方の方も神田明神に来られますし、『来年の納涼祭りで待っていますよ、神田明神で』というメッセージを直接伝えることもできます。この企画を通じて、途切れかけたカルチャーを繋ぐハブのような存在になれたらうれしいです。今年は『あつ森』のなかで納涼祭りを楽しんでもらって、コロナが収束した際には納涼祭りに笑顔で参加してほしいと思います」
■かんだみょうじん島 ゆめみ解放期間
8月28日(金)~9月30日(水)
■かんだみょうじん島 ゆめみの夢番地
DA-0760-0601-9410
取材協力(画像提供):神田明神