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「鬼滅の刃」新聖地が活況、一方で“アニメ聖地認定”による不幸せな現実も

  • 2020年8月8日
  • Walkerplus

漫画『鬼滅の刃』人気が止まらない。シリーズの累計発行部数は8000万部を突破し、作品の連載終了後も新たなファンを取り込み続けている。人気の一端は、作品の舞台やゆかりの地を巡る“聖地巡礼”にも見られる。モデルと明言されていない神社や旅館が、名前の共通点や風景が似ているなどの理由からファンの間で「聖地」として話題になっているのだ。コロナ禍で観光地が大ダメージを受けるなか、聖地とされたスポットでは驚きとともに歓迎の声が聞かれる一方、人気作品の舞台探訪はしばしばトラブルにつながるケースもある。今や観光の定番となった「聖地巡礼」の光と影とは。
■モデルじゃないのに聖地?「名前が同じ」竈門神社に鬼滅ファンが注目

週刊少年ジャンプに連載された漫画『鬼滅の刃』は、吾峠呼世晴による人気作品。大正時代を舞台に、主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が、鬼に変えられてしまった妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻し、家族の仇を討つため、“鬼狩り”として戦う姿を描いた物語だ。

2020年5月に誌面での連載は終了したものの、7月に発売されたコミックス第21巻は初版300万部の大台に乗り、シリーズ累計8000万部を記録。2019年のTVアニメも好評を博し、2020年10月16日には『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』の公開を控えるなど“鬼滅フィーバー”はまだまだとどまる所を知らない。

同作は大正時代を舞台にしており、現在の日本の風景がそのまま作中に登場することはない。そんななか、鬼滅の刃の「聖地」として注目を集めているのが、福岡県太宰府市の「宝満宮竈門神社」と、大分県別府市の「八幡竈門神社」だ。どちらも主人公の炭治郎や妹の禰豆子の苗字と同じ「竈門」の名を冠することから、”鬼滅ファン”が訪れるようになり、キャラクターのイラストが描かれた絵馬も数多く奉納されている。

もともと縁結びの神様として知られ、女性の参拝者が多かった宝満宮竈門神社。権禰宜の馬場宣行さんは2019年の11月頃から“鬼滅ファン”の参拝が増えていることに気付いたと話す。

「もともと『神社でコスプレをしたいのですが』という問い合わせがあり、ご参拝される方のご迷惑にならないようにというお約束のうえで撮影いただいたのですが、その際にその方たちの衣装が『鬼滅の刃』のものであると聞き、ファンの方に参拝いただいていると知りました」(馬場さん)

参拝者が増えたことについて、馬場さんは「ファンの方々からそうした話題に取り上げていただいて、竈門神社という御社を知っていただくきっかけになったのは非常にありがたい」と好意的に受け止める。最近は大人のファンだけでなく、子供連れで訪れる家族での参拝者も増えたという。

■「無限城」そっくりと話題の温泉宿、コロナ禍でも宿泊問い合わせ増

また、景観が『鬼滅の刃』に登場する場所に似ているとSNS上で話題になっている温泉宿もある。福島県会津若松市の芦ノ牧温泉の旅館・大川荘には吹き抜け部分の中央に三味線を演奏するための浮き舞台があり、その光景が主人公の宿敵・鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)の本拠地「無限城」と、琵琶を奏でることで空間操作などの血鬼術を使った「上弦の肆・鳴女(なきめ)」を彷彿とさせるというのだ。

老舗旅館としてもともと人気の高かった大川荘も、一時期は全館休館するなど新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた。それでも営業再開以降、鬼滅の舞台に似ていると話題を知った人からの宿泊の問い合わせや、鬼滅のアクセサリーや衣装柄のマスクを身につけた宿泊客が増えているという。

大川荘で広報を担当する鈴木直樹さんも「正式なモデルというわけではないのに話題にしていただけるのはありがたいお話。こちらとしては特別何かをするわけではないが、作品がきっかけでお越しいただいた方にも最高のサービスを提供して、大川荘の魅力を知ってもらえるようにしたい」と話す。新型コロナウイルス感染症の影響で観光業界全体が苦境に陥るなか、鬼滅の刃の影響力をうかがわせるエピソードだ。

■「そこは観光地ではありません」聖地巡礼への懸念や苦情も

このように作品をきっかけにした観光客増加を喜ぶ声がある一方で、聖地巡礼がしばしばトラブルの原因にもなってしまうケースもある。

空前の大ヒットを記録した新海誠監督作品『君の名は。』では、アニメーションで描かれた東京や飛騨地方の景色も見どころで、多くのファンがモデルとなった場所に足を運んだ。その影響から、作品に関連する場所への早朝深夜の訪問や騒音が苦情となって制作側に寄せられ、公式サイト上で「関連場所への訪問を予定されている皆様におかれましては、節度のある行動、及びマナーに十分心掛けていただきますようお願い申し上げます」と異例のアナウンスが行われる事態となった。

また、映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督は、劇中に登場する一部地域への訪問について「いわゆる『聖地巡礼』の目的地とされませんようお願いいたします」と、自身のTwitterアカウント上で自粛を呼びかけた。一連の投稿では「道は狭く、私有地に踏み込むことで起こりかねないトラブル、実質的な物理的危険について製作委員会、監督、原作者、現地それぞれで憂慮しています」「そこは観光地ではないのです」と、聖地巡礼で起こるトラブルへの懸念が示されていた。

ファン発の聖地では、福島県福島市平石地区に設置されたガンダム像、通称「へたれガンダム」の“ビームライフル”が2020年5月、盗難被害にあったことが発覚。読売新聞オンラインのニュースによると、ガンダム像の正面にある集会所に監視カメラを設置したり、近所の交番が見回りを強化する事態になっているようだ。

作品のモデルとなる場所は現実には住宅街や学校といった、不特定多数の来訪を想定していない場所であることも多い。また、その地域に暮らす人すべてが作品の存在や内容を知っているわけでも、また許容しているわけでもない。想定外の観光客の集中によるキャパシティオーバーや、一部のファンの無思慮な振る舞いが、近隣住民への迷惑となってしまうリスクは少なくない。

■“ファンの意識”が問われる聖地巡礼、聖地を守るために必要なこと

2018年以降、アニメツーリズム協会が「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を毎年発表するなど、アニメの聖地巡礼文化は広く定着した。また、SNSの普及で、熱心なファンでなくても聖地に関する情報は手軽に手に入るようにもなった。竈門神社や大川荘は、SNSの“バズ”で生まれた聖地ともいえる。さらに近年では、佐賀県を舞台に、県の協力のもと制作が進められたアニメ『ゾンビランドサガ』のように、制作側・自治体双方が聖地巡礼を視野に入れた作品作りも行われており、今やアニメ・漫画作品と聖地巡礼を切り離すことはできない。それだけに、聖地巡礼でのトラブルがファンや作品への悪感情につながることへの懸念も大きくなっている。

もちろん、地域、作品、ファンがお互いに良好な関係を築くケースも多い。現在のアニメ聖地巡礼ブームのはしりともいえるアニメ『らき☆すた』では、舞台の一つとして埼玉県鷲宮町(現・久喜市)が描かれた。アニメ放映から10年以上経った今、作中の登場人物から生まれた久喜市商工会のキャラクター「かがみん」が、作品とは直接かかわらない地域の祭りやイベントにも登場するなど、街に欠かせない存在として溶け込んだ。そして今なお、多くのファンが聖地に足を運ぶ。

宝満宮竈門神社の馬場さんは「あくまで神社ですので、普通のお参りと同じ形で来ていただければ問題はないかと思います」と、聖地巡礼について今のところトラブルや苦情はないと話す。聖地巡礼は熱心なファン活動に留まらず、多方面に大きな影響力を持つ社会現象になった。SNS上ではファンの間で節度を守るようように促す姿も見られる。アニメ聖地を守るためにも、マナーを守り、その周辺に暮らす人々への配慮を忘れないよう心掛けたい。

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