「立冬」で迎えた冬の始まりも一歩進み「小雪」となりました。太陽は黄経240度にあり、春分の0度からちょうど3分の2進んだ位置となります。次の春を迎える迄に太陽が動く120度の時間を思うとき、冬の長さが実感されます。
「冷ゆるが故に雨も雪となりてくだるが故なり」と『暦便覧』が記すように、北国や山岳地方から雪の便りが届き始めます。雪が風に乗り運ばれると、まるで花びらのように舞うこともあるようです。「小雪」は寒さが深まりゆくときとも言えるようです。
「風花」なんと美しい名前をつけられたのでしょう。ちらちらと舞い地面に着くことなく消えていくような、あっけないほど儚い雪片。
≪眼の高さにて風花を見失ふ≫ 今瀬剛一
冬の青空に舞う雪を「風花」とよぶそうです。風に舞い散る花びらのような雪はどこからくるのでしょうか。冬の日本列島、日本海側に湧いた雪雲は列島を縦断する山々にせき止められ、太平洋側は青空が広がります。遠く山を越えて吹く風にまじって運ばれてくる雪片の舞う姿が「風花」のイメージでしょうか。
≪華やかに風花降らすどの雲ぞ≫ 相馬遷子
青空の中に舞う雪片の美しさが春を思わせる、そんな華やぎから「風花」と名づけられ、初冬の美しさを象徴するようになったのではないでしょうか。
舞い散るようなイメージの強い「風花」ですが、冬の初めに北西の季節風が吹き始めるころ、その影響で降る雨や雪のこともまた「風花」と言うそうです。冬の季節風の冷たさが雨雲とともに作りだしていることには違いないようです。
≪風花と舞ふてはなやぐ鷹一羽≫ 中澤文次郎
ひとたび風が吹き雲が湧けば、やがて降る雨は気温によって雪にも変わり、風の強さによって飛ばされ遠くまで運ばれて行きます。抜けるように高く感じた空も次第に低くなり、やがて冬の景色へと変わっていきます。
雪の舞う冬の青空
冬になると夜空を飾る星の中でも目を惹くのが牡牛座。その中のプレアデス星団は和名を「昴(すばる)」といって古来日本でも親しまれてきました。冬の空に堂々と輝く星の姿の素晴らしさでしょうか。
≪寒昴天のいちばん上の座に≫ 山口誓子
散らばる多くの星を「統べる」ように並び光ることから「すばる」と呼ばれるようになったとのことです。またの名を「六連星(むつらぼし)」。光る星が六つに連なるようすから付けられました。
平安時代に書かれた随筆『枕草子』で清少納言は「星と言えば昴だ」と言い切っています。その理由は説明していませんが、七夕の彦星や夕方現われる宵の明星などは「少し面白いくらい」と比較して讃えています。真っ暗闇の中に冷えて輝く星の連なりの美しさはきっと何物にもまして素晴らしく感じられたのでは、と想像するばかりです。
≪遥かなるものの呼びこゑ寒昴≫ 角川春樹
天体は規則にのっとって動き、星は季節や時を正しく指し示すところから、「昴」は古来農作業の時期を決める重要な目印になってきたということです。冬の夜空に鮮やかに光る星たちは誰もが見ることができ、確かな指標となっていたことでしょう。
昴・プレアデス星団
太陽の陽射しをたっぷり浴びながら黄に色づいてくるのが冬の柑橘類です。冬でも緑濃い葉をつけている柑橘の木々は、色鮮やかな実の色とともに冷たい空気の中で活気を作りだしてくれます。
最近はこたつを使う家庭も減ってきましたが「こたつにみかん」は、今でも冬の和やかな茶の間を象徴する情景として皆の心に生きているのではないでしょうか。
≪テーブルの蜜柑かがやきはじめたり≫ 鳴戸奈菜
冬になると新鮮な食べ物が少なくなりがちだった昔、蜜柑はビタミンを補う大切な果物だったことでしょう。寒くなると人気の鍋料理にも柑橘類は欠かせません。酸味が味を整え引き締めます。
古代では蜜柑の元祖とも言える「橘(たちばな)」を、不老不死の理想郷と言われる常世の国から田道間守(たじまもり)が持ち帰った、との伝説があります。「常世草(とこよぐさ)」との異名も持つせいでしょうか、冬の柑橘は縁起物として行事にも登場します。
≪楽園の一樹のごとく柚子熟るる≫ 羽野里美
師走も押し迫り冬至を迎えれば柚子を湯に入れ身体を温め健康を祈り、お正月には鏡餅の上に葉付きの橙や蜜柑を飾り新年を迎えます。太陽の光を映し出したような明るい色にきっと未来への希望を託しているのでしょう。
冬の夏ミカン