【動画】サメの頭に乗るタコを目撃、「全く意味がわからない」

  • 2025年4月28日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

【動画】サメの頭に乗るタコを目撃、「全く意味がわからない」

 自然の中で長く過ごしていると、奇妙な光景を目にすることもある。サケを帽子のようにかぶるシャチや、ウォンバットの立方体のふんなどだ。しかし、ロシェル・コンスタンティン氏がニュージーランドのハウラキ湾で調査船に乗っていたとき、これは新たな発見だと確信する出来事があった。目の前を猛スピードで通過した体長約2.75メートルのアオザメの頭に、巨大なオレンジ色のタコがくっ付いていたのだ。

「まさに幸運な一日でした」と、ニュージーランド、オークランド大学の海洋生態学者であるコンスタンティン氏は振り返る。

 サメとタコは同じ海の動物だと思うかもしれないが、氏によれば、両者の生息環境は全く異なる。例えば、アオザメはほとんどの時間を海の中層部で過ごすが、この海域にすむマオリタコは生まれてから死ぬまでほぼ海底で暮らす。

「両者がどのように出合ったのか、全く意味がわかりません」と氏は話す。

 コンスタンティン氏らは約10分間にわたって観察し、英語のサメ(シャーク)とタコ(オクトパス)をもじって2匹に「シャークトパス」という愛称を付けた。最終的に、この奇妙なカップルはどこかに泳ぎ去った。

「彼らをそっとしておきました」と氏は言う。

 シャークトパスは科学者と一般の人々を同じように驚かせたが、動物がほかの動物に“ヒッチハイク”する行動は生物学ではよく知られている。この行動は「便乗」または「運搬共生」と呼ばれており、昆虫などの無脊椎動物をはじめ、自力で分散するのが難しい小型動物によく見られる。

 タコの便乗は知られていないが、吸盤を持つことから、その能力は高いと思われる。

「アザラシ、アシカ、イルカ、サメなど、タコが便乗しそうな動物はすべて、タコを食べる動物でもあります」とコンスタンティン氏は話す。通常、天敵に便乗することはないため、その点でも、シャークトパスは不可解だ。

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便乗は動物界のあちこちで起きている

 異なる動物同士が偶然接触することはあるが、便乗には目的がある。例えば、交尾の相手を探すのに便乗を利用する動物も多い。

「移動分散は動物の重要な特性であり、遺伝子の流動や群れの構造に影響を与えます」と、米ロスアラモス国立研究所の生態学者アンドリュー・バートロウ氏は説明する。

 バートロウ氏は、便乗に関するレビュー論文を2020年9月に学術誌「Biological Reviews」に発表した。バートロウ氏と共著者のサルバトーレ・アゴスタ氏が科学文献を徹底的に調べたところ、少なくとも13門、25綱、60目の動物で便乗の観察例があった。これらを総合すると、便乗は系統樹上のさまざまな時期に進化してきたようだ。

 典型的な例が、吸盤のようなひれでジンベエザメなどの大きな動物に吸い付くコバンザメだ。また、クジラの皮膚やウミガメの甲羅にくっ付くフジツボもそうだ。

 しかし、このほかにも、アリに乗るゴキブリ、クラゲに乗るカイアシ、マスに乗るホウネンエビ、イノシシに乗るミジンコ、鳥に乗るヤスデ、カニに乗るイソギンチャク、ヒツジに乗るバッタもいる。そしてもちろん、ダニもそうだ。便乗に関する私たちの科学的知識の大部分は、ダニによってもたらされた。

「ダニの文献はたくさんあります」バートロウ氏は言う。

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便乗の暗黒面

 バートロウ氏は確かに多くの観察例を見つけたが、まだ発見されていない便乗の例はたくさんあると考えている。例えば、海の動物は、観察例の数は実際より少ないだろう。波の下で何が起きているかを調べるのは難しいためだ。

 便乗の仕組みについては、現在も研究が続けられている。例えば、一部の種では、乗る側と乗られる側の関係が不気味な方向に向かってしまうことがある。

「フジツボの中には、寄生性が強い種もいます」とバートロウ氏は話す。

 同様に、淡水イガイの幼生は上流に運んでもらうため、魚のえらにしがみ付くが、まるで小さな吸血鬼のように、宿主から栄養を吸い取る。

「こうした便乗行動と寄生は地続きになっています」とバートロウ氏は説明する。しかし、便乗は進化の果てに寄生に行き着くのではないかと科学者たちは考えている。

 今回発見されたシャークトパスについては、タコがアオザメの頭になぜ、どのようにたどり着いたのかも、本当に便乗なのか、それとも単なる偶然なのかも、まだ結論が出ていない。メディアの注目が数週間続き、SNSで同様の体験談を語る人が次々と現れたが、謎の解明には一歩も近づいていないとコンスタンティン氏は述べている。

「多くのメディアに取り上げられていますが、私たちが目にした出来事の説明となるものはありません」

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