夏といえば海! 泳いだり、砂遊びをしたり、貝殻をひろったり、何かと楽しい砂浜ですが、今、日本各地で砂浜が減ってしまっているのをご存知でしょうか?
現在、離島を除くと日本の海岸の95%以上が人工海岸や半自然海岸で、本来の自然海岸、とりわけ砂浜は5%未満となっています。
今回はちょっと視点を変えて、砂浜の地形や成り立ちをみながら歩く、「ブラタモリ」風な砂浜の楽しみ方をご紹介します。
広大な砂浜は、ただ歩くだけでも気持ちがいいものですが、そこにすむ生きものや砂浜そのものの成り立ちを知ることで、楽しさはより一層広がります。
そんな「自然を感じる砂浜の歩き方」を、砂浜に詳しい九州大学の清野聡子先生とNPO法人表浜ネットワークの田中ご夫妻に教えてもらいました。
砂浜に降り立ってまず見つけた砂の盛り上がりは?
清野先生と雄二さんがまず注目したのは波打ち際にある砂の盛り上がり。
「これはバームです。波で打ち上げられた砂が堆積して棚のようになった状態ですね」と雄二さん。
バームの発達は砂が活発に動く「生きた」浜である証とのこと。
「バームの砂は、風に飛ばされて砂浜や砂丘を作ったり、込み潮でまた削られたりもします」。
バームの陸側にはウロコ模様のような凸凹が……。これは何でしょう?
「バームを乗り越えた海水が流出する時のせせらぎの痕跡ですね」
確かに面白い! まるで枯山水のような波模様もあれば……こちらは黒っぽくて表面がパリッとしています。
「これは海水に含まれる塩分や有機物が砂浜の表面で固まったものです。乾燥すると石英とか長石など白くて軽い砂が飛ばされて比重の大きい黒い砂が残るんですね」と清野先生。
当たり前のように目の前にある砂浜が「常に動いている」という感覚は新鮮です。表浜にはその動きが分かる痕跡がたくさんあるようです。
続けて清野先生が見つけたのは、足元に落ちていた小さな赤い石。
「レッドチャートと言いまして、大昔に深海に堆積したプランクトンの死骸が地殻変動で山上にまで持ち上げられたものですね。ずっと東の天竜川から流れ下ってきたのか、渥美半島の基盤となる地層だったのかと思います」
小石……と言えば、それ以前に砂も気になります。砂浜に砂があるのは当たり前ですが、これら砂や石は、いったいどこから来たのでしょう?
「目の前の海食崖から供給される砂もありますが、多くは川から流下して沿岸流や風で運ばれてきたものです。大きさや色、形などを観るとブレンドされている様子が観察できますよ」
場所によってはサンゴや貝が細かくなった砂もあるでしょうし、お土産で有名な星の砂は有孔虫の殻ですから、そんな観察も面白そうです。
「砂浜は常に動いているんですよね」と清野先生。
遠景も近景も、砂浜の景色は日・月・年単位で常に変化しています。
今、目の前にある景色は今しか見られない景色。
一期一会の砂浜は、常に新鮮な気持ちで楽しめる観察地、と言えるでしょう。
出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.569(2019年5・6月号)