緑のgooは2007年より、利用していただいて発生した収益の一部を環境保護を目的とする団体へ寄付してまいりました。
2018年度は、日本自然保護協会へ寄付させていただきます。
日本自然保護協会(NACS-J)の活動や自然環境保護に関する情報をお届けします。
今、日本各地でニホンジカが急増しています。
生態系の攪乱、私たちの暮らしに重要な水源の森の破壊、農林業への被害、などさまざまな影響を及ぼすため、日本の森にとってシカの急増は大きな問題となっています。
ニホンジカは、そもそもは人よりも古くから日本列島に息づいてきた在来の野生動物です。なぜシカは増えてしまっているのか。まずはニホンジカとはどのような動物なのか、その生態や生活史についてまとめました。
日本に元々いるシカはニホンジカ一種です。北海道にいるエゾジカ、本州にいるホンシュウジカ、九州・四国にいる(ヤクシカも含む)キュウシュウジカは、それぞれニホンジカの亜種となります。学名にもCervus nipponと「ニッポン」が入っていますが、日本の固有種ではなく、中国やロシアなどにも生息しています。
シカは運動能力にも長けていて、高さ1.5mの柵を飛び越えることができます。そのため防護柵は2m以上にする必要があります。また、立ち上がって高さ2mまで植物を食べることができます。
雄だけに生える角は、春に生えはじめ、皮膚に覆われた「袋角」のまま成長して夏を過ぎ、秋になると皮が剥がれて硬い骨質の角になります。そして春になると根本から抜け落ち、また新しい角が生えてきます。
シカは脚が細く雪にとられやすいため、深く雪が積もると身動きが取れなくなってしまいます。生まれたばかりの小さなシカは特に弱いです。また、植物が雪に埋まってしまうと餌がとれず、餓死してしまうこともあります。
シカは学習能力が高く、餌となる植物が生えていた場所は正確に覚えるようです。また、通電した電気柵に一度接触したシカは二度と来なくなるとも言われています。群れの仲間が猟銃で撃たれると極度に用心深くなったりもします。
シカは食べるものが豊富な場所では好き嫌いがはっきりしていますが、資源量が減ると最終的にはほぼ何でも食べるようになり、1000種類を超える植物を食べることができます。一日に食べる量は約3㎏です。
栄養状態の良好な雌は、満1歳(生まれた翌秋)で性成熟し、その翌春から毎年子どもを産みます(通常は1産1仔、まれに2仔)。1年で1.2倍ほど、4年で約2倍に増える計算となり、この性質が短期間で数を爆発的に増やすことに繋がっています。
反すう動物であるシカは、4つの胃を使うことで植物に含まれるセルロースなどの繊維質を細かく砕いてから消化して利用することができます。人の胃と同様、消化液を持つのは4番目の胃(第四胃)だけで、それ以前の第一~第三胃は食道が進化してつくられたもの。第一~第二胃から口に戻して再び噛み砕く(反すうする)ことで、食物をより消化しやすい状態にしています。
一年中、同じ場所にいるシカもいますが、特に高山帯や雪の多い地方では、冬に積雪を避けるよう大きく季節移動します。一例を挙げると、春から秋を尾瀬で過ごすシカは、冬になると比較的積雪量の少ない奥日光の千手ケ浜や足尾に、直線距離で30㎞以上移動して越冬することも知られています。
シカは1年に2回、春と秋に毛が生え変わります。「鹿の子模様」と呼ばれる白い斑点は夏毛の特徴です。抜け落ちた毛はキセキレイなどが巣材として利用しています。
シカは元々薄明薄暮性で、早朝や夕方の薄暗い時間帯によく動き回りますが、日中にも行動する動物です。ところが狩猟圧の高い地域のシカは、人間が活動する日中を避けて夜間に行動するようになります。シカと自動車の交通事故が夜間に増えているのはこのためです。
群れずに縄張りを持つカモシカと比べると、シカは縄張りを持たないので、同じ面積でもたくさんすめます。これがシカの数が容易に増える理由のひとつです。
出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.565(2018年9・10月号)