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Vol.20 今枝忠彦さん
都市計画家が考えるバイオマス

  • 2011年7月1日

震災復興におけるバイオマスの活用の必要性

沼津市戸田
漁村の例:沼津市戸田(google)
 東日本大震災以後、エネルギー政策の見直しを政府が打出したことをはじめ、バイオマスへの関心度が高まりつつあります。しかし、バイオマスの利活用においては、再生エネルギーや物質への転換だけでなく、「地域」という視点から、循環型社会を形成する可能性に注目すべきであると思います。
 今回の津波によって、三陸海岸の小さな漁村、漁港の多くが壊滅的な被害を受けました。その数は200とも300とも言われます。風光明媚、海山の幸に恵まれた生活、その一方で、人口減少、超高齢社会の現実。高齢者が全体居住者の半分を超える限界集落も多いと思います。元の場所での生活を望む人も多いかもしれませんが、生業としての漁業は、震災以前から危機的状況にあったと言えます。小さな漁村は消えざるを得ないのかもしれません。その時期が前倒しされたと考えることもできそうです。実際、津波の危険性の高い小さな漁村を高台に集約化するプランも出ているようです。
 しかし、ここで考えたいのは、小さな漁村がネットワーク化したバイオマスタウンの可能性です。もともと漁村は住居が密集し、山に近い。漁業とともに、棚田での農業によって生業が営まれてきました。海と山が一体的な生活圏を形成しています。水産業だけでなく、海、山のバイオマスの総合的な活用を軸に、新しい仕事を創出して、復興を図る。若者を新たに呼び込むことで持続する循環型の地域社会の形成に取り組むチャンスといえます。


新たな国づくりにおけるバイオマスタウンの可能性

 また、エネルギー問題はじめ人口減少、高齢化など地域社会の構造的問題を露呈した東日本大震災は、これまでの「拡大文明」から「縮小文明」への転換を余儀なくしたのではないでしょうか。戦後の経済成長をもたらした工業社会が築いた大量生産、大量消費、大量廃棄の拡大指向は、コンパクト化、定常化へと方向転換が必要なことは明らかです。そのためには、現在の生活水準を落とすことなく資源消費を抑えることが必要であり、既存の環境・文化資源の再発見と再生を柱とした暮らしを展開すること、そして、これからの時代を担う若者による新しいライフスタイルの試行、実現が期待されます。

バイオマスタウン・マンダラモデル
バイオマスタウン・マンダラモデル
 「バイオマスタウン構想」とは、政府による「バイオマスニッポン総合戦略」に基づいて、農林水産省はじめ7つの府省による共同所管事業ですが、現在、300以上の自治体で構想が策定されています。しかし、実態を見ていくと、多くの自治体が構想を作った段階で止まっているという印象を受けます。バイオマスタウンは、エネルギー、食糧、ゴミ処理といった地域の自立性、持続性を担う領域に直接関わります。行政の縦割主義を超えて、循環型社会を実現する総合的なまちづくりとして展開されることが期待されます。左図は、海から山まで、国土全体の豊かなバイオマスの利活用を想定するバイオマスタウンの展開イメージを「バイオマスタウン・マンダラモデル」として図式化してみました。1自治体の枠を超えて、「流域」といった視点から、「地域」をとらえ直すことが期待されます。


地域バイオマスによるまちづくりから始めよう

 1968年に現在の都市計画法が制定され、50年振りの大改正の時期にあると言われています。先の「新潟県都市政策ビジョン」のように、都市も農村も一体的に取り扱うような法改正が進むことを期待しています。新しい都市計画に、都市と農村を含む都市圏の姿を描くことが期待されるならば、「バイオマスタウン」という将来像を考えることは、極めて有意なアプローチになると思います。失われた20年と言われますが、成長型の社会経済システムの転換期にあるのでしょう。本来、農業、産業も含めて、生活を総合的にデザインするのが都市計画であり、その役割を担うべきものです。

「バイオマスの街・里づくり研究会」ご案内 最後に、われわれの活動のPRをさせてください。「バイオマスの街・里づくり研究会」は、バイオマスの利活用という視点から、持続性のある循環型地域社会形成の実現を目指す専門家集団です。これまでに、インターネットを介して全国のバイオマスタウン構想を策定している全ての自治体に対して、われわれの考える「バイオマスタウンのまちづくり」について、定期的に提案をしています。また、今年の5月にはホームページを立ち上げ、情報発信を行うとともに、地域と連携した運動の拡大に取組んでいます。「地域バイオマスによるまちづくりから始めよう」を合い言葉として、活動を続けたいと考えています。


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