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第15回 建築家・千葉大学教授 / 栗生 明さん
「環境健康都市」づくりを提唱する建築家

  • 2008年8月1日

「環境健康都市」宣言

栗生さんが出版された著書「環境健康 都市宣言!」とはどのような宣言ですか?

環境健康都市宣言展(UDCK)
環境健康都市宣言展(UDCK)

 タイトルがかなりベタで大袈裟かなと自分でも思っていますが、いくつか背景があります。環境問題にとって、国連の「地球環境開発会議」が開かれた平成4年(1992)は記憶されるべき最も重要な年と言えます。後に「地球サミット」と呼ばれるようになるこの会議は、20世紀最大規模の国際会議で、「環境」と「開発」の両立が最大のテーマでした。そこでは、国際的合意として27項目の原則が宣言されました。私が注目したいのは、その第一原則の「人類は持続可能な開発に対する関心の中心にある。人類は自然と調和して健康で生産的な生活を送る権利がある」です。

写真  これは「環境」と「健康」の関係が地球規模で語られた最初だといってよいと思います。そして、その4年後に(1996)、「OUR STOLEN FUTURE」(奪われし未来)が世界を震撼させました。有害化学物質が母親の胎内環境を汚染し、胎児の健康を脅かす可能性を警告した書です。胎児が危機にさらされている。つまり「人類の未来は奪われる」と。そのような背景があり「環境」と「健康」は21世紀最大のテーマとなったと考えています。大袈裟なことではなく、まさに人類の存亡がかかっているといってよいと思います。「緑のgoo」の「LOHAS」もそのような背景から生まれたサイトと思いますが、千葉大学はいち早く「環境」と「健康」を中心テーマとした研究機関、「環境健康フィールド科学センター」を立ち上げました。これはまさに「LOHAS」をテーマにした研究機関とも言えます。

 私は千葉大学の教官として、現在もかかわっていますが、当初このセンターのマスタープラン作成に関わりました。マスタープラン自体も「環境」と「健康」をテーマにせざるを得なかった訳です。そして当然ですが、環境はキャンパス内だけでは完結してなく、周辺環境の街や人など様々に複雑に関わり合っているわけです。キャンパス内だけで「環境」と「健康」の問題を解くことは不可能でした。そこで、身近な「まち」の環境と健康を考えることから始めました。


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千葉大学柏の葉キャンパスの風景
 現在では環境と健康が大切だというのはもう一般的であたりまえの話ですけれども、実際にアクションを起こすことがやっぱり重要だろうと思うのです。しかし、専門家だけが議論していても始まりませんから、一般の人にも、「いま環境と健康で、こういう問題があるんだよ。まちでこんな事がおきているのだよ」という事をまずは読んで知っていただきたいと、そしてそれがアクションを起こすためのきっかけになればと思ってこの本をまとめました。難解な学術書というよりもできるだけ幅広い年齢層の地域住民の方や一般の方が読みやすいように、わかりやすい言葉で書きました。また、我々で撮った魅力的な地域の写真を多くのせ、さらに字も大きくしました。建築やまちづくりの知識がなくても十分楽しめる内容となり、宣言をすることによって多くの人が少しでも環境や健康に興味を持ちその器である都市や建築がどのようにあるべきかを考えてもらえればと願っています。去年(2007)の12月には柏の葉キャンパス駅前にあるUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)で、環境健康都市宣言−キャンパスからのまちづくり−と題してシンポジウムと展覧会を行い、大きな反響を頂きました。


実践としての「ケミレスハウス」

千葉大学の柏の葉キャンパスでは何がおこっているのでしょうか?

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千葉大学柏の葉キャンパス
 前の話とラップしますが、もう少し詳しくお話ししますと、千葉大学は「環境健康フィールド科学センター」という施設をつくりました。これは医学部、薬学部、看護学部、教育学部、園芸学部と5つの学部が一緒になって総合的に研究していこうと考えた学際的研究施設です。環境と健康っていうのは考えてみますと、コインの裏表と思っています。環境が良くなければ、健康は保てないし、健康でなければ、いい環境はできない。健康という言葉の対象は人間を指しているのかもしれないのですが、私は人間だけではないと考えています。動植物も健康であることがすごく重要で、今まで物理的に見えてくる環境問題としてCO2や地球温暖化の話はたくさん出て議論されていますが、もうちょっと生命の方から環境を考える機運を盛り上げていく、つまりコインの裏表を両面で考えていくことが重要で生物多様性の問題もこうした視点からとらえられていると考えています。

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柏の葉キャンパス駅周辺の風景
 さて、柏の葉キャンパスに話を戻しますと、柏の葉キャンパスでは、その研究施設の一部としてキャンパス内に、実証実験施設としてのケミカルフリーハウスを建設するプロジェクトがもちあがりました。後にケミレスハウスと名称を変更しましたが、「ケミレス」とはケミカルレス(Chemical-less)、つまり有害化学物質を極力減らすことを意味する造語です(NPO次世代環境健康学センターはこの語を2006年に商標登録した)。つまり、ケミレスハウスはシックハウス症候群、アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患の予防と治療を目指した実証実験施設です。そして、これらハウスの集合環境としてのケミレスタウンがつくられ、市や県、国・・・と広がることを目指しています。また、柏の葉キャンパスのイメージですが従来のような街の中にキャンパスがつくられるのではなく街がキャンパスの中につくられると「環境・健康フィールド科学センター」の医学部、薬学部、看護学部、教育学 部、園芸学部の総合的な知的財産が広く還元された街が生まれるのではないかと考えています。ちなみに千葉大学柏の葉キャンパスの最寄りの駅名は、つくばエキスプレスの「柏の葉キャンパス」駅といって日本で唯一キャンパスが付いた駅名だとのことです。

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