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第13回 環境倫理学 教授/鬼頭秀一さん
「プランB」の時代をリードする実践的環境倫理学者

  • 2008年2月1日

きちっとした手入れをしないと、「自然」が「自然」でなくなる!

自然と人間とのかかわりをどうとらえたら良いのでしょう。

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埼玉県くぬぎ山での落ち葉掃き。雑木林再生のために広域に伐採すると、キンラン、ギンラン等の稀少種が急に多く出現した。
 従来の自然保護の考え方の中には、手つかずの原生的な自然を重視する見方があり、人の手が加わらない状態が望ましいという考え方のもとに、人の営みと自然の営みをいかに切り離していくか(ゾーニング)という自然の管理の仕方が強く主張されてきました。しかし、日本を初めとしてアジアの自然は人がかかわってきたところが多く、原生自然保護の考え方はそぐわないことも多いのです。

 生態学の生態系の捉え方も、従来の有機体論的な、手つかずの形で安定化するような生態系のイメージから、変動が激しい不均一的なイメージに変わってきています。自然界だけでなく、継続的な形で行われる人の手による「攪乱」も、生物多様性を豊かにするために意味を持っているということも分かってきました。私どもの研究室と保全生態学との共同研究でも、伝統的な形で継続的に萱を刈り、野焼きをする行為をしていた区域の生物多様性が、そのような行為を止めてしまった区域と比べると高いことが分かり改めて驚いています。

 単純な形での、自然の「保護」ではなく、自然を「管理」するということの行為の意味が大変重要になってきています。もちろん、人間のインパクトが大きすぎることによって多くの生物種も絶滅して行っていますことも考えなければいけませんので、伝統的な継続的な持続可能であった行為も、改めて生態系管理を科学的に検証しながら行っていくことは重要です。「予防原則」に基づき、継続的なモニタリングを行いつつフィードバックを掛けながら管理をしていく、「順応的管理」をしていくことが求められています。その際にも、伝統的な管理の仕方に学びつつ、人間の精神的なかかわり、文化の多様性に配慮していくことが求められています。さまざまな点からの「持続可能性」ということが必要になってきます。


「SATOYAMA(里山)イニシアティブ」と「遊び仕事」

具体的に「持続可能な方法」とはどんなものでしょう。

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 地球温暖化などの問題だけを考えていると、持続可能な社会を構築するためには生活のレベルを落とした我慢を強いられる生活をしなければならないように思ってしまうかもしれません。しかし、かつて日本の里山において、薪炭などのバイオマスの自然資源を持続的に利用してきたことは、炭素の循環的利用という形で炭酸ガスの放出削減に意味があることでしたし、遊びなどの精神的なかかわりも含めて自然の恵みを豊かに享受し精神的にも豊かに暮らすことと深い関係がありました。持続可能な社会を構築することは、自然との豊かな関係を永続的に続けていくためにいかに「豊かな」生活の仕方を創りあげていくのかということだと思います。それは、従来から存在した持続可能な形での自然とのかかわりあいに根ざした文化を再評価し、大事にし、現代に生かしていくことですし、経済的な視点に偏って捉えられてきた自然とのかかわりの精神的な視点を重視することです。それは人間が「生きる」ことや「豊かさ」というものを捉えなおすことであり、私たちがより豊かに生きるために持続可能な社会をどう構築していくべきなのかということなのです。

 第三次生物多様性国家戦略では、従来の持続可能な里山に典型的にあった、伝統的な智慧や伝統、自然資源の循環的な持続的な利用形態や社会システムを自然共生社会形成のために活用していくあり方を「SATOYAMAイニシアティブ」として世界に提案しようとしています。これは、それぞれの地域で育まれた地域独特の文化を大事にしていくための大きな問題提起になると思います。

 それぞれの地域で育まれた地域独自の文化を評価し、将来的につなげていくために、人間の営みの中でも、経済的な側面よりも精神的な側面が大きい営みにもっと注目していくべきだと思います。それは「遊び仕事」という種類の営みです。山菜やキノコを採ったり、伝統的な形でサケやアユを捕ったりする営みを民俗学や人類学ではマイナー・サブシステンスと呼んでいます。この営みは里山での精神的な自然とのかかわりを象徴的に示すものです。私は、「遊び」の要素も多いこの営みを、現代的な視点から評価するために、「遊び仕事」という翻訳語を造語して再定義して使っています。自然との精神的にも豊かな営みを取り戻すために、現代的な「遊び仕事」の復権が欠かせないと思います。

 このように、いま、人と自然とのかかわりのあり方を再構築していくことがますます求められており、21世紀の大きな課題になっています。このことは、実は、とりもなおさず、人間の生き方が問われていると言ってもいいと思います。だからこそ、「環境倫理」ということが、ますます重要だと考えられているのです。



著書
  • 『自然保護を問いなおす』筑摩書房、1996年5月。
  • 『環境の豊かさをもとめて一理念と運動』(『講座 人間と環境』第12巻)昭和堂、1999年5月。
  • 『生物多様性モニタリング』東京大学出版会、2007年。鷲谷いづみ十鬼頭秀一(編)等。


東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 鬼頭研究室

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