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若年性認知症で夫が別人のようになってしまったら…?『夫が私を忘れる日まで』著者インタビュー

  • 2024年2月28日
  • レタスクラブニュース


大切な人が別人になっても、その人を愛し続けることができますか?
『夫が私を忘れる日まで』は、そんな問いかけから始まります。病気によって、その人の中身がだんだん別人のように変わっていってしまう…。想像もできないし、自分には遠い世界の話だと感じてしまいますよね。でも実は、誰にでも起こりうることなのです。

それを身をもって経験したのが、著者・吉田いらこさん。「レタスクラブコミックエッセイ新人賞 powered by LINEマンガ インディーズ」の入賞作『家族を忘れた父との23年間』でも描いているように、ある日突然、お父様が脳の病気の後遺症によって、人が変わったようになってしまったのです。

本作『夫が私を忘れる日まで』は、そんな経験を基にしたセミフィクション。吉田さんは、どのような思いで描かれたのでしょうか?お話を聞きました。

45歳で、若年性認知症と診断された夫



45歳の夫・翔太、小学5年生の息子・陽翔と、なんてことのない「普通」の日常を送っていた主人公の彩。ある時から、穏やかで几帳面な性格の翔太が忘れっぽくなってしまったことを感じつつも、疲れのせいだ、気のせいだと、気にも掛けませんでした。


ところがある日、翔太と陽太の2人で映画を観に出かけたところ、なんと翔太は陽翔を置いて1人で家に帰ってきてしまいます。その出来事をきっかけに病院へ…。


そこで医師から伝えられたのは、「若年性認知症」という残酷な診断…。治療法は確立されておらず、症状が進むと時間や場所の感覚がなくなり、人の顔さえわからなくなる病だといいます。前向きに頑張ろうとする彩ですが、現実は…?



「逃げずに、現実に向き合えるようになりたい」という思いを込めて

――本作を描こうと思ったきっかけを教えてください。

吉田いらこさん:私はもともと、脳に障害を負った父親と家族のコミックエッセイをSNSに投稿していました。それを読んだ編集の方に、「若年性認知症をテーマにしたセミフィクションを描きませんか?」とお声がけいただき、挑戦することとなりました。



――前作の『家族を忘れた父との23年間』は、「レタスクラブコミックエッセイ新人賞 powered by LINEマンガ インディーズ」で入賞されました。それに続く本作は、セミフィクション。描くうえで意識されたことはありますか?

吉田いらこさん:賞に応募したコミックエッセイでは、何もせず現実から逃げてばかりいた当時の自分のことを、ありのままに描きました。今は、その行動に後悔しています。「次は現実にしっかり向き合えるようになりたい」という気持ちを込めて、本作を描かせていただきました。



誰にでも起こりうることである、というのを忘れないで



――本作の主人公・彩は、夫が若年性認知症になってしまいます。お父様が脳に障害を患った吉田さんとは、立場や病状など異なる点もあると思いますが、作品を描くために取材などはされましたか?

吉田いらこさん:この話は、若年性認知症になった人を「支える側の視点」に重きを置きました。そのため、実際に父を介護していた私の母親に、ひたすら話を聞きました。そこではじめて知ったのですが、父の病気が判明した当初、母は親から「別れて地元に帰ってきなさい」と言われたそうです。ですが母は、別れることを選ばなかった。「好きだから別れる気はなかった」という母の言葉を聞いて、どんな困難も乗り越える家族の姿を描きたいと思いました。



――登場人物の設定はどのように考えましたか? やはり、ご両親の人物像が反映されているのでしょうか。

吉田いらこさん:私の両親の人物像は特に投影していません。理由は、どこにでもいる善良で仲の良い夫婦にしたいと思ったからです。そんな夫婦の関係が、病気でどう変わっていくのかを描きたかったのです。



――病気や介護など、デリケートな問題に触れる本作。ストーリーを考えるうえで、心がけたことはありますか?

吉田いらこさん:読んだ人に、誰にでも起こりうることだと思ってもらえるよう「劇的に描かないこと」を意識しました。若年性認知症になったからといって、次の日から人生180度変わるわけではありません。実際は少しずつ少しずつ長い年月をかけて、生活や家族の形が変化していきます。その推移や登場人物たちの感情を、丁寧に描きたいと思いました。

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吉田さんがご自身のつらい経験と向き合いながらも、前向きな気持ちで取り組まれた本作。リアルな視点や感情の描写に、「もし自分が彩の立場になったら…」と、考えられずにはいられない作品です。

取材・文=松田支信

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