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いつ地震が起きてもおかしくない…防災専門家に聞く「防災食」の正しいストック方法

  • 2023年5月11日
  • レタスクラブニュース


「災害時に備えて食品を備蓄しなければ」と頭では分かっていても、「おいしそうな非常食セットが見つからない」「備蓄する場所がないからまとめ買いできない」「『ローリングストック』がいいと聞くけどどうやるの?」など、さまざまな理由で後回しにしていませんか? 非常食をわざわざ準備するのではなく、ふだん食べている食品がそのまま非常食になるとしたら、コスパもよく、すぐに始められそうですよね。そこで、日常と非常時を区別せずに備蓄する「ローリングストック」のやり方や適した食品を詳しく紹介します。

▶教えてくれた人
今泉マユ子さん


1969年徳島県徳島市生まれ、1男1女の母。管理栄養士として大手企業の社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食、SDGsに力を注ぐ。防災食アドバイザーとして全国で400以上講演を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などでも活躍。著書多数。

「非常食」とは言わない? 新しい防災への意識



「非常食」という言葉からイメージするのは、乾パンやアルファ化米のような「非常時に食べるもの」。食べ慣れていないものをいざという時に食べて「口に合わない……」となると、避難生活でのストレスはいっそう増します。このようなストレスを軽減させるためにも、「ふだんから食べているものを備蓄する大切さ」に注目が集まり、非常食とは言わずに、「防災食」「災害食」という言葉が使われるようになってきています。

■日常と非常を区別しない「フェーズフリー」という考え方
防災への考え方も変化し、今は日常と非常を区別しない「フェーズフリー」という考え方が主流になりつつあります。フェーズフリーは、ふだんから身のまわりにあるモノやサービスを非常時にも役立てるという考え方です。
「食品に関して言えば、災害時に食べる特別なものを備えるのではなく、ローリングストック(ながら備蓄)をすること。ローリングストックは、ふだん食べている食料品を多めに備蓄し、日常生活でも食べながら、食べた分は買い足して常に一定量の食料を備蓄するという方法です。災害時でも、食べ慣れているものや好きな味のものを食べることができるので、心の安らぎにつながります。乾パンやアルファ化米もふだんの食事で食べてみてください。そうすれば特別なものでなくなります。例えば、乾パンもマヨネーズやケチャップをつけると食べやすくなります」(今泉さん)

■主流となるのは在宅避難
「防災食と一口に言っても、避難所へ行く際の『非常持ち出し袋』用と、ライフラインの止まった家で過ごす際の『在宅避難』用では備えておくものが違います。非常持ち出し袋に入れるのは、開けてすぐに食べられるもの、手を汚さずに食べられるものが向いています。
非常持ち出し袋用と在宅避難用のどちらもそれぞれ備えておくべきですが、在宅避難用の備えは急なケガや体調不良の際にも役立つので、しっかり備えておいたほうがいいです」

特に都市部では、行政による在宅避難を推奨する動きが進んでいます。そこで、今回は「在宅避難」向けの防災食をメインに紹介します。「ローリングストック」は、まさに在宅避難向けです。

「ライフラインが止まった家は、キャンプのテントと同じだと思ってください。何もない不便な場所へキャンプに行く時は、⽔、⾷料、明かり、トイレなど、何が必要かを考えて準備をしてから⾏きますよね。同様に、そういった状態の家で過ごすことを具体的に想像して十分な準備をしていれば、在宅避難の際も食べ慣れているものや温かいものが食べられます」

防災食の基本を知ろう



■備蓄しておくべき防災食の量は?
農林水産省が推奨する災害対策では、食品備蓄は日常的に食べる量×3日分、飲料水用の⽔は1⽇あたり1⼈3リットル×3⽇分が最低限必要な量としています。ただ、できれば、食品も飲料水も1週間分は用意しておきたいところです。さらに感染症流行時の備えとしては、2週間分の食品を備蓄しておきましょう。

「非常時のみに使用するものを2週間分準備するというのはハードルが高いです。だからこそ、ローリングストックで備えるのがおすすめです。よく『今泉さんの家には何日分の備蓄があるのですか?』と聞かれますが、缶詰1個で1食分とカウントするのか、主食をセットにして1食分にするのか、などと人によって想像する『備蓄』は違うと思います。我が家はふだん食べているお餅やパスタなども防災時の食事になるので、日によって家にあるものは変わりますし、家じゅうの食べ物を数えるとかなりの量になると思います。また、食べる量は人それぞれ違いますから、備蓄するべき量もやはり個人差があります。政府が推奨している備蓄量はあくまでも目安として考えてみてください」

■防災食は「見える化」して管理を
災害はいつ起こるかわかりません。例えば、子どもだけで留守番をしている時に起こる可能性もあります。

「2011年3月11日、東日本大震災が起きた日、我が家では幼稚園の年長だった息子が卒園式を前に、初めてひとりで留守番をしていました。私は幸いにも発生後30分以内に家に戻ることができましたが、大人がすぐに帰れない状況を想定し、『どこに防災食があるのか』『どうやって調理して食べるのか』を家族みんなが知っておくことの大切さを痛感しました」

また、長期保存できるからとしまい込んでいたら賞味期限が切れていたというのもよくあること。こうしたリスクを抑えるために効果的なのが、3つのポイントで実践する防災食の“見える化”です。

1.賞味期限の見える化:3か月に一度は賞味期限のチェックをする
2.収納場所の見える化:どこにあるのか家族みんなが分かっているようにする
3.食べ方の見える化:調理の仕方を家族みんなが知っておく

■防災食を選ぶ際のポイント
おすすめの防災食は人それぞれ。自分や家族の生活にあった防災食を選ぶために重要な3つのポイントを紹介します。

1 選ぶべき防災食はそれぞれ個人で違う
「『何を買っておけばいいのでしょうか?』とよく聞かれますが、その答えに正解はありません。どれだけ備蓄に適した食材であっても、好みの味でなかったり、じょうずに調理できなかったりすれば、その人には適切な備蓄食材といえないからです。まずは、自分や家族の好みを確認しておくことが大切です。また、食事に配慮が必要な高齢者、乳幼児、妊産婦、食物アレルギーをお持ちの人は、それぞれに合ったものを用意しておきましょう」

2 常温保存できるものを選ぶ
「例えば、保存期間が長いものとして冷凍食品もいいと思いますが、停電した場合、冷凍庫にあるものから先に食べなければいけません。そういったことを考えると、缶詰、レトルト食品、フリーズドライ、ゼリータイプ飲料など常温で保存できるものがおすすめです。常温保存できる豆腐や牛乳もありますよ」

3 その時の体調によって選べるようにバリエーションを用意しておく
「今食べたいものと災害時に食べたいものは違います。災害時にはエネルギーになるようなガッツリしたものがいいというイメージがありますが、普段と違う状況下でのストレスがあるのでやさしい味のものが食べたくなることも多いです。例えば、缶詰やレトルト食品もさまざまな種類をそろえておけば、その中から食べたいものを選ぶことができるので気分が少し上がると思いますよ」

ローリングストックにおすすめの防災食

スーパーで買えるものも多く、いつもの買い物の際に「いざという時に使えるかもしれない」と、視点を変えて商品棚を見てみるといいでしょう。気を付けたいのが、張り切ってまとめ買いすると賞味期限切れが同時にきてしまうこと。日々の買い物のついでに1つ買うことを習慣化するのがおすすめです。そしてしまい込まずに食べてみてください。

■ローリングストックに適した食材は?
災害時も健康でいるために栄養バランスは大切。エネルギー源となる米やパン、体の成長に必要なタンパク源となる肉や魚類、体の調子を整えてくれるビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な野菜、果物、海藻類などをバランスよく食べるのが理想です。

「災害時において物流が止まると野菜は手に入りにくくなります。自分で備蓄しておかなければ野菜は食べられないと思ってください。さらに断水状態では、根菜類の調理は難しいです。ローリングストックに適しているのは、切り干し大根などの乾燥野菜やドライフルーツ。また、野菜ジュース、トマトジュース、フルーツジュース、野菜入りレトルトスープなどもいいでしょう。
その他、ふだんから使っているふりかけや乾燥わかめも非常時に活躍してくれます。缶詰やパウチの大豆、ミックスビーンズ、ひじき、コーンのドライパックのように、開けてすぐ食べられるものをストックすることをおすすめしています」

<ローリングストック向きの食品>
●主食になるもの:米、パックごはん、乾麺(パスタなど)、餅、シリアル、レトルトおかゆ、フリーズドライ(パスタ、リゾットなど)、アルファ化米、粉もの(ホットケーキミックス、お好み焼き粉など)

●おかずになるもの【そのまま食べられるもの編】:缶詰(ツナ缶、焼き鳥缶、サバ缶、コンビーフ、コーン、大豆やひじきのドライパックなど)、レトルト食品(カレー、パスタソース、スープ、中華丼の具、惣菜など)、瓶詰(ピクルス、鮭フレーク、佃煮など)

●おかずになるもの【水や湯を使うもの編】:フリーズドライ(スープ、味噌汁など)、乾物(高野豆腐、麩、切り干し大根、乾物野菜、乾燥わかめ、乾燥しじみなど)

●おやつになるもの:ゆであずき缶、フルーツ缶、ドライフルーツ、ナッツ類、飴、羊羹など

●飲み物(水分)になるもの:水、野菜ジュース、スポーツ飲料、経口補水液、お茶、コーヒー、ゼリー飲料


ローリングストックに!例えばどんなものを用意しておけば?


■お米やパン、麺など主食になるもの

◆「アキモトのパンのかんづめ (乳酸菌入り) 」(パン・アキモト)/賞味期限5年


「パンの缶詰の先駆者。和紙を使い湿気を調整して、缶詰でもふわふわ食感を実現。甘い香りが広がり、ほっとできるやさしい味です。我が家では普段から朝食で食べ、ローリングストックしています。オレンジ味のほかストロベリー味、ブルーベリー味もあります」

◆「吉野家 缶飯 (玄米入り) 4種6缶セット」(吉野家)/賞味期限3年


「人気牛丼店の丼が開けてすぐ食べられます。玄米なのでプチプチしていますが、白米より栄養価が高いです。牛丼3缶、豚丼、焼鶏丼、焼塩さば各1缶のセット。個人的にお気に入りは焼塩さばと豚丼です」

■普段の食事にも使えるストック食品
◆そのままでもサラダにも!「はごろも シーチキンSmile Lフレーク」(はごろもフーズ)/賞味期限2年1か月


「おすすめはやはりシーチキン。良質なタンパク質源となり老若男女問わず好まれます。そのままでもアレンジしてもOKで自由自在。パウチでごみも少なくすみ、切り口が2か所あるので開けやすいです。和風、コーン入りなど種類が豊富なので、ふだんから食べて好みの味を探しておくと良いと思います」

◆クオリティの高さに驚き「おいしい缶詰 国産焼き鯖の香味野菜マリネ」(明治屋)/賞味期限3年


「焼き鯖なので身がしっかりしています。甘酢のマリネに食欲をそそられ、にんじんと玉ねぎが入っているのもいいですね」

■災害時も日常も心癒される、おすすめのお菓子
◆食べ慣れた味にほっとする「ビスコ保存缶 30枚」(江崎グリコ)/賞味期限5年


「よく知っている味は災害時にとても安心。クリームが入っているため、のども通りやすく、個包装なので食べきりでき、1袋食べて100キロカロリー。5年間保存可能です。乳酸菌が入っているのでお通じにもよいです。蓋付きなので空き容器は小物入れなどにも使えます」

◆手軽に糖分&エネルギー補給!「チョコえいようかん」(井村屋)/賞味期限5年6か月


「1本食べるだけで手軽に197kcalのエネルギーが補給できます。アレルギー物質不使用、1箱5本入り。まるで生チョコのような味と食感でお気に入りです。手を汚さずに栄養補給でき、コンパクトなので鞄の中に入れて持ち歩いています」

家族で具体的に想像し準備を!

非常時は、どうしてもストレスが溜まります。ストレスをゼロにすることはできないにしても、適切な準備をしておけば、災害の際あわてずに対処することができます。

「非常時用の備蓄食材は“備える”ことに目が行きがちですが、“じょうずに食べること”がとても大事です。食べるところまで想像して、『調理に必要なものは何か』『お皿やお箸はどうするのか』など考えて備える必要があります。じょうずに食べるために私がおすすめしているのは、停電や断水した場面を想定した状況での食事を体験することです。懐中電灯のもとで調理するのはどれほど大変か、食べた後のゴミ処理はどうするかなど、体験することで具体的に見えてくるので、どんなものをストックしておくべきか考えることができます。
また、『毎月、給料日前の1週間は備蓄食材だけで過ごす』など定期的に行うのもいいでしょう。備蓄品を食べる機会を作り、消費することも意識して、賞味期限が切れる前に召し上がってください。災害はいつ起こるか分かりませんから、工夫して備えることを続けてほしいと思います」

普段から食べている食品がもしもの時の備えにもなるローリングストック。おすすめの商品はスーパーで買えるものも多いので、早速ローリングストックを始めてみてはいかがでしょうか。


取材・文=嶋崎千秋

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