サイト内
ウェブ

Vol.136 自分にとっての大切なものがはっきりすることで見えてくるもの 

  • 2013年12月5日

 みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

 前回は、“ソーラー女子”こと藤井智佳子さんが電力会社との契約を解除して電力自給生活を楽しんでいるようすをご紹介したわけですが、彼女のお話を聞いていてすごく共感したことのひとつは、どうして彼女がこういう生活を続けているかというその理由です。

 「元々、こんな暮らしがしたかったんだろうなと思うんです。電気の契約を切ったおかげで、それが余計はっきりしたというか。田舎暮らしに憧れてたみたいですから」

 そう言って、藤井さんは笑っていました。この連載で僕は再三書いてきましたが、人が何かを続けたり一生懸命取り組んだりするいちばん強い動機は「自分がそうしたいから」ということだと僕は思っています。それに「自分がやりたいから、やっている」という人は、それがうまくいかなかったり何かアクシデントに見舞われたときにも、決して人のせいにしたりしません。藤井さんの暮らしからも感じられるある種の潔さは、「やりたいからやっている」人ならではのものだと思います。まあ、藤井さんの暮らしや考えに僕がすごく共感するのは、僕も要するにいま藤井さんがやっているような暮らしがしたいと心のいちばん根っこの部分で思っているからなんでしょうね。

 ただ、それだからこそひとつ気になることがあって質問してみました。「電力会社の有り様や社会の仕組みがいまとは様変わりして、すごく納得できる状況になったら、また電力会社と契約して以前のような生活をしますか?」


炭アイロン
 「どうかなあ…。電気でアイロンが使えるというのにはちょっとグラッと来ますね(笑)。いま使っている炭アイロンもすごく気に入ってるんですけど。冷蔵庫はなくてもいいかなあ。ここは農家さんもけっこう多くて、農家の直売所は安いし、新鮮だし。でも、アイロンは…。それが日本だけでなく、どこかの国に何かの歪みを生み出さないようなことであれば、アイロンくらいはいいかなって思うかもしれないですね。エアコンは元々好きじゃないから要らないです」

 藤井さんにとっては、仕事で使うアイロンというのは、僕らが考える以上にとても重要なアイテムであるようですね。そういう、大切なものの序列って人それぞれで、だからこそその人それぞれの幸せの有り様とすごくつながっていると思うんです。でも、いま普通に暮らしていると、そういう大切なものの個人的な序列というものを意識する、あるいは考えるということがないですよね。というか、考える必要がないように、お仕着せの価値観の中に居場所を見つけて満足させられているというのが本当のところだと思います。そういう社会にあって、実際の暮らしのなかで暮らし方を工夫しながらその序列をしっかり実感するようになった藤井さんの話にはすごく説得力がありますよね。つまり、藤井さんの“電力自給生活”は、エネルギー問題に対するひとつの問いかけであると同時に、“暮らしの気持ちいい”度を高める暮らしへの試みでもあると思います。当たり前になっているから突き詰めて考えないようなことを一度突き詰めて考えてみることで、自分が本当に望んでいること、あるいは逆にじつは自分にとって必要ではないことをみつけだす。本当に望んでいることがわかれば、それを大切にすればいいし、必要がないとわかれば、それはさっさと自分の暮らしから取り除いてしまえばいいんですから。

 それにしても、藤井さんのお話を聞いていてあらためて思ったのは、藤井さんのように自分の暮らしについていろいろと工夫してイノベイティブな方向に突き進んでいきたい人にはすごく楽しい時代なのかもしれないなということです。だって、そういう方向に進むためのものがまだ全然整っていないから。僕もそういう状況にはけっこう燃える性質なので(笑)、なんとか来年の春までくらいには何か具体的な形になるように取り組みを進めたいですね。本当に、刺激されてしまいました。藤井さん、本当にありがとうございました。そして、ますますいろんな人に会いに行きたいと思いを強くした北山でした。


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。