みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。
今回は、日本を代表する商社のひとつである丸紅に行ってきました。そんな大商社に行って何をするんだ?といぶかしく思う方がほとんどだと思いますが、じつは丸紅は10年以上前から小水力発電事業に取り組んでいて、水力発電所の運営も手がけたりしているのです。で、僕が以前から小水力発電に強い興味を抱いていることは、この連載を読んでくださっているみなさんならよくご存知だと思います。だから、小水力発電に関する様々な知見が蓄積されているに違いない丸紅に出かけていって、小水力発電の可能性や課題について聞いてみようと考えたわけです。で、結論から言えば、非常に有意義な取材になりました。というか、小水力発電というものが持っているポテンシャルや問題点といったことについてびっくりするようなことはそれほどなかったんですが、この連載をやりながら積み上げてきた考えとほとんど変わらない視点で小水力発電というものを考えていらっしゃるように感じられて、それがすごくうれしかったです。
というわけで、今回はこの連載でも初の試みですが、対応してくださった丸紅・国内電力プロジェクト部の大西英一さんのお話をガツンと(笑)フィーチャーしてみたいと思います。
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<<以下、大西英一さんのお話>>
エネルギーの自給自足ということで言えば、小水力発電というのは、いちばん自給自足というか、地産地消のモデルとしていちばんわかりやすい形だと思ってるんです。その話のいちばんわかりやすい事例として蓼科の発電所というのがあります。そもそもは、地元の農業をやってる人たちが昭和29年に大正時代の発電機、つまり中古品を導入して始めたんですけど、老朽化してメンテナンスに手間もかかるし人手もさかないといけないから続けるのは難しいなということになり、いったん発電を止めてたんです。それで、その発電機はスクラップにされることになったんですが、たまたま知り合いのスクラップ業者さんのところにその話が来て、「それはもったいないから大西さんのところだったらどうにかできるんじゃないの?」ということで相談を受けました。それをいろいろ検討した結果、その発電所を弊社で買わせていただいて、新しい発電機を入れて復活させました。
蓼科取水口:小斉川よりこの取水口で取水して、蓼科発電所の発電に使用しています。 蓼科というのは長野県のなかでも有数の別荘地ですが、そのど真ん中に小屋みたいなこの発電所はあって、すぐ後ろには旅館が並んでいます。で、その発電所で発電した電気がそのまま旅館に流れているわけです。その発電に使ってる水は地元の水ですから、文字通りの地産地消ですよね。書類上は、丸紅がその電気を買い取って、それを契約したお客さんに送っていることになってるわけですが。で、発電に使った水も、そのまま下流の田んぼに流れていって、稲作に使われる、という。発電に使う前も使った後も、水量はまったく変わらないし、もちろん何も汚れるようなことはないというわけです。
「小水力発電はエネルギーの地産地消のいいモデル」とわたしが考えるのは、小水力発電所は俺たちの町の、俺たちの川の発電所だということを認識しやすいからです。この蓼科の発電所についても、地元の人たちから「おじいちゃんたちが発電所を始めるときの苦労をよく聞かされました」とか「子ども時代にここで遊びました」といった話をたくさん聞きました。つまり、発電所であると同時に、そういうふうに地域コミュニティのつながりも生み出す機能があるんですよね。
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正直に言って、丸紅の商社マンとして最前線で活躍されている人から、こんな視点からの話を聞けるとは思っていませんでした。で、僕がうれしいのは、ただ自分の考えが肯定されたからというわけではなくて、採算性や国の法規制と格闘しながら現場で実績を積み上げていらっしゃった方が僕と同じような考えを持っていたことがすごくうれしかったんです。
というわけで、次回も今回の取材で聞かせていただいた話の続きをご紹介します。