サイト内
ウェブ

Vol.109 “それでも、やるんだよ”という気持ちをこめて

  • 2012年11月1日

 みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

 11月7日にゴスペラーズの新しいアルバム『STEP FOR FIVE』がリリースされます。この連載では、僕の本業の宣伝になるようなことはほとんど書いてきませんでしたし、今回も僕自身は取り上げる予定ではなかったのですが、連載スタッフから「このアルバムは、震災から1年半余りが過ぎたこの国に暮らしている自分をふと意識するような部分がある」という感想をもらいました。特に、僕がリード・ボーカルを担当した「astro note」という曲と「BRIDGE」という曲のコントラストが現在と未来を考えるきっかけになるという話だったので、その感想を受けての僕の感想と、僕が「astro note」という曲に込めた思いについて書いてみようと思います。

 ただ、その前に「BRIDGE」、およびアルバム全体についても少し書いておきましょう。「BRIDGE」は、Vol.82でも書いた通り、メンバー5人が被災地で目の当たりにした光景がモチーフになっている曲です。シングルは期間限定という形でのリリースでしたが、今回あらためてアルバムに収録されたことにより、この曲の収益の一部はチャリティに生かされるようになっています。それから、連載スタッフがあげてくれた2曲以外にも、僕らメンバーも含め、これからどうやって生きていこうかということに関するメッセージがこのアルバムには入っていると思うんです。それに、もし震災がなかったら、ゴスペラーズがあんなにポジティブな曲をたて続けにシングルとしてリリースすることはなかったかもしれないとも思うんです。例えば、悲しい恋の歌とか、そういうタイプの曲を出していたかもしれない。でも、スタッフも含め、いまゴスペラーズに歌ってほしい曲はどういう曲だろうということを考えたときに、そういう曲がシングルになっていったわけで、僕が今回のアルバムに自分のソロライブでやっていた曲のなかから「astro note」という曲を選んだのも、同じような意識がはたらいた部分があると思います。あの曲自体は、震災の前に作った曲ですから、震災に対するメッセージ云々ということとはそもそもは関係ないんですが。

 それでも、連載スタッフの話を聞いて思ったのですが、この曲に僕に込めた気持ちというのはこの曲を作った当時よりも今のほうが求められているというか、共感してもらえる素地は広がっているかもしれませんね。

“それでも、やるんだよ”という気持ちをこめて  僕は思うんですけど、人間が持っている才能のなかで最も大切なのは、好きであり続けること、やりたいことをやろうとするモチベーションをキープし続けることなんじゃないでしょうか。「astro note」の内容に則して言えば、宇宙飛行士というのは、宇宙からいろんなものをいっぱい受け取り続けて、どうしてもあそこに行きたいと思っている人のなかで、実際に宇宙に行ける人は何万分の1、もしかしたら何千万分の1しかいないような職業であって、しかもなりたいと思い続けるだけじゃ駄目で、厳しい訓練を受け、第三者に客観的に認められて初めてなれるかどうか決まるっていう。その目標に向かって自分を強くプッシュし続け、しかしその過程で自分の能力が増していけばいくほど、その困難さがいっそう明確に感じられるようになるっていう、非常に厳しい道のりであるわけですが、それをわかった上で、“それでもやるんだよ”と思えるかどうか。そこが大事だと僕は思うんですが、その“それでもやるんだよ”という気持ちをいう気持ちが歌えたらいいなというのが、「astro note」を歌うときに僕がいつも思うことなんです。

 僕は、そもそも欲張りでいろんなことをやりたくなって、それで実際にやっていっぱいいっぱいになるっていう(笑)、そういうタイプの人間だったんですけど、震災があって、やっぱり自分がやりたいこと、やるべきこと、をあらためて自分に問いますよね。この時代に生きているということを、震災以前と比べれば、圧倒的に考えるようになりましたから。この時代に生きていて、この年齢で、これくらいの経済状況にあって、という今の自分の有り様をどういうふうに意味付けていくのかということがすごく大事だなと思っているんですね。で、そういう意味で自分がやりたいことを考えたときに、その達成はかなり遠いんですよ。でも、“それでも、やるんだよ”っていう。

 そして、この国のいろんなところでいろんな状況にあるいろんな人たちの“それでも、やるんだよ”という気持ちと、この曲が共振してくれることがあればいいなと思っています。


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。