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Vol.88 立川志らく、笠碁、落語百選

  • 2015年7月23日

 前回の伝統工芸の話題に続き、今回は伝統芸能の話をひとつ。僕の最近の楽しみは「落語」です。7月の上旬は、先月までのプロモーション活動が一段落したこともあり、ゆっくりと過ごしていました。友人と会ったり、映画を見たり、家の用事をいろいろと済ませたり。そんななかで、落語の本を読んだり、寄席に出かけたりもしていました。

 東京・下北沢にある北沢タウンホールで行われたのは、「この落語家を聴け!」というシリーズで、この日の出演は立川志らく師匠。落語家生活30周年を迎え、故・立川談志師匠にもっとも近い落語家と言われています。たくさんの著書があり、映画の監督もこなし、さらには「下町ダニーローズ」という劇団の主宰もするなど、つねに精力的に活動しています。

この落語家を聴け!立川志らく

 この日、志らく師匠が取り上げた噺のひとつは「笠碁」。ここでそのあらすじを、かいつまんで紹介したいと思います。

 碁を打つことが何よりも好きなふたりがいます。碁の最中に「待った」ばかりしていては上達しない、とある人に言われたので、今日は「待った」なしでいこうとひとりが提案します。しかし言った本人が「こりゃぁまずい、、、この石ひとつ、どけてくれませんか」「だめですよ、待ったなしと言ったじゃありませんか」「以前お金を貸したときに、返すお金が滞っても、待ったなしと言いましたか」「それとこれは話が別、だったら一からやり直しましょ」「冗談じゃぁない、帰っとくれ」「ああ、帰(けえ)らい、このわからずや。へぼ!」「へぼとはなんだ、二度と来るなよ!」

 いい年した大人が大げんか。その後、雨が二、三日降り続きます。そうするとやっぱり、ふたりとも碁が打ちたくなってくる。このまえ帰ったひとりが、笠をかぶってやってきます。しかし入りづらそうにして、家の前を行ったり来たり。家の主人が声をかけます。「やい、へぼ!」「へぼたぁなんだ」「じゃぁどっちがへぼか、一番くるか」というわけで碁を打つふたり。すると盤の上にしずくがポタリ、ポタリ。「こりゃ困った、雨漏りかな。あ、お前さん、笠かぶりっぱなしだ」。

 最後のオチのことを、落語では「サゲ」と言います。志らく師匠は、ふたりが仲直りする瞬間に、肩を大げさに抱き合う身振りをしたり、いくつも自分流にアレンジ。ところどころで爆笑をさらっていました。ちょうど梅雨のまんなかで雨続きだったので、この演目を選んだのかなぁという気もしました。もうひとつの噺は、志らく師匠お得意の人情話を、長くじっくり聴かせる「柳田格之進」。こちらも「碁」がテーマでした。

麻生芳伸・著「落語百選」

 落語を聴くだけではなく、読んで楽しむのもオツなもの。僕のお気に入りは、麻生芳伸・著「落語百選」。春夏秋冬と4冊あって、落語が読みたい気分になると、そのときの季節の本を取り出して鞄に入れて、電車などでよく読んでいます。季節ものの定番としては、春の「長屋の花見」、夏の「青菜」、秋の「目黒のさんま」、冬の「うどんや(かぜうどん)」といったところでしょうか。読んでから、噺家さんの崩し方を確かめにいく、という楽しみ方もアリなんじゃないかなぁと思います。

 ところで落語をとりあげたテレビドラマで、宮藤官九郎・脚本の「タイガー&ドラゴン」が2005年に放送されていました。それを僕は遅ればせながらようやく最近、全編見るチャンスがありました。取り上げていたのは、「芝浜」「饅頭こわい」「茶の湯」「権助提灯」「厩火事」「明烏」「猫の皿」「出来心」「粗忽長屋」「品川心中」「子は鎹(かすがい)」。どれもとても面白かったです。

 そしてVol.32でもかつて紹介しましたが、落語をモチーフにした映画「らくごえいが」も忘れてはいけません。僕がサウンドトラックを担当し、CDもリリースしました。ちなみに、ここで取り上げている話は「ねずみ」「死神」「猿後家」。

 今回紹介した20ほどの噺は、ほとんどが定番中の定番。そこを入口に、落語に親しんでみてはいかがでしょう。小さな悩みも「ばかばかしい、こっちにはもっと間抜けもいるぜ」と笑い飛ばしてくれます。そして「江戸の風」が吹き込んできた気がしたら、もうこっちのものです。




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