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Vol.54 大貫妙子さん「私の暮らしかた」

  • 2014年3月6日

 僕の尊敬するミュージシャンのひとりに大貫妙子さんがいます。1973年に山下達郎さんと共にシュガー・ベイブを結成。その後ソロになり、多くのアルバムを発表してきました。初期も近年の作品も、コード進行や楽器構成に独特のこだわりがあるところや、映画音楽にもたずさわっているところなど、音楽家としてシンパシーを感じることが多いです。

私の暮らしかた そんな大貫妙子さんの本「私の暮らしかた」が昨年の秋に発売されました。これは季刊誌「考える人」で連載していたエッセイをまとめたものなのですが、僕は「考える人」もたまに購入して読んでいたので、本も楽しみにしていました。

 長かった東京での暮らしをやめて、ご両親が暮らす神奈川県葉山市へ引っ越すところから、本は始まります。そこでは大貫さん自身がよく家族全員のご飯を作ること、そしてその「食」へのこだわりが多く出てきます。農家さんに田んぼの敷地を借りて、自ら有機農法の米作りを田植えから収穫まで行い、大きな釜で炊いてゆっくりといただく話などは、読んでいるだけで自分もその食卓にいるような心地に。

 タイトルの通り、ミュージシャンという肩書きを忘れさせるくらい、リアルに普段の生活のことを描写されていて、親近感が持てます。通い猫「みいちゃん」「ぎんちゃん」のシーンも面白く、その猫達のしたたかな生き方やドラマに驚かされました。そして高齢であったご両親が体調を崩され、同じ時期に亡くなられてしまうこと、その後北海道にひとり移住し、東京での仕事との往復を繰り返すことについても書かれています。坂本龍一さんとのツアーでの裏話も読み応えがありましたね。

皮むき間伐 そのなかで「東北の森へ」というエッセイが出てきます。これは震災から間もない2011年の5月に宮城県の栗駒山で行われた「皮むき間伐ツアー」のことについてのエッセイなのですが、このツアーには僕も参加していました。環境活動家の田中優さんの呼びかけで行われたもので、さまざまな職業の人が一緒になって、2泊3日の旅を過ごしました。

 「皮むき間伐」とは、杉の表皮を剥いて水分を蒸発させ、立ったまま枯らすことで間引きしていく方法を指します。こうやって水分を抜くことで間伐における運搬の手間やコストが軽減し、また枝葉を落とすことで森に陽の光が多く入り、残った木の成長を豊かにすることにも繋がります。

 実際には、まずノコギリで木の根元を薄く切り、竹べらをめり込ませて皮を少しめくり、そのあとはさらに両手で一気にメリメリ〜と、上までめくります。5メートルくらいの高さまで剥いていくので、鞭を打つようにうまく皮をしならせたりといろいろ工夫しなければならず、かなりのコツが要ります。僕の2011年5月のブログでは、たくさんの写真とともにそのツアーのことを報告しているので、ぜひ読んでみてください。

私の暮らしかた そしてこのたび市民映像グループGreenDropさんから、「森と暮らす」というDVDが完成したという報告を受けました。ここでは田中優さんや一般社団法人「天然住宅」代表の相根昭典さんのお話のほか、「皮むき間伐ツアー」の作業の様子も出てきます。僕も少しだけ登場して「皮を剥くと、木の幹からすごく冷気が伝わってくるのがビックリした」とコメントしているのですが、全身汗だくなうえに、ヘルメット&メガネ姿だったので、自分でもはじめ誰だか分からなかったです(笑)。ツアーの最終日に工場におじゃました「栗駒木材」代表の大場さんのお話も、とても興味深いです。

 この「皮むき間伐ツアー」で、僕は憧れの大貫さんと初めてゆっくりお話しすることが出来ました。音楽のお話、田んぼのお話、、、なかでも間伐に向かう森の道を並んで歩けたのが一番印象に残っているのですが、いちファンとしての思い出なので恥ずかしい限りです。その後も都内でのイベントでご一緒する機会もありましたが、繊細で透き通る歌声とは打って変わって、トークでまわりの人たちを巻き込む豪快な一面もあり、こういった国内外のエコツアーにも一般の方に混ざって積極的に参加したりと、そのフットワークの軽さにも本当に頭が下がります。

 曲を作ること、歌うこと、食べること、暮らすこと、どんなことでもひとつひとつ大切に自分で選び取っていく「私の暮らしかた」。皆さんにオススメの1冊です。ぜひ読んでみてください。




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