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Vol.51 「きこえる・シンポジウム×かねあいキッチン 2013 冬 in 砂川」 レポート その1

  • 2014年1月23日

 半年に1度の恒例「きこえる・シンポジウム」、通算19回目となる2013年の冬は、北海道砂川市にある「地域交流センターゆう」で行いました。しかも今回は、北海道で音楽活動を行う「かねあい」が企画する食のイベント「かねあいキッチン」とのコラボ企画です。また、砂川市のNPO法人「ゆう」の募集するアートプロデュース・トライアル事業公演として、地元の方々にたくさんのご協力をいただきました。

 今まではカフェやライブスペースでの開催が多かったのですが、ここまで大きな施設での開催は初めてです。大ホールでのライブ&トーク、小ホールでのアレクサンダーテクニーク・ワークショップに加え、ロビーでは地元ミュージシャンの方々のライブや、地元の食材が集まるマルシェが展開されました。そのなかでも今回は「きこえる・シンポジウム」恒例のトークについてお届けしようと思います。「かねあい」の“あい”さんに主な進行をお願いし、3名のゲストをお迎えして、いつもより短めの20分ほどのミニトークを行いました。

かねあい・あい:それでは、それぞれ自己紹介をお願いします。

本田さん:砂川市の「ほんだ菓子司」というリンゴを中心としたお菓子屋さんにおります、本田と申します。「すながわスイートロード」にも参加しています。

奥山さん:同じく砂川の「奥山農園」で農業をやっている奥山です。水稲で「ゆめぴりか」というお米を中心に、砂川の主産のトマトの他、キュウリ、家庭菜園の苗や園芸の花など、春から秋までいろいろと収穫や販売が出来るようにしながら続けております。

内海(うつみ)さん:砂川で「風露(ふうろ)」というレストランをやっております。スイートロードの後に「すながわカントリーロード」というものを立ち上げた本人ということで、呼んでいただいたのではないかと思います。よろしくお願いします。


左から Quinka、HARCO、本田さん(ほんだ菓子司)、奥山さん(奥山農園)、内海さん(風露)、かねあい“かね”さん、かねあい“あい”さん
(写真提供:新居幸洋さん)

かねあい・かね:私たちは石狩市に住みながら夫婦で音楽を続けている「かねあい」です。今日はありがとうございます。

かねあい・あい:短い時間なんですが、砂川の「食」についてお話を伺いたいと思います。砂川には有名な「すながわスイートロード」というお菓子屋さんが何軒も並んでいる通りがあるんですが、どのようなものなのでしょうか。

本田さん:今は7社、砂川にお菓子屋さんがありまして、おもに国道12号線沿いに面しています。もともとはこのあたりは産炭地だったようなんですね。そこで炭鉱で働いている人たちに甘いものを届ける、というところから始まったようです。人口1万8千人の町で、これだけのお菓子屋さんがあるのは全国的に見ても稀なようで、幅広く展開する大きなお菓子屋さんもありますし、(1店舗でも)自分たちで一生けんめい商品を作っている業者さんもいます。スイートロードの「スイート」は、人に優しい・誰かに喜んでもらいたい、という意味もあるそうで、お菓子と一緒に真心もお届けする意味があるんじゃないかなと思っています。

かねあい・あい:奥山さんと内海さんは、「カントリーロード」という名前のもとにお互い関わっていらっしゃるそうですが。

内海さん:話が始まったのはまだ2年くらい前ですが、砂川にはいわゆる切り花を売るお店とは違って、花を植えて育て生産している花屋さんが4、5軒あります。近くの市にはここまでたくさんのお店はありません。ひとつの山をラベンダー畑にしているような場所もあります。他にはリンゴや様々な野菜を作っている農家さんが、旭川から砂川にかけてたくさんおります。いっそのこと「花と野菜と果実の道」という形で、点でやっていたところを線で結んでみたらどうだろうかということで、カントリーロードというものを作りました。

奥山さん:うちもカントリーロードには入っています。砂川の農業というのは、米から始まり、野菜、果樹、花から酪農までなんでも揃うくらい、実に多種多様なんですね。
 そんななかで農協さんを中心にして、北海道の表示制度のひとつ「YES! clean」という技術を使って栽培をしています。化学肥料や農薬を3割ほど減らし、安心で安全なものを食べる皆さんに提供していこうということで、だいたい10年くらい前から取り組み続けていています。北海道だけでなく本州の方にも出荷し、安定した価格のなかで販売しています。キュウリは北海道ではなかなか作る人が少なくて、なるべく地元のものでということで、学校給食会を通じて札幌の小中学校の子供さんたちの給食に出して、食べていただいています。

かねあい・あい:有名な「有機JAS」と並ぶ、環境にもやさしい農産物の認証制度ですね。

奥山さん:農薬を減らすとどうしても虫が付きやすく、その中にはおもにアブラムシやハダニがいます。自分の目で見てそういった虫が増えてくる前に、天敵で、作物には害を与えない虫を畑に入れていって、アブラムシやハダニの数を減らします。ほかには生物農薬といって、うちでは納豆菌が原料なんですが、そういうものをかけて他の菌が入って来ないようにしながら、病気を跳ね返しています。殺虫剤をほとんど撒かないですから、ハウス栽培をしていると、蜘蛛の巣が多いんですね。

Quinka:もしかすると、今度は蜘蛛が害虫を食べてくれるとか?

奥山さん:そうなんです。巣を張る大きい蜘蛛もいるし、地べたを這う小さな蜘蛛もいますが、どちらもそういった相乗効果を出してくれますね。

かねあい・かね:農薬を撒くよりもかなりの手間がかかるということはありませんか?

奥山さん:どちらかというと農薬をかけることに比べればむしろ楽なんですが、虫が増えてくるときのタイミングの見極めが、いちばん難しいです。害虫が増えすぎてしまうと効果がないので、常に先回りしていかないといけないんです。

Quinka:そうなんですね。そうやって安心で安全な食材など、地元の農産物を使ってスイーツを作っているお菓子屋さんも、たくさんあるということですか。

本田さん:砂川では、夏のあいだは非常においしいブルーベリーが取れるんですが、うちでは三谷農園さんというところと繋がりがありまして、旬の時期にたくさんブルーベリーのお菓子を作っています。しかも先日、地元で「アグリラボ」というものが発足したこともあり、お菓子屋さんと果樹農家さんが協力をして、砂川の果樹をもっと盛り上げて行きましょう、ということで、その第1弾としてブルーベリーを使ったお菓子を各社作っています。

かねあい・かね:三谷農園さんもカントリーロードに加盟されてますよね。

Quinka:みんな繋がっているんですね〜。


(写真提供:新居幸洋さん)

内海さん:うちのお店はイタリアンレストランなのですが、旬の時期はなるべく砂川の野菜を使うようにしています。「旬」といえば、さきほど楽屋で奥山さんとトマトについて話をしていたんですが、普段、市場に入るときはトマトはまだ真っ青なんですよ。ちょっとお尻が赤くなったかならないか、という状態にしておくと、それがスーパーに並んだ頃には真っ赤になって出てくるんです。でも我々は、農園ですでに真っ赤になっているトマトを手に入れます。すると、味がやっぱり違います。そこで、イチゴ狩りやブリーベリー狩りというのがあるように「トマト狩り」も出来ないか、という話になりました。そうすれば皆さんにも、トマトというものがいかにおいしいものか、というのが分かっていただけるかなと思います。やっぱり一番おいしい時期に食べてもらいたいというのも、農家さんの本音だと思います。

文章さん:それにはやっぱり、ここ砂川に実際に来ることに意味がありますよね。ブルーベリー、リンゴ、トマト、他にもなんでもあるだけに、それそれの旬の時期にここに来て食べてもらえたらいいのかなって。

かねあい・かね:砂川のトマト、、、本当にすっごくおいしいんですよ!

HARCO:トマトのなかで桃太郎というのが一番有名な品種ですよね、今やトマトの代名詞と言ってもいいくらい。

内海さん:でも砂川で注文すると「その桃太郎だけで十何種類もあるんですけど、どれですか」って逆に聞かれちゃいますね(笑)。今、トマトだけで何種類作ってますか?

奥山さん:大きいトマトは3種類くらいかな。それ以外に試験的に作っているのが5品種、ミニトマトは個人的に興味もあって13種類くらい作ってます。それぞれ味が違ったり見た目も違ったり。有名なのは「アイコ」ですが、ほかには「キャンドルライト」とか、変わった名前が多いです。

かねあい・あい:ぜひ、トマトが旬の夏にも来て欲しいです。ところでスイートロードの方の話をもう少しすると、ここに来るにあたって「アップルパイ巡り」をしてきたというお客さんもいたくらい、おいしいアップルパイを作っているお店も多いですが、本田さんのところはどんな作り方をされているんですか?

本田さん:あまり何も加えたくないというのがあって。通常はシナモンを入れたりするんですけど、うちは入れないし、アプリコットのジャムも表面に塗りたくない。本当に、パイとおいしいリンゴの食感と香り、それを楽しんでもらいたいです。

文章さん:僕は実は、普段アップルパイが苦手でそんなに食べないんですけど、本田さんのお店のものを食べたとき、おいしくてびっくりしました。

かねあい・かね:果敢に攻めにまわっているアップルパイだと思いました(笑)。シンプルイズベストという。

Quinka:リンゴはやっぱり砂川産ですか?

本田さん:実はうちのアップルパイのリンゴは違うんです。たくさん作るので、砂川産のものだけでは数が少なすぎるのと、お菓子に向く品種がないんです。それと生のままでは使えないので一時加工ということをするんですけど、その技術が北海道では出来ない技術なので、長野の方で加工していただいています。昨年あたりから近所の農家さんにお願いはしてみてるんですが、旬のものを期間限定で使う、というところに留まっていますね。

かねあい・あい:僕は事前にもいろんなお話を聞かせていただいたんですけど、本田さんは食に関して、熱心にいろんなジャンルのことも学んでいて。先日もアメリカまで行って来たんですよね。

本田さん:そうですね。今でこそオーガニック、無農薬、有機農法という言葉を日本でもよく聞きますけど、アメリカは(ずっと以前から)食に対する考え方がものすごく進んでいるなぁと感じますね。実は今回、3日ほどホームステイしてきました。そんなに裕福ではないとても小さなご家庭だったんですが、1週間に1回、地元の農家さんからオーガニックな野菜が届くんですね。他の国では、ある程度お金を持っている人ほどより良い食材にこだわるのが一般的なんですけど、アメリカでは中流家庭でも意識が高い人が非常に多いです。
 それともうひとつ、スーパーに行って感じたんですが、数年前は「オーガニック」というディスプレイが多かったのに対して、「ローカル」という表記が増えてきているなぁ、と思いました。それは日本にある「地産地消」という考え方というよりは、自分たちの食べ物は自分たちで守って行くという考え方なんじゃないのかなぁと。いろんなところから食べ物が届くけれど、本当に食べたいものはそれなのか。自分たちの身体に入れる物は自分たちでお願いして農家さんに作ってもらうべきだ、と気付き始めているのかもしれません。そのことで自分たちが幸せになるし、農家さんも幸せになれる、と。

かねあい・あい:音楽もそうですね、CDを聴いてコンサートに来て、そうやって価値を見いだしてくれる人がいないと、僕らは何も作れないので。需要と供給を意識しながら地元に投資するという気持ちがないと、例えば良い野菜、良いスイーツも生まれなくなってしまいますよね。お互いにそういうことを考えていければいいのかなって。

HARCO:砂川は、人口あたりの公園の面積が日本一広い街であり、そして自然や農耕地も非常に多いということも聞いて、ここにやってきました。今日は「食」の話でありながら、その自然の土台となる土から実際に食べ物を作っている現場の皆さんのお話や、特産品の話もたくさん聞けたのがとても嬉しかったです。ありがとうございました!

 この日のトークでは、砂川のスイートロード、カントリーロードを中心とした話題から、アメリカのオーガニック志向についてまで、「食」にまつわるいろんなお話を聞くことができました。そして僕にとって、今までの人生で一番おいしいアップルパイとトマトジュースに出会えた1日でもありました。ちなみに現在、我が家の食卓のお米は「ゆめぴりか」です。

 次回はおなじく「きこえる・シンポジウム×かねあいキッチン 2013 冬 in 砂川」から、アレクサンダー・テクニークのワークショップやライブのレポートをお届けします。




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