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Vol.38 とんもり谷戸の蛍

  • 2013年7月11日

 先月の終わりに、蛍を見に行ってきました。きっかけは前回も登場した父からのメール。「近くでホタルをみたよ」というタイトルでした。
 場所は、僕や父の住むそれぞれの家からほど近い「とんもり谷戸(やと)」という里山だそうです。住宅地のそばに、湧き水が流れる用水路が続いているのですが、そこに尾瀬のような木道が張り巡らされていて、車の通りも少ないので静かな散歩ができます。
 もともとは手入れの届かない雑木林だった場所を、自然環境学習の場として未来に繋げようと、地域の方が中心となって20年近く前から活動を始めています。日頃から川のお掃除や下草刈り、間伐などの手入れをして、光や風の調節を行い、豊かな生態系を育む環境になっていったそうです。

 そこは都心からさほど離れてはいないので、メールを見たときは疑ってしまったのですが、実は蛍スポットとして少しずつ広まっている場所のようです。僕は蛍の光を、どうやら5歳くらいの頃に九州の祖母の家の近くで見ていたらしいのですが、残念ながらあまり記憶に残っていません。というわけで、「蛍さん、あらためてはじめまして」の気分で向かいました。しかし6月上旬がピーク。時期的にもうダメかも、という不安もありました。
 夜20時過ぎ、真っ暗ななかをそのとんもり谷戸へ入っていくと、いました!小さな灯りがフワフワ〜とひとつ、こちらに向かってきます。まるで指揮者がゆっくりとタクトを振るように、滑らかな動きを伴いながら、点いたり消えたりを繰り返します。蛍が上を通ったときに見上げると、ずっと先の星の灯りとちょうど同じくらいの大きさでした。
 そのうちに2匹、3匹と増えていきます。この日は全部で5匹くらいでしょうか。今年一番多いときは、同じ場所で250匹ほど観測できたそうです。さらに田舎の方に行けば、光の束に見えるくらいのたくさんの蛍に会えるのかもしれませんが、ここでは1匹1匹が貴重な存在。採取をしない、無闇に刺激しないなどの、観察する側のマナーが肝心です。

 近年、自然保護の高まりで東京近郊の川や用水路がきれいになっただけではなく、それに合わせて蛍の養殖や放流を行っている川も増えてきているようです。それでも昔のように、蛍が住めるような豊かな生態系を長年保っていくのは、並大抵のことではないと思います。
 そもそも蛍が減ったのではなくて、蛍のいる環境と生活環境が大きく隔たるようになってしまった、と言う人もいます。たしかに、都市と自然を日常と非日常のように分けるのではなく、日々の始まりや終わりにさりげなく自然のなかに分け入っていける環境や、心の余裕を普段から持ちたいものです。
 これからは年に1度だけでも、ひとつの光に出会える幸せを楽しみにしようと思いますが、せっかくなら光の(幸せの)洪水も味わってみたい!足るを知らないわけではないですが、人間としての贅沢な気持ちも抑えきれない、そんな夏の一夜を過ごしています。




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