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Vol.34 種市、「タネが危ない」、古来種野菜とF1種

  • 2013年5月16日

 4月27日と28日の2日間に渡り、東京・吉祥寺で「種市 - 古来種ファーマーズマーケット」という催しが行われました。これは昨年末の「きこえる・シンポジウム」に出演してくださった古来種野菜を広める活動をしているwarmerwarmerの高橋一也さんと、吉祥寺を拠点にマクロビオティックの企画や研究をしているORGANIC BASEの共同主催によるもので、トークショーや写真展、マーケットなどいろんな出し物が吉祥寺の街を舞台に繰り広げられていました。
 先日の高橋さんのお話にもあった通り、日本で昔から受け継がれてきた古来種野菜は、自家採種して育てていた方々が高齢化を迎え、大都市に一般流通する野菜としてはほぼ停滞しています。しかし同時に、巨大企業による「種のグローバル化」を扱った映画が作られたり、伝統野菜として各自治体がその土地の在来品種の野菜を指定登録するようになるなど、本来の「種」の姿に次第に注目が集まっているのも事実です。

タネが危ない  僕は28日のお昼だけ参加することができたのですが、野口種苗研究所代表の野口勲さんによる「今、タネが危ない」という講演会を聞きに行きました。(「タネが危ない」という本がすでに出版されており少し予習できたのですが、それでも僕のような素人にはかなり難しいテーマで、大学の農学部にちょっとだけお邪魔したような気分になりました。)会場には僕と同じくらいの世代の方が100人ほど商工会議所のホールに集まっていて、その関心の高さにも驚きました。
 野口さんは農家に種を販売するいわゆる「タネ屋」に生まれました。野口種苗では今も全国各地の伝統野菜、在来種、固定種、つまり古来種野菜の種を中心に扱っています。Vol.27でも取り上げましたが、大手の種苗業界ではおもに「F1」という自家採種の出来ない1代限りの種を扱っており、現在のスーパーで売られているのは、ほとんどがこの野菜になっています。
 野口さんはなるべく多くの人が、古来種野菜を育ててその種を自家採種し、各地の伝統野菜を守っていって欲しい、その本来のおいしさに気付いて欲しいと語ります。そしてあるとき、自分がこだわって昔ながらの種を販売し続ける代わりに、現代の主流になっているF1のこともきちんと勉強して、その違いについて深く考えてみようと思ったのだそうです。

 F1は正式には「first final generation」と言います。昔から、同じ野菜でも形質や味などの違うもの同士を掛け合わせると、メンデルの法則によって優れた野菜が現れ、その優れたものだけを土地の風土に合わせて品質を固定していく、いわゆる「固定種」という野菜は存在していました。1960年頃から急速に普及し始めたF1の場合は、さらに遠く離れた系統同士を掛け合わせ、最初の一代目の種のみ雑種強勢という作用によって、生育が良くて収量も多く病気にも強い、つまり大量生産に適した野菜が生まれる性質を利用します。実際に種苗会社ではどのような方法で、大量の交配種の種を採っているのでしょうか。
 一番基本的なF1の作り方は「除雄」(じょゆう)という方法で、トマトの場合は花のおしべだけを抜いたり、スイカの場合は雄花だけを抜くか、咲かないようにします。そうやって自分の花粉で受粉をさせないようにして、そこに遠い系統を受粉させて強い雑種を作っていきます。
 白菜やカブといったアブラナ科の野菜は「自家不和合性」と言って、自分の花粉がめしべについても受粉しない性質があるのですが、つぼみの段階では実は受粉が可能なのです。そこでつぼみを開いてあえて自分同士で人工授粉させたものたちを、交配させてF1種子を作ります。
 そして近年は「雄性不稔」という方法が主流なのだそうです。これははじめからおしべのない花を持つ突然変異の品種を探し、その品種と別の品種を掛け合わせて交配させていく方法です。
 ちなみにレタスやマメ類など、F1がまだそんなに作られていない種類もあるのですが、研究は常にもの凄い速度で進んでいるので、どんどん登場してくるだろうと言われているそうです。日本人にとって重要な「お米」も、海外では雄性不稔によって掛け合わされたハイブリットライスがすでに作られているので、TTPの交渉が一段落した後は少しずつ輸入されてくるかもしれません。

タネが危ない この日は他にもいろんなお話を聞くことができましたが、続きが気になる方は野口さんの本を手に取ってみるか、講演会にぜひ出かけてみてください。
 普段スーパーで買って食べている野菜の種が、どんな風に作られているのかというのは、意外と知られていないのが事実です。それは野菜に限らずお肉もそうですし、ドリンクやお菓子、レトルトやカップラーメンなど、僕らの口に入るあらゆるものが、どのような行程で作られているのかは自分から調べてみないと分からないだけでなく、企業秘密の部分もたくさんあるということと、同じことかもしれません。
 巧みな品種改良でさまざまなイノベーションが生まれる昨今、僕はどの野菜を食べるのも自由だと思います。でもたまには地産地消として地元の伝統野菜を購入したり、例えば古来種の種を購入して自家栽培してみるということも、日本人のルーツを探る意味でもとても大事なことだと思います。
 講演会の帰りに、warmerwarmerの高橋さんがこの日のために全国から仕入れた古来種ファーマーズマーケットに立ち寄りました。僕は西荻窪にある「たべごと屋 のらぼう」というお店が好きなのですが、その語源となった東京の多摩地区で多く穫れる「のらぼう菜」という野菜を初めて買ってみることができました。家でお味噌汁にしていただいたら、とてもおいしかったです。




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