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Vol.32 らくごえいが、江戸のエコ

  • 2013年4月11日

 昨年からいくつかの映画音楽を制作しています。そのうちのひとつ、落語をモチーフにした「らくごえいが」が4/6に公開され、その同日に、僕のキャリアとしては初となるオリジナル・サウンドトラックCDを発売しました。この映画は3つの短編からなるオムニバス作品で、東京芸術大学大学院の映像研究科の生徒さんたちによって作られています。監督やプロデューサーだけでなく、照明、美術、整音、編集などなど、スタッフのほとんどが芸大生の皆さんです。

 音楽は3人の監督とやり取りを繰り返しながら、実に様々な楽曲を制作しました。とくに三味線や鼓といったいわゆる「和」の楽器とのレコーディングは、貴重な体験でした。

 

らくごえいが そしてつい先日、浜離宮朝日ホールで行われた「らくごえいが寄席」にも参加してきました。これはモチーフとした古典落語を噺家さんが演じる落語会を体験することで、「らくごえいが」を2倍楽しもうという企画です。

 この日は三遊亭小遊三さんによる「ねずみ」、立川志らくさんによる「死神」、そして実際に映画にも出演されている桂三四郎さんによる「猿後家」を聞くことができました。僕は落語はどちらかというと本で読んだり、映像を見たりということが多かったのですが、これを機に寄席にもたくさん通ってみたいなぁと思いました。

 ところで落語が世に広まったのは江戸時代中期だそうですが、噺のなかで当時の生活を垣間見ることができます。たとえば時刻を表す言葉はよく出てきます。明六ツに夜明けを告げる鐘が鳴り、暮六ツで日が暮れます。日中になると他にもいろんな呼び名があるのですが、季節それぞれの日の長さによって一刻の長さが変わるので、現代人よりは自然のサイクルに沿った生活をしていたと言えます。もちろん秋や冬は夜が長いので、そんなときにこそ寄席に出かけて、行灯の小さな明かりのもとで楽しいひとときを過ごしていたのかもしれません。

 

頭のいい江戸のエコ生活 もっといろいろと江戸時代、とくに「江戸」の生活を調べたくなって、1冊の本を読んでみました。江戸文化研究家である菅野俊輔さんの「頭のいい江戸のエコ生活」です。

 実は、江戸時代はとても計算された循環型社会だったということはちらほら聞いていたのですが、資料としてじっくり読んだことは無かったのです。実際に本を開いてみると、生活の知恵に気付けるうえに落語の背景が細かなところまでたくさん見えてくるので、一石二鳥な気分でついのめり込んでしまいました。というわけで、この本の中身を少し紹介したいと思います。

 当時は量産技術がまだそれほど進んでいなかったため、ひとつのものを直して大事に使うという文化がごく当たり前に存在していました。街を歩く行商人の種類の多さに驚くのですが、修理を担当する職人の割合も多く、たとえば鋳物師は鍋や釜を作るだけでなく、お願いするとその場で即座に古くなった同じものを直してくれました。

 当時の庶民が暮らす長屋はとても狭かったため、ものをあまり持たない生活というのも心がけていました。とくに夏の蚊帳、冬の火鉢や炬燵などの季節用品は、損料屋というレンタルショップで済ませたりしていたそうです。

 得意分野はそれぞれの人にまかせるという文化は「食」のシーンでも現れます。江戸の女性は、家でお米を炊く以外は、お惣菜を買って来たり魚は魚屋さんに捌いてもらったりなど、そんなに突き詰めて料理をしていたわけではなかったとか。でも買いに行くというよりはやはり行商人が売りに来てくれるので、買物袋やトレイは必要なく、余計なゴミは出なかったのです。

 ところで「死神」という落語では、主人公が死神から授かったある能力を使って偽の医者を騙るのですが、その際に自分の家の玄関に小さな医者の表札を掲げただけで、すぐに最初の客がやってきます。それは多種多様な職業の人々が20軒くらいをひとつの長屋として生活し、ときにはボランティア精神を持って助け合い、素早く対応できたという背景があるのだと思います。でもこの主人公の場合はお金に目がくらんでいるのですが(笑)。

 それ以外にも灰の再利用を手掛ける業者、再生紙の職人から古着屋まで、リサイクル事業も盛んで、各々が誇りを持って仕事に励んでいました。街中にこれだけ職人がいれば、江戸っ子と職人気質(かたぎ)が同じような意味で語られるのも分かる気がします。

らくごえいが 江戸時代の話はどれも面白く、市民生活のルーツを探るのが好きな自分には合っているような気がしました。というわけで、次回も少し違った目線からこの続きをお届けしようと思います。そして前述した「らくごえいが オリジナル・サウンドトラック」もとても楽しい内容になっています。おもに僕のホームページで購入することができます。公開中の映画と合わせて、ぜひチェックしてみてください。

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