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Vol.31 エネルギー問題に効くデザイン

  • 2013年3月28日

 今回は「エネルギー問題に効くデザイン」という本を取り上げます。エネルギー問題、つまり環境や社会の問題に、デザインの分野からさまざまなアイデアを提示する一冊となっています。「デザイン」とは平面や立体をうまくレイアウトして、メディア広告やアートとして表現していくものという解釈が一般的だと思いますが、もともとの語源には「構想や計画を記号に表す」という意味があるそうです。著者は永井一史さん。ブランディングを中心とした会社「博報堂デザイン」を立ち上げ、同時にソーシャルな課題解決に取り組む活動も数多くされています。

エネルギー問題に効くデザイン  この本が出来るまでの過程は4つ。まず環境ジャーナリストの枝廣淳子さんと国立環境研究所・主任研究員の藤野純一さんを迎えた基調講演を行い、そこに参加した若手のデザイナー同士で対話をするグループワークショップの時間を持ちます。そして身の回りの様々な事象を調査するフィールドワークを各自で行い、最後は若手のデザイナー30人が自分のアイデアをひとつひとつ形にします。

 そのアイデアはどれも意表をつく面白いもの。例えば「お急ぎ便」のようなスピーディーな物流の逆を目指す「スロー便」。トラック1台分の量になるまで出発しないので、トラック3台の量の荷物が2台で済んだりします。温度で色が変わる壁を思い付いた方は、色に反応して変化する人間の「体感温度」を利用して、空調を少なく出来ると提言します。火力・原子力・さまざまな自然エネルギーのマークが付いた100個のコンセントタップがデザインされたページには、現代的なアートに乗せてさらりと現実問題を突き付けてくるところに、かなりハッとさせられました。

 たくさんのデザイナーのなかでお二人ほど、僕がまさに今一緒にプロジェクトやお仕事で関わらせていただいている方がいました。そのひとりは吉田裕美さん。吉田さんのアイデアは「すうじでエネルギーぶんぐ」という文房具ブランドです。CO2排出量、原産地からの運送距離、原材料の再生率といった3つの数値を、文房具そのものにデザインとして大胆に表示します。デザインが生活の中に溶け込んで、気付きにとどまらずに能動的に行動できることが大切、と綴っています。

 吉田さんは前々回で紹介した南三陸ミシン工房に、仕事の現場とは別で、自分のスキルを生かしたボランティア(=フラボノ)として関わっている方です。そのプロジェクトには吉田さんのデザインが随所で生きていて、斬新な発想の連続に以前から驚かされていました。被災地復興のなかでおかあさんたちが心の支えにもしてきたミシンの活動が、今やいろんなメディアで取り上げられるようになった理由のひとつは、こういったソーシャルな動きを何十倍にも広げる力を「デザイン」そのものが秘めている、ということだと思います。

 そして、もうひとりの方は柿崎裕生(ゆうせい)さん。天気予報にちなんで「地球予報」というデザインコンテンツを提案しています。テレビやスマートフォンのアプリから、地域ごとの電力情報や冷暖房の推奨温度はもちろん、その日の天候からおすすめコーディネートをお知らせしてくれたり、果ては世界の石油埋蔵量までリアルタイムで知ることが出来ます。マクロからミクロまでの情報を共有することで、地球を身近に感じて環境改善のための変化を生み出すことが出来るのではないか、というテーマのデザインです。

 柿崎さんとは、4/6に発売する僕の新しいアルバム「らくごえいが オリジナル・サウンドトラック」のお仕事でご一緒しました。ちなみに僕のキャリアのなかでも初のサウンドトラックなので、ぜひ聴いていただきたいです。柿崎さんはかつて、東日本大震災で失われてしまった風景や思い出の詰まった写真・動画を、インターネットを通じて共有するというサイトのデザインを担当されたそうです。やっぱりここでも、人と人の繋がりにデザインが大きな役割を担っているということが実感できます。

 著者の永井さんはこの本のなかで、経営学者コトラーの言葉を引用していました。「企業体がどのようなビジョンを持ってどのように社会に貢献しているのかという、大きな価値観を消費者が判断する時代がやってくる」と。その先頭に立つのが、芯のある構想や計画を持ったデザインであることは、往々にして存在するのだと思います。

 最後に僕からもひとこと、、、。「デザインって、凄いなぁ! 」

 

 <追記>
 デザイナーの吉田さんと共に僕も参加した「南三陸ミシン工房のおかあさんたち展 2013」、大盛況のうちに終了しました。足を運んでくださった皆さん、ありがとうございました。この展覧会のために制作した「南三陸ミシン工房のうた」も好評で、さっそくラジオなどでも紹介されました。もっといろんな方に聴いてもらえるように作戦を練っているところです。「デザイン」に負けず劣らず、「音楽」にもソーシャルな動きを広げる力があると信じて!

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