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Vol.27 きこえる・シンポジウム 2012 冬 その1

  • 2013年1月31日

 今回から2回に渡り、昨年12/24に吉祥寺キチムで行われたHARCO&Quinka.with a Yawn presents「きこえる・シンポジウム 2012 冬」についてお届けします。ゲストには「旅する八百屋」と銘打ち、レストランや野外イベントを通して、日本の有機野菜生産者の支援や新たなオーガニック市場の開拓をされているwarmerwarmerの高橋一也さんと、進行役としてエディターの山村光春さんをお迎えしました。

山村さん:「今日は『本当においしい野菜は“タネ”からオーガニック!?』がテーマなんですけれど、最近は有機野菜だけでなく、野菜の種のことも取り沙汰され、注目を集めています。この流れの中で、新しいことをwarmerwarmerの高橋さんがやってらっしゃる。具体的にそこらへんのことを伺っていきたいです。」

高橋さん:「今、昔から何百年何千年と続いている種がなくなりつつあるんですね。その代わり、工業化している種が多くなってきています。昔よく、歌があったじゃないですか。『お寺の和尚さんがかぼちゃの種をまきました、芽が出てふくらんで、花が咲いて』って。本来、野菜って、花が咲いて種ができて、それをまた土に入れると野菜ができる、これが本来の循環だったんですよね。今よく、スーパーさんとかでも、種なしぶどうとか、種なしの柿とかスイカって多いの、みなさん知ってます?」

山村さん:「食べてます。種があると口の中でこう……出すのがめんどくさくて。」

高橋さん:「種がないことが不思議だって気持ちを感じないっていうことなんですよね、われわれが今。野菜や果物に種がないんですよ。本来、種があって、芽が出て、また種が実を結ぶのに、その種が最初からないって。どう思います?」

Quinka:「今、私たちが食べている、普段スーパーで買っている野菜は、さっきの歌の『芽が出て』っていう野菜じゃないということですか?」

高橋さん:
「そうなんですよ。種を土にいれても芽が出ない、『F1』という雄性不稔の一代交配種の種だけになってきてしまっています。一度その種を土に入れて大根を作ったことがあるんですけど、ぐにゃぐにゃした怪獣みたいなものが出てくるんですよ。味は大根なんですが、そんなのは売れないじゃないですか。今、こういう野菜が多いんです。99%くらいはそのF1っていう種になって、スーパーで売られています。F1の種の良さは、規格がそろったりだとか、収量が上がったりとか、値段を下げたりとか、非常に畑の効率を良くするようなものなんですね。」

山村さん:「で、それを出荷しやすい、お金にしやすいと。」

高橋さん:「はい。戦前は代々昔ながらの種を大事にしていたんですが、戦争があって、食べるものがなくなった。焼け野原、どうしよう、子供にも食べさせるものがない。一つの方法として、品種改良してどんどん食べ物を分け与えていかなきゃいけない。そうしないと次の子供も生まれないし、次の日本の成長もないということで、食料戦略としてそのF1という種が生まれてきて広がってきたんです。」

HARCO:「普通のスーパーじゃなくてオーガニックスーパーでもF1が多かったりするんですか?」

高橋さん:「多いですね。ヨーロッパやアメリカからお客さんが来て、たとえば日本のオーガニックスーパーに行くと『この野菜、ロウで作ったの?』って言われるんですよ。『みんな形がおんなじ。自分の国のオーガニックスーパーは、規格がばらばらだよ、多様性があるよ』って。人間もそれぞれ顔や性格が違うように、野菜って本来、形がみんなばらばらなのに、なんで日本のスーパーマーケットやオーガニックスーパーってこんなに形が同じなのって。」

Quinka、山村さん、高橋さん、HARCO・写真撮影:道 明利友さん
左からQuinka、山村さん、高橋さん、HARCO/写真撮影:道明 利友さん
 

高橋さん:「たとえばこのふたつ、おなじ紅芯(こんしん)大根なんです。皮が白いのと赤いのがあるじゃないですか。でもレストランさんとか、いろんなところに持っていくと、紅芯大根は全部皮が赤くなきゃだめだって。でもいろんな形があって、小さいのが出てきたりとか、長細いのが出てきたりとか、白いものや、成長が早いのとか遅いのとか出てきたりとか、普通なんですけど。もう、それが規格を求められたりとか、全部同じじゃなきゃだめだって。」

HARCO:「今日は高橋さんに持ってきていただいた昔ながらの古来種野菜を、kaonn(カオン)さんに調理していただきました。今からその料理をサーブしていきますので、存分に味わっていただきながら、こちらは引き続き話を進めていきたいと思います。」

写真撮影:フタキダイスケ
写真撮影:フタキダイスケ
 

高橋さん:「今日は全部、長崎の雲仙市で活動している、岩崎政利さんという方のお野菜を使っていただいたんです。これも何百年何千年と種が続いている野菜なので、食べると味が濃いと思います。それと体が喜ぶ。」

山村さん:「雲仙で、その生産者さんはあえて古来種を使って、ずっとやられているんですか。」

高橋さん:「そうですね。もう30年なんですけど、種を守る活動をしている方で。種を守るために野菜をつくってる人ですね。野菜をつくりたくてやってるわけじゃなくて、種を来年再来年残すために野菜をつくるっていう。できた作物から種を取るには、その後もつくり続けないといけません。」

高橋さん:「今日の食材は、紫色のスープの手前にある皮が赤いものが『ゆるぎ赤かぶ』というかぶですね。その下にあるのが『花芯白菜』という、今の白菜より長細〜い白菜なんですよ。長過ぎて段ボールに入らないから、流通に乗らない珍しい野菜。中まで太陽に当たっているんで甘いです。それと先ほど見せた赤い『紅芯大根』。にんじんが『黒田系五寸』というにんじんですね。これも代々ずっと種をとってる野菜。あと『紫さつまいも』がスープになってます。中まで紫色で、昔からずっと続くさつまいもなんですよ。これ、昔の人はふかして蜂蜜とわさびで食べたんですって。」

山村さん:「蜂蜜とわさび!?」

高橋さん:「そう。蜂蜜をかけて食べるか、わさびをつけるか。」

山村さん:「どっちかなんですね。すごい斬新な食べ方かと思いました(笑)。」

高橋さん:「蜂蜜をかけるっていうのは、もともと羊羹の原点だった。羊羹って、さつまいもをふかして蜂蜜をかけたのを、だんだんと練りこむようになって形にしていったものなんですね。このさつまいも自体はそんなに甘いってわけじゃないですね。今の(多く出回っている)さつまいもは甘くないと売れないから、品種改良して、種の段階から甘くしています。それとマフィン。古来種がいろいろ入ったマフィンですね。この水菜とか入ったりしてる。」

山村さん:「マフィンに水菜が入ってるって、斬新な発想ですけど!」

写真撮影:フタキダイスケ
写真撮影:フタキダイスケ
 

kaonnさん:「今日の野菜たちは、わりと料理人泣かせのような気がしていて、今までしてきたことが必要ないんじゃないかって思うくらい。だけどすごく向き合って、どうやっておいしさを引き出してあげられるのかを自分なりに工夫して、高橋さんとも相談しながら今日のメニューを決めました。素揚げをしたものと、生のもの、そしてマフィンとスープはいろいろと手を加えました。それぞれの味を楽しんでいただけたらと思います。」

山村さん:「では、改めてお話の続きを。最近の話題といえば、このあいだの選挙、みなさん行かれました?マニフェストがいろいろ取り沙汰されたなかで言われていたTPPの問題、みなさんも選挙のときに聞かれたことも多いんじゃないかと思うんですけど。」

高橋さん:「わたしは実は農林水産省登録の有機農産物の検査員をしていて、有機JAS認証とか、オーガニックマークってあるじゃないですか。ああいうマークって、もともとTPPをやる前提で国がずっと動いてたんだと思います。日本というのが工業製品を海外に輸出する代わりに、農産物を輸入しなさいって法律ができたりとか。海外、とくにオーストラリアやアメリカからどんどん入ってくるじゃないですか。それを政府がよしとしながら、なんとか人として食べ物を確保できるようにしていこうと。現に、海外からたくさんの輸入ものが入ってきてますもんね。」

HARCO:「今、日本の自給率が40%くらいで、残りの60パーセントは海外ですよね。安倍さんは、例外なき関税撤廃をやめて、なるべく守るところは守ると言っていますけど、どうなるかは実際わからない…。」

山村さん:「デメリットというか、リスクのほうがあると思いますか。」

高橋さん:「やっぱりありますよね。生産者がなぜ反対しているかというと、日本の消費っていうのは、輸入品と輸出品、2つ足しても、人間って今の2倍食べないじゃないですか。輸入品が入ってきたときに、いろんな付加価値をつけて輸出したらいいって言うけれど、人は食べる量がだいたい決まっていて、合計消費量っていうのは変わらないので、やっぱり安いほうにどうしても流れていくっていうんですよね。そうすると、日本の有機農業生産、普通の農協に入ってつくってる方っていうのは、どうしても最終的に価格での競争になってしまうんですよね。中国や韓国からどんどん外食産業にいろんな食料が流れてきてて、1/3くらいの価格で外食産業に流れてきているわけですよ。」

写真撮影:フタキダイスケ
写真撮影:フタキダイスケ
 

山村さん:「なるほど。そういう危機感を感じている。」

高橋さん:「すごく感じてます。たしかに目を瞑って、海外のお米や大根や人参を食べても変わらないんですよね。一度カリフォルニアのコシヒカリと、中国のコシヒカリと、日本のコシヒカリ並べてみんなで食べたんですが、どれもおいしい。繊細な味がわからなくなってしまってる。これが国産でこれが中国米でこれがアメリカ米って言われても、もう舌がわからなくなってるんですよね。(チェーンの外食業界は)海外産のお米ばかりじゃないですか。」

HARCO:「え!そうなんですか。知らなかったです。」

高橋さん:「今はあまり格差ってなくて、いろんな技術が発明されて、味や品質がどんどん上がってるんですね。」

山村さん:「効率良く安定したものをつくれるような状況になっているから余計に…。となると日本、危機ですね。日本の農業。」

高橋さん:「そうなんですよ。だから古来種とか、ヨーロッパみたいに自分たちが選択してね、買えるようになってもらいたい。TPPになっても、自分たちは国産を買うとかね。その、選択して買うという文化がまだなかなかないですよね。自分たちが買い物するときに意識しながら、たとえば今日は古来種の野菜を買おうとか、無農薬の野菜を買おうとか、誰々さんのみかん、海外のものを買ってみよう、そんな風に意識しながら。」

山村さん:「それをしないと、どんどん画一化された世界で、おんなじ大根しか食べられないようになってしまう可能性があると。そうするとやっぱり、古来種っていうものが土地と根ざして、密接にかかわってるわけですよね。生産者の中でも、この野菜の雲仙の方のように、そういう活動をされてる方は増えてきていますか?」

高橋さん:「増えてますね。特に若い有機農業生産者の方は、F1の種じゃなくて、代々培われた何百年続く種で野菜をつくりたいってみんな思ってるんですよ。東京っていうのはやっぱり消費地なんですね。東京が買ってくれないと、地方の生産者はもう一歩出れないんですよ。東京は自給率1%、全国の地方に行くと野菜が余ってる。なんのためにみんなつくってるかって、東京のためにつくってるんですよ。」

HARCO:「エネルギーと一緒ですね。でも東京の人は敏感な人も多いですからね。古来種野菜や有機野菜にもっともっと興味を持ってほしいですね。」

山村さん:「味としてもね。もっと、買うための理由っていうのを、欲しいんですけどね。」

 

 次回は古来種野菜についてさらに詳しいお話、そして高橋さんの活動の原点などについて、聞いていきます。


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